【短編】文化は違えど炒める飯は世界に存在する
↓こちらの話で登場する同期2人の前日譚 ↓
同期の中澤は最近韓国語を勉強しているらしい。
他国の言語や文化に関心を持つのは大いに結構な事である。
ただし。
ツールは使い方や使い所を間違えると、とんでもない事になる。
✍🏻 ✍🏻 ✍🏻 ✍🏻 ✍🏻
僕と中澤は現在入社3年目。
お互い部署は違いながら営業マンであり、外出する機会の多い僕と中澤は時折連絡を取って昼飯を一緒に食べた。
営業と言ってもノルマまみれの物売り営業とは違い、中澤はリサーチやマーケティング、僕は御用聞きみたいな感じ。
物売り営業部門とは営業マンの配置人数も多くなく、重宝されている…のかいないのか…。
🍽 🍽 🍽 🍽 🍽
とある昼のこと。
その日も営業の合間に中澤から連絡が来て落ち合った。
「優吾、昼飯に食いたいものがあるんだ。ポックンパ」
…ここでの正しいリアクションはズバリ「は?」であると思う。
あ、もちろん韓国語に長けた方なら何だかお分かりだと思うが、多くの人は「は?」であるはずだ。
だから僕は間違ったリアクションはしていないと思う。
「は?」
「は?じゃねぇよ」
「いや、は? だろ。何だよポックンパンって」
「ポックンパだ」
「同じじゃないか」
中澤は人差し指を立て「チッチッチ」と右へ3回倒した。
「俺はポックンパ モゴ シポヨ*だ」
そこまで言われてようやく、何となく韓国語なんだろうと察する。
「韓国語か」
「そうだ」
「最初に "俺は" って言ったよな。なんでそこだけなんで日本語なんだ」
「全部韓国語で言ったら、韓国語がわからない優吾くんに対して嫌味しかないだろ」
嫌味の以前に会話が何も成り立ってないけどな!
「で、ポックンパってなんだよ」
「炒めた飯…それはつまり炒飯だ」
🏃🏻♂️🏃🏻🏃🏻♂️🏃🏻🏃🏻♂️🏃🏻
そう言って向かった先は街の中華料理屋だった。
「韓国料理屋じゃないんかーい!!」
「日本で炒飯と言えば中華だろ?」
まぁそうだけど、ここへ辿り着くまでに必要だったか? さっきまでのやりとり。
「最初から炒飯って言えば良いだろうにー」
中澤はまた人差し指を立てチッチッチとやる。
「せっかく覚えた韓国語を使いたいじゃないか」
「まぁそうかもしれないけど、全く通じてないからな? 会話になってないからな?」
「俺はただポックンパって言いたかっただけだ。なんかすごい響きだろう? ポックンパって」
なっんだいそりゃ!
貴重な昼休みの時間を余計な思考で奪うなっつーの!
そういうわけで僕らは中華料理屋でカニ炒飯にエビ炒飯、スープに餃子を注文した。
やはり中華は安定感抜群だ。ラーメンバンザイ、餃子バンザイ。
あ、今日はラーメンじゃないや。米だ。
そうだ、米バンザイ、だ。白米最高。
ビバ☆ジャパニーズ・ソウル・フード!!
🍚
…中華はどうでもよくなってしまった。
「そうそう。うち今度、課内で小チームを形成するんだけど、そのチームリーダー任されることになったんだ」
レンゲにこんもり盛った一口を頬張りながら中澤は言った。
「チームリーダー?」
「オレっち、来年は主任の道が開けてるかも」
そう言って中澤はニヤニヤした。
3年目といえば新任のOJTやら後輩指導を任されたりする世代ではあるものの、役職に就く奴は当然まだいなかった。来年というと4年目。それでも相当早い気がする。
「うちの部、優秀な若いヤツはどんどん上げていこうって流れがあって。だからうちの役職者、他の部より全然年齢層低いんだぜ。今海外セクションにいる課長ももうすぐ戻ってくるんだけど、30代なのに次長に昇格するって話だしな。ヤバくね? 30代だぜ。どんな奴なんだろうと思うとワクワクするね」
中澤のいる企画営業部は課が三つあり、今の主任は27歳、その海外にいる課長も含め全員30代半ば〜後半とのこと。
僕のいる法人営業部は役職者は40代か50代ばかり。冴えない感じの人ばかり。
そもそも企画営業部は若手と中堅の優秀な奴が集まってる印象。何というか、同じ社内でありながら文化がまるで違う。
「そもそも中澤のところ、お前の下に新卒って入ってきてないだろう? まぁうちも来てないけど…」
「中途や異動とかで来てる人が結構多いからな。社会人としてはある程度出来上がってるから、一から教えなくて良いのは楽かもな」
「にしても、お前の課はどちらかっていうと先輩ばっかだろ? それなのにチームリーダーか?」
中澤はニヤリと不貞な笑みを浮かべた。
「下克上か?」
「それもあるだろうな」
「…やりづらくないか?」
「うーん、多少あるだろうな。でもそんなの気にしてたら仕事の本質を見失うだろうな」
中澤のすごいところは、普段は「ポックンパ」に代表されるように意味がわからないことを突然言い出したりアクションしたりするけど、頭の回転が速くて弁が立つこともあり、営業成績は非常に優秀。
僕の法人営業部は割と固定客周りなのでそこまで弁が立たずとも何とかなる…。
「…なんかカッコいいこと言ってくれちゃってるけど」
中澤はニヤリと笑い、僕の皿からカニ炒飯を一口奪った。僕も反撃してエビ炒飯を狙ったが、エビが途中で落ちてしまい、僕の口に入った時はただの “エビ風味炒飯” となってしまった。
落ちたエビは中澤が速攻拾って口に放り込んでいた。
🦐 🦐 🦐 🦐 🦐
店を出て中澤は「チャーパン美味かったな」と満足気に言った。
なんだよチャーパンって!!
もう韓国語でもなんでもないわ!!!
「じゃあな優吾。たまには飲みにでも行こうぜ!」
そうして颯爽と去っていった。
羨ましいな、あのペース。
でも同時に、同期からいよいよ抜きん出ていく奴が出てくるんだな、としみじみ思った。
僕の部署では考えられない。おじさんばっかだし、ガツガツと意欲に燃えた人は見当たらない。
女性もいるけど、お堅かったり、定時でサクッといなくなる『ベルサッサ族』ばかりで、必要以上の交流はない。
こうして格差社会というのは存在していくのか…。
とりあえず韓国語を習ってみるか…?
いや、違うな 笑
END
*正しくは「볶음밥이 먹고 싶어요」(ポックンパビ モゴ シポヨ。炒飯が食べたい)となります。
ちなみに筆者は 김밥을 막고 싶어요. (キムパを食べたい)
更に調べたら世界には下記の炒める飯がありました↓
タイ🇹🇭 カオ パッド
インドネシア🇮🇩 ナシ ゴレン
インド🇮🇳 プラーオ
イラン🇮🇷 ポウロ
ウズベキスタン🇺🇿 プロフ
アメリカ🇺🇸 ジャンバラヤ
ガーナ🇬🇭 ジョロフライス
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