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「生物と経済はべき乗則でスケーリングし,空間充填フラクタルネットワークで説明できる」という理系的脳汁本を読んだ

『スケール 万物を支配する「大きさ」の法則』を読んだ.スゴい本だった.レジェンド本入り決定.

ざっと要約すると,「生物と経済はべき乗則でスケーリングし,それらは空間充填フラクタルネットワークで説明できるのでは」という内容だった.

かつての理系としては,久々に知的好奇心によるワクワクと,わからなさというモヤモヤを感じ,やっぱ数学や科学っておもしれーなと思った.

なにより,執筆時に75歳の著者が,理論物理学と複雑ネットワークの研究を通して感じた,喜びと感謝,そして大きく変わりゆく科学や社会への意見と疑問が随所に展開されており,視野や見方を広げてくれた.


べき乗則スケーリングとフラクタルネットワーク

本書のメインは,「生物や都市は,べき乗則でスケーリングする」というもの.たとえば,「生物の代謝」は重さの3/4乗でスケールする.また,「都市のインフラ(ガソリンスタンドの数)」は人口の0.85乗でスケールする.これらのパターンは,フラクタルネットワークによる空間充填というモデルで8割くらい説明できるらしい.このフラクタルネットワークとは,「エネルギーや資源の供給」を最大化するように進化した結果だそうだ(インピーダンス整合のための面積保持分岐とやらで説明できるらしい).そして,このモデルから理論的な限界を導くことができる.

本書の重要な指摘

本書は,あくまで「議論のたたき台」として書かれているため,厳密ではない点はある.しかし,いくつか重要な指摘を投げかけているので,以下にまとめる.

・生物,経済ともに,べき乗則でスケーリングしているのに,線形としてみなしすぎ.(投薬量の決め方,一人あたりGDPなど)
・生物業界は実験に偏りすぎ.理論による仮設発見も大事だと思うが評価されないため誰もやれない.
・科学全般として,複雑系を無視しすぎ.現実世界は複雑系だらけなのに.
・ビックデータ分析は,相関の集合は因果に勝るとしているが本当か.

おわりに(人口減少って思ったよりヤバい)

本書を読んで,人口減少って本当にヤバいんだなと認識した.今の資本主義をベースとした社会構造は,人口減少フェーズにおいて,とても厳しく作用してしまうようだ.

同一国内において,都市の経済は人口に対しべき乗則でスケーリングする.具体的には,経済は1.15乗で,インフラのコストは0.85乗でスケールする(国によって指数が変わる).よって人口が増加すると増加幅以上のプラスを生むが,人口が減少すると減少幅以上のマイナスを生む.

つまり人口減少により,政府や自治体の歳入と歳出のバランスは減少幅以上に悪化することが示唆される.よって,このまま人口減少が続くと,社会インフラが維持できなくなると予想される.

この人口によるべき乗則スケーリングの力学は国や都市だけでなく,全ての組織で起きていることだと思う.だから,人が増えている組織はどんどん上手く機能していき,減っている組織はどんどん機能しなくなる.組織の人口ピラミッドをみて,減少していくのか,増加していくのか,見極めたほうがムダに地獄をみなくてすむと思う.

なんてね.「鳥の目」でみるとそうなるという話.「虫の目」で社会を眺めれば,家庭菜園や小規模の兼業農家やシェアエコノミーなど,データにならない社会がたくさんあるわけで.たとえ社会インフラがだめになっても,世界に知恵はころがっているし,日本は世界トップレベルの自然環境と水資源を持っている.システム依存をやめてDIY的コミュニティをつくることが,人口減少社会での生き方なのかもしれない.

いやあ,それにしてもスゴい本だった.次から次へと考えが浮かんでくる.こんな本を世に出してくれた関係者の皆様には感謝します.

以上です.最後まで読んでくれてありがとう.

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