Malena

アルゼンチンタンゴ愛好家、ミロンゲーラ。 エッセイのようなフィクションに挑戦。

Malena

アルゼンチンタンゴ愛好家、ミロンゲーラ。 エッセイのようなフィクションに挑戦。

マガジン

  • El tren de ensueño.

    The Dream Express 続編。ミロンゲーラの視点から、エッセイのようなフィクションを綴ってみようと思います。

  • 遠くて遠くて遠い国、アルゼンチン

    ブエノス・アイレスに行きたい気持ちの溢れたエピソードを綴ります。

最近の記事

Paciencia

ビビッ。この人と踊ってみたい、3タンダ目をご一緒した時わたしは思いもよらないことを言っていた。 「次のアジア大会、一緒に出てくれませんか」 少し間があって、こう返ってきた。 「ムンディアルのアメリカ予選ならいいですよ。来られますか。」 引越し予定が決まっているということだった。1週間後に答えを持ってくる約束をし、私は悩んだ。行けないことはない。でも3回しか会ったことのないこの人を信じていいのだろうか。悩んで悩んで悩んで、1週間後、私は行かない決断をした。 数日後昼休み、

    • Vals

      休日出勤。朝から予算書と格闘し、会議資料を二つまとめた。オフィスには誰もいなくて、私のデスクにだけ電気がついている。ベストは尽くした、でもなんだか虚しい。。 パソコンを閉じてミロンガへ。銀座の奥まったところにある雑居ビル。着いた頃にはもう21時半を回っていて、熱気に溢れていた。 "なぁに、今来たの?" 踊らなくてもいい、この空気、この音楽に囲まれて自分に帰りたかった。とりあえず一息。ワルツがかかり、カベセオが飛んできた。あ!台北のミロンガでお会いしたミロンゲーロだった。 派

      • ワープ

        東京都心の再開発。高層ビルが立ち並び、空が狭かったエリアが大規模工事を始めた。大きなビルが一斉に壊され、ぽっかり空に穴が空いた。歩道橋から見下ろせば深くて暗い穴が掘られている。地下深くまで杭を打ったり、地下階を作ったりするのだろう。 雨の日、空からの雨は穴に吸い込まれていく。仕事帰りにその穴を見下ろしていると、急に静寂が訪れた気がした。今、ここからこの穴に飛び降りたら地球の裏側までストンと落ちて行ける気がした。ヌエベデフリオ大通りのあのガタガタ道の穴にぽっかり顔を出せるよう

        • Mal de Amores 十年後…

          友達が青山でソロコンサートをやるといい、私は招待をうけました。ピンヒールに紫色のショートワンピース、紺のジャケット、コーチのバック。そんな姿で地下のバーに降りていきました。 会場はもう満員。その中には何人かの見知った顔がいました。背中の方から視線を感じて振り返ると、みたとこあるような見たことないような大柄の男性がこちらを見ています。誰だろう? こっちー!と呼ばれて空いている席につきました。  ねぇねえあそこにいる人Eさんだよね?  ホンモノだよね。 え?聞こえてきた声に驚き

        マガジン

        • El tren de ensueño.
          9本
        • 遠くて遠くて遠い国、アルゼンチン
          2本

        記事

          Mal de Amores 数週間後

          数週間後、一度だけ電話が鳴りました。電話の主はE君。  タンゴだけ踊ってりゃいいんだよ 少し酔った声でそれだけ言って電話は切れました。その日の晩、私は夢を見ます。 美しい光を纏った女性が現れて私に言うのです。  ごめんなさい、あなたは私に尽くす運命なの  踊らなくてはいけないのよ 少し悲しそうに、少し厳しく… 目が覚めて、携帯電話から彼の連絡先を削除しました。 https://youtu.be/-NkBUPbBXjM

          Mal de Amores 数週間後

          Mal de Amores

          社会人3年目、数ヶ月、残業をする毎日が続いていました。毎日クタクタ。はぁ…溜息の出ない日がありません。 プルル… お疲れ様、仕事終わったとこだよね?ちょっと話そ。 このところこの時間を狙ってタンゴ仲間のE君が携帯を鳴らします。私が日本橋から大手町までの一駅を歩く間、ちょっとだけ。この電話が私を仕事モードからオフモードに切り替えてくれる。大事な、ちょっと特別な友達になっていました。  彼は普段は元気そのもの。でも時々突然体が言うことを効かなくなるときがありました。予兆な

          Mal de Amores

          続けるという選択

          週一回通い始めて一年ほど経った頃、通っていたクラスがスタジオの都合で終了することになりました。仕事の都合でちょうど良い時間・場所だった私はショックでした。せっかく楽しくなってきてある程度踊れるようになって、そこにきていたメンバーの個性豊かさも心地よく思い始めていたからです。  クローズの案内を聞いた日、「私これからどうしたら?」と先生に問いかけました。「どこかよそのクラスを探してあげようか」先生はそう言ってくださったけれど、不安は消えずにいました。 翌週、クラスの中で年

          続けるという選択

          ファーストシューズ

          今日はバレエ。でも場所はタンゴスタジオ。レッスンが終わってちょっと一息、お茶を飲んでおりましたら、目の前にスッと靴がやってきました。真紅のCome I’ll Fault。 「これ、似合うと思うんだけど」 そうなったら足を入れないわけには行きません。みんなが見ているなか、履いてみるとぴったり。シンデレラシューズでした。黒いストラップのサンダル型。それまで社交ダンス・ラテンのシューズだった私にはその洗練された美しさに見惚れてしまったのでした。 でもお値段高い… Come I’ll

          ファーストシューズ

          エセイサ国際空港

          「おかえりなさーい」 エセイサ空港の駐車場で、黄色いバンの運転席からユカさんが手を振っている。 「仕事どうだったー?わざわざ休暇中に出張しなくてもねぇ。」 「うーんでも、日本まで帰るよりはね。」 どうやらブエノスに来て数日の休暇を過ごした後でサンノゼに行ってきたらしい。某社のカンファレンスで登壇後再び休暇に戻ってきたらしい。って私の中にはブエノスの休暇の記憶がない。どこのミロンガに行ったかも、何を食べたかも、誰に会ったかも記憶にない。せっかくブエノスに来たというのに覚えてな

          エセイサ国際空港

          引き寄せられるように

          ミロンガデビューを知った教室の先輩がミロンガのお誘いをくれました。 「すごくいいデモが見られるからいらっしゃい。」 2回目のミロンガはそうして決まりました。ミロンガは大賑わい。明るくてフレンドリーで1回目とはまた違った雰囲気がありました。  その日のデモ。スラリと美しい2人が踊ったのはディサルリでした。インプロのサロンタンゴはとてもエレガントで美しく、夢があって、愛があって、言葉がありました。一歩一歩に2人のやりとりがみえ、アドルノに駆け引きがあり、コミュニケーションがあって

          引き寄せられるように

          扉の向こうに

          タンゴを初めて半年、ミロンガというものがあることを知りました。行ってみようかな…と問い合わせをしてみたら、見学でもどうぞとの返事。 渋谷駅東口。賑やかなエリアを抜けたあたりの細くて小さな古いビルの4階。階段を登って、少し重たい黒い扉をおそるおそる開いてみてびっくり。なにか大人の、いけないところに来てしまった気がして一度扉を閉めたのでした。いやいや、行ってみようと勇気を出して中へ。丸くて大きな目の女性が 「ミロンガデビューおめでとう。」 そう言ってあたたかく迎えてくれました。

          扉の向こうに

          夢の配達員

          なんでも夢を叶えてあげよう! 福引にあたって、私の前に現れた初老のおじさんはそう言いました。 -君が好きなことは?君がやってみたいことは? -踊りが好きなの。この間テレビでアルゼンチンタンゴというのをみたんです。とってもカッコよくて、私もやってみたないな、って。 そんな書き出して始まったショートストーリー。ステッキをトントンと打って連れて行かれたのはブエノス・アイレスの夜でした。星空の下で老若男女が楽しそうに踊っていて、その中にいた一組のカップルに促されるように踊り始めた

          夢の配達員

          はじめまして

          むかしむかし、ひょんなことからお芝居を書いておりました。自分で書いた本に飲み込まれるように、ミロンゲーラになり今に至ります。 長らく筆を置いていましたが、友人にねぇ、ちょっと書いてみてよ。と言われてNoteをはじめてみることにしました。誰かの気持ちにあかりを灯すような、現実的で幻想的な一瞬を切り取れたらと思います。

          はじめまして