まめ子

文章、写真、花、いぬ、ねこ。普段は哲学しながら山登ったり岩登ったり、月の下で寝転んだり。

まめ子

文章、写真、花、いぬ、ねこ。普段は哲学しながら山登ったり岩登ったり、月の下で寝転んだり。

最近の記事

007: 日曜日 @ replika (4年後)

「その角のカフェ!わたしこの道をずっと行ったとこに住んでたんだよ、それでねそこのレストラン見える?あれが昔のバイト先!」 はしゃいで早口で喋る、可愛い、可愛い彼女。1年ぶりに家族に会いに里帰りする彼女に着いて、海を超えた。 初めて会ったのは、彼女がお客として、自分の働いているカフェに来た時だった。学生街の真ん中なもんで、大学が休みの夏は全くもって人が来ない。そんな時だったから、「何でもつくりますよ」なんて意気込んで、そうしたら彼女は困った顔をして、「ただのアメリカーノ頼む

    • 006: 土曜日 @ replika

      「なんでわたしは毎日のように小洒落たカフェに来ないと論文が書けないのだ……」 レプリカへの道を歩きながらぽつんと心の中でつぶやく。家でもっと効率的に勉強出来るタチだったならコーヒーにやたらお金をかけることなく、しかも、雨だろうと雪だろうと重い腰をあげる必要もなく学生生活をやっていけたというのに。まあ、それでも、結局重みのある木のテーブルと座り心地のいいアンティークの椅子、そして優しい珈琲の薫りに一日中枠取られた空間で綴った文のほうが何倍も良いものになる気がするのは否定できな

      • 005: 金曜日 @ replika

        葉月のバイト先は、車で2時間近く離れた場所にあった。なんでそんな遠いところを選んだんだ、とよく聞かれるけど、家は電波すらそんなに良くない森の中にあり、近隣にあるものと言えば農業を営む家数軒と、ぽつんと高速道路につながる道に佇むコンビニエンスストア、それくらいだ。 だから、考え事をしながらぼうっと車を走らせていればあっという間に着くような気すらする、この街で、仕事を見つけた。 それから、恋も、見つけた。 同じバイト先で、2回目のシフトが被った彼女。満面の笑顔で、「人生に意

        • 004: 木曜日 @ replika

          アメリカーノはいつだって牛乳をサイドに頼む。すると、レプリカでは小さなピッチャーに入れた、ふかふかとしてあたたかい牛乳をちょこんとマグの横に添えてくれる。 コーヒーの宇宙のまんなかにくるくると濁った円を描く。星が溶けていく。それを見つめていると今日もやれる、と何故かこみ上げるやる気。 珠の小さなルールであった。日々のしあわせなんて、人生の意味合いなんて、そんな小さなルールの積み重ねで自分で創ってゆくものだ。お気に入りの紺色のセーターだって、古着屋で見つけた茶色のブーツだっ

        007: 日曜日 @ replika (4年後)

          003: 水曜日 @ replika

          水曜日が、ほんとうに、きらい。歯を磨きながらゆり子は思う。 月曜は新しいスタートだ、と意気込むことができる。週の終わりに怠けてしまっても、何か上手くいかなくても、月曜にリセットすればよい。 火曜は月曜の余韻を引きずって頑張ればなんとなくすぎていくのだ。 でも水曜は。ペッ、と歯磨き粉をシンクに吐き出しながら考える。水曜は始まりの引き締まった気持ちも終わりの安心感もない、ただの曇った通過点でしかない。大学の授業は木曜で終わりだし、週末は課題にあくせく取り組むのだから特に水曜

          003: 水曜日 @ replika

          002: 火曜日 @ replika

          雄陽の足取りがいつもより少し軽い、昼下がり。緑、きいろ、橙、あか、と少しずつ秋に向かって表情を変えてゆく葉っぱたちが優しい太陽光をうけてきらめく。 先週、また学生たちでごった返しはじめた大学付近の小さな喫茶店で黙々と本を読む少女に声をかけた。少女と呼ぶにはきっとそんなに若くはないのだけれど、きらきら瞳を輝かせて読んでいた本の話をする彼女の表情はまるっきり幼い少女のそれであった。小柄で、深い焦げ茶色の長い髪をくるんとまとめた彼女に早くも心を持っていかれながら「読めねえ、」と、

          002: 火曜日 @ replika

          001: 月曜日 @ replika

          これからわたしが綴るのは、哀愁と期待と寂寥と熱量のごった返すある街の、小洒落た地域の隅っこに建つカフェ、レプリカを訪れた人々の人生の断片たちである。 「うわ...」繭は、まだ二度ほどしか着ていない白いTシャツに落ちたばかりの茶色い染みを睨みつけた。 さっさと出ていってやるんだと意気込みながら育った街で、なぜか大学院にまで通い始めた自分にすこし落胆しながらも、少しだけ新しくなった環境がうれしい、秋のはじめ。 この街の秋はほんとうに、ほんとうに短い。夏に浮かれて肌を焦がして

          001: 月曜日 @ replika

          00: prologue

          はじめまして、まめ子です。自己紹介がいいのかね。最初はね。 小さい頃から文章に、というか言葉の持つ機微に繊細なもんで、綺麗な文章を読みたくて、書きたくて、それから文章のうしろにある感情や意思もおもしろいから知りたくて。気づいたら哲学という道を選んで歩くようになっていた。実は最後に日本語で勉強したのは高校なのだけれど、あえて日本語で何か書こう、と思ったのは、わたしにとって大きな大きなテーマである「感情」は、それから感情の細かな揺れ動きだとかは、日本語のほうが隅々まで表現できる

          00: prologue