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最初に「できると思う」がある〜本気の楽天家に、悲観論者は勝てない(インド人リーダーシップ論 #7)

インド人リーダーの7つの特徴について、自分の体験を紹介していく。今回は、3つめの特徴、「失敗を恐れない突き抜けた楽観性を持つ」について取り上げてみよう。前回、前々回で「現実に左右されず巨大な野望を抱く」、「無理に思えることを可能だと思い込ませる」というインド人リーダーの、現実に縛られない夢想的でいい意味で強引な点を書いたが、今回のポイントもこれらと関連する話だ。

ほとんどの議論は「できる」を前提に進める

物事を進める時に、びっくりするほど失敗を恐れないのは、インド人リーダーの最大の特徴かもしれない。ほとんどの議論は「できる」前提で進める。意外にも彼らはリスク分析が大好きで十分な時間を費やす。だが、それも基本的には「やらない理由」を潰して反対者を説得し、チームを「やる」ことに前向きにさせるためのプロセスとして使っている印象だ。

これまで幾度となく会社のビジネス戦略会議に参加して、インド人v.s.非インド人のリーダーの間で繰り広げられる数々のドラマを見てきた。カクタスは世界7か国にオフィスがあり、毎年各オフィスの責任者がインドに集まり次年度の目標について話し合いを行う。毎回恒例のターゲット設定の議論では、売上だけでなく新サービスや新事業の立ち上げなど壮大な目標がインド人リーダーから提示される。「本当にできるか?」という疑問は当初から議論には挙がらず、できることを前提として「どうしたらできるか?」から話が始まる。そして、毎回驚くのだが、会議に参加する多数のインド人社員はこの前提に疑問を抱いていないのである。

東アジア人対インド人の「想定される失敗」をめぐる攻防

問題は非インド人の社員たち、特に日本・中国・韓国の東アジアマーケットの責任者たちとの合意だ。最初にインド本社がグループ全体のターゲット作成し、各マーケットに数字を落としていくのであるが、楽観的なインド本社では比較的すんなりとターゲットがクローズされる。ノリノリのインド陣営を迎え撃つのは慎重でターゲット達成に忠実な我々東アジア勢。ほぼ例外なく「その数字は高すぎる」という一言から議論が始まる。私も以前はこの一派であって、「いやいや、現実を直視してよー。絶対失敗するに決まってるよ!」と猛反発していた。韓国・中国の責任者も同様の反応だ。

東アジア系の社員は目標に忠実で、失敗とバクチが嫌いだ。一度合意したターゲットは確実に達成したい。だからこそ、現実的なターゲットほどやる気を引き出しやすいのだ。当初、インド陣営はそんな私達の東アジア・メンタリティが理解できない様子だった。創業者はあまりにもネガティブコメントを連発していた私を途中会議室から引っ張り出して、「なんでお前はそんなにネガティブなんだ!たいしたことないことにそんなに怒って。一体どうしたんだ、何か嫌なことでもあったのか?」と、斜め上の方向から本気で咎められたりもした。

本気の楽観論者に、悲観論者は勝ち目がない

そもそも楽天的な自信家に、悲観的な心配性の人間が勝てるわけがない。彼らは、「自分には人を説得できる」という自信もあるからだ。実際、私がどれほどネガティブなコメントをしても、ほとんどの場面で最後はYESと言わされている。彼らの説得の仕方はこんな感じだ。

「数字を見てもマーケットはあるし、必要な人材は採用した、必要な予算は確保した、必要なサポートは用意した、そして君という最大の武器がいるではないか?」

「我々はこれまでも成長してきたし、困難な事も克服してきた。だから途中難問が来てもきっと乗り切れる。大切な事は自分たちを信じて最後まで試行錯誤しながらやり続けることだ。」

「リーダーの仕事はその方向が正しいかを見極め、皆で議論し、必要であれば軌道修正をしていくことだ。我々も一緒についていくから心配しないでアクセルを踏んで欲しい。」

とまあ、このような調子で続けられると、大半は途中で落ちるものである。一見、「言うは易しだよな」と思うかもしれないが、彼らは彼らで本気であり、本気で「できる」と思っているからこその離れ業なのである。

やる前から達成の喜びを分かち合う儀式

そんな「ネガティブな日本人」の私がいつの間にかインド式経営に洗脳され…、もとい、インド式経営方針を受け入れ、自分でも取り入れるようになったのには、インド人リーダーたちとのイメージトレーニングの影響が大きいかもしれない。彼らの頭の中では、想像した時点で既に目標を達成しているのだ!

カクタスの取締役会議ではよく、「目標を達成したらどんな自分/会社になっているか?」を一人一人に考えさせ、発表させるというイメージトレーニングを行う。この一人一人に自分自身の成功を妄想させる、というところがミソなのだ。「自分たちが開発したサービスが売れに売れたので、社長から特別表彰を受けた。そして来年度から新たにサービス開発チームを立ち上げる事が決まり、その責任者に任命された!」「ターゲットに対して120%を達成して、チーム全員でゴア(インドのリゾート地)にボーナス旅行へ行った。家族も連れていけて子供たちが大喜びしていた!」などなど、それぞれが妄想を膨らませる。そんな仲間の発表に、それは素晴らしい!いいね!と拍手と共に共感しあい、気が付くと皆その気になっているのである。

「どうやって達成するのか?」についてはあえて細かく議論しないで、あくまでも達成した時の喜びを先に分かち合うところがポイントだ。物理的には存在しない飴をもらった気になり、味を想像して喜びに浸るかのような一見奇妙なごっこ遊びのように見えるが、イメージの力は意外と侮れない。「ああ、またやられたな」と心の中で思いつつも、「確かに達成した時の自分を想像すると悪くないな。ボーナスもたくさんもらえるし(笑)」とプラス思考で頑張ろうという気持ちになるのだ。

最初に「できると思う」がある

考えてみれば、「失敗する」も「できる」も結果であり、その前に「できると思う」という意思が必要だ。そして、実際にできると思ってやってみなければ失敗にも成功にもたどりつかない。私は「できると思う」ことに関してインド人の右に出る者はいないと感じている。何もこれは会社のターゲット設定に限ったことではない。インド人の同僚や友人の中には、なにか新しいスポーツや楽器などの習い事を始める前に、「やったことはないけど、自分ならできると思う」という人は多い。私の場合、始める前から不安で、少し間違えると「また間違えた、自分は無理かも」と諦めてしまいがちだ。ビジネスでも同じで、問題がない時ですら「自分には何もできてない、会社に全く貢献していない」と落ち込みがちだが、インド人の同僚たちは「俺がやる!」と自信満々に手を挙げ、小さな達成にも「ほらすごいだろう!こんなにできたぞ!」とアピールするのだ。ミスよりもできることを強調する。それが少しづつ実力になる。挑戦する前に「自分にはできる」と思えることは大きな力になるのだ。自信家の方が得をするよな、と思う。

人格には日本人、インド人に関係なく個人差があるし、もちろん日本人にも楽天的で失敗を恐れない人たちはたくさんいる。しかし、日本だと「自信家」「能天気」と少しマイナスに見られがちだ。そのため、「自分にはできる」と思っているインド人が多く感じるのは、恐らく生まれてから今日にいたる教育や環境から来るものではないかと私は思っている。逆に、インド人からすると不安で自身のない東アジア人が不思議に見えるようである。

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インド人が経営する企業で働くとはどういうことか?イメージしやすくするならば、ソフトバンクの孫社長みたいな考えを持つ人が社内に複数名いる感じであろうか。少し疲れそうですかね?(笑)でもそうやって本気で大変な目標を掲げ、それをできる、できる、できると言い続けてくれるリーダーがいたら、ある意味安心しますよね?

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#1優れた経営者を育てる国インドの秘密を探る旅をはじめます

#2インド人経営者が現代ビジネスにマッチする理由

#3インド人経営者のリーダーシップの7つの特徴

#4新時代の企業にインド人的リーダーシップスタイルがマッチする4つの理由

#5「君の当面の目標は日本の業界1位だ。だって、成長したほうが楽しくないか?」

#6「売れない保証を見せてくれ」〜無理に思えることを可能だと思い込ませる、インド人リーダーの説得術

#7最初に「できると思う」がある〜本気の楽観家に、悲観論者は勝てない

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