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太宰治について

太宰治が頭のなかにある言葉たちを話し、それを奥様が文面に起こす。そうして、太宰治の文学は完成されたという。

それゆえなのだろうか。太宰治の文章は、直接心に流れ込んでくる。直接私に話しかけてくる。直接私の頭に吸収されていく。

高校生の時、初めて太宰治に出会ったときの衝撃は今でも忘れていない。

『斜陽』。あれは、真の日本文学であり、貴族文学である。太宰の真骨頂である女主人公の一人語りで、乙女の恋、憧れ、そして滅亡を描く。目を引くのは構成しつくされたストーリーラインだけではない。それぞれの人物描写と散りばめられた太宰の思想で、読者の心をかっさらう。太宰こそが至上。唯一の理解者。主人公は私だ。太宰は初めの一行で読者を入り込ませ、そこからの緻密で感情的な描写で読者を物にする。

たった数行にして読者の圧倒的信頼を得る。最高にして唯一の小説家である。

ストーリーに感動するもの、主人公に涙するもの、言葉の美しさに感動するもの、長い本の内のたった一行に共感するもの、長い歴史の中でたくさんの名作が生まれてきた。

しかし、「一生あなたについていく」。そう思わせられるのは太宰治だけであろう。


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