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利用者の役割

 福祉サービスを考えていく中で、利用者は「福祉サービスを受けるだけ」の人なのか?(このコラムでは「利用者」という表現を多く使っています。)

 そうではない。

 例え、重度の障がい者でも、認知症高齢者でも福祉サービスを利用することの役割があると思っています。そこにいることで「サービス」を「福祉サービス」にしている。利用者も自分にしかできない仕事(作業)があるから、ここにいるし、スタッフも利用者がここにいてくれることで、自分の役割を果たしている。

スタッフを育てる

 利用者から見ると、自分の介助や支援をする職員は、自分の生徒とも言える。自分がこうしたほうが良いこと、してほしいことをスタッフに伝えることで、スキルアップをしてもらおうと思っている。もちろん、利用者がして欲しいことと、支援者がしたいことが合わずに、雰囲気が悪くなることもあるかもしれないけれど、福祉サービスを提供していく中での、心構えを指導していく。

 また、元気のないスタッフに対しては、少し優しく声をかけてみたり、励ましてみたりするかもしれない。利用者としては「スタッフを育てている」気持ちはないかもしれないが、気になるスタッフに対しては、早く1人前になってほしいので、ちょっと優しくする。

 スタッフも、利用者との上下関係(?)を気にしてはいけないと思う。利用者からも、作業や介助のことでアドバイスをもらうこともあるし、ささいな一言で教えられることもある。

事業所を監督する

 サービスを受けるのは「利用者の権利」ではない。利用者の訴えは、事業所だけでなく、市町村にも伝わっていく。「物言わぬ利用者」ではなく、きちんとしたサービスをしてもらえるように、嫌なことは嫌と言えるようになっていくことが必要だと思います。
 利用者とスタッフがきちんと対面して、話し合っていれば、苦情や不満は「改善点」となるが、対面できていないと、ますます利用者から事業所を見る目がますます厳しくなっていく。

サービスの質を高める

 僕は「利用者を見れば、事業所の質が分かる」とも思っています。利用者の服装や振る舞い、顔色を見れば、生活支援をきちんとしているか、自分の意見をきちんと言えているか、やる気があるか、利用者に対するスタッフの向き合い方が分かります。
 利用者に自信があれば、事業所自体の雰囲気も良く、コミュニケーションも多い。だけど、その逆になれば、「やらされている感」がにじみ出てきて、その場しのぎの対応をしたとしても、雰囲気や仕草で分かります。コミュニケーションと書きましたが、利用者ごとの表現の方法によって、スタッフに伝えている。

 そして、利用者もスタッフも「ここをこうすれば、良くなる」ということを分かっている。

利用者の「行動規範」

 福祉専門職では「行動規範」というものがある。「仕事をしていて、困った状態になったら、どのように対応・行動したらいいだろうか?」ということが書かれている。

 もしも、利用者にも行動規範があったとしたら、どうだろうか、と考えてみました。社会福祉士のものよりも、介護福祉士のものの方が、利用者には応用しやすいと思いましたので、「介護福祉士→利用者」「利用者→福祉職員」「提供→利用」と入れ替えてみました。あと文脈的に違和感のある所は修正してみました。

福祉サービス利用者の行動規範(みたいなもの)

(利用者本位、自立支援)
1 利用者は、福祉職員をいかなる理由においても差別せず、人としての尊厳を大切にし、利用者本位であることを意識しながら、心豊かな暮らしと生活が送れるよう福祉サービスを利用します。
2 利用者は、福祉職員が適切なサービス提供ができるように、福祉職員の状態に合わせた適切な方法でサービス利用を行います。
3 利用者は、自らの価値観に偏ることなく、福祉職員の自己決定を尊重します。
4 利用者は、福祉職員の心身の状況を的確に把握し、根拠に基づいた福祉サービスを提供して、福祉職員の自立を支援します。
(専門的サービスの利用)
1利用者は、福祉職員の生活の質の向上を図るため、的確な判断力と深い洞察力を養い、福祉理念に基づいた専門的サービスの利用に努めます。
2 利用者は、常に専門職であることを自覚し、質の高い福祉サービスを利用するために向上心を持ち、専門的知識・技術の研鑚に励みます。
3 利用者は、福祉職員を一人の生活者として受けとめ、豊かな感性を以て全面的に理解し、受容し、専門職として支援します。
4 利用者は、より良い福祉サービスを利用するために振り返り、質の向上に努めます。
5 利用者は、自らの利用した福祉サービスについて専門職として責任を負います。
6 利用者は、専門的サービスを利用するにあたり、自身の健康管理に努めます。
(プライバシーの保護)
1 利用者は、福祉職員が自らのプライバシー権を自覚するように働きかけます。
2 利用者は、福祉職員の個人情報を収集または使用する場合、その都度福祉職員の同意を得ます。
3 利用者は、福祉職員のプライバシーの権利を擁護し、業務上知り得た個人情報について業務中か否かを問わず、秘密を保持します。また、その義務は生涯にわたって継続します。
4 利用者は、記録の保管と廃棄について、福祉職員の秘密が漏れないように慎重に管理・対応します。
(総合的サービスの利用と積極的な連携、協力)
1 利用者は、福祉職員の生活を支えることに対して最善を尽くすことを共通の価値として、他の利用者及び保健医療福祉関係者と協働します。
2 利用者は、福祉職員や地域社会の福祉向上のため、他の専門職や他機関と協働し、相互の創意、工夫、努力によって、より質の高いサービスを利用するように努めます。
3 利用者は、他職種との円滑な連携を図るために、情報を共有します。
(福祉職員のニーズの代弁)
1利用者は、福祉職員が望む福祉サービスを適切に受けられるように権利を擁護し、ニーズを代弁していきます。
2 利用者は、社会にみられる不正義の改善と福祉職員の問題解決のために、福祉職員や他の専門職と連帯し、専門的な視点と効果的な方法により社会に働きかけます。
(地域福祉の推進)
1 利用者は、地域の社会資源を把握し、福祉職員がより多くの選択肢の中から支援内容を選ぶことができるよう努力し、新たな社会資源の利用に努めます。
2 利用者は、社会福祉実践に及ぼす社会施策や福祉計画の影響を認識し、地域住民と連携し、地域福祉の推進に積極的に参加します。
3 利用者は、福祉職員のニーズを満たすために、係わる地域の介護力の増進に努めます。
(後継者の育成)
1 利用者は、常に専門的知識・技術の向上に励み、次世代を担う後進の人材の良き手本となり公正で誠実な態度で育成に努めます。
2 利用者は、職場のマネジメント能力も担い、より良い職場環境作りに努め、働きがいの向上に努めます。

 ただ、よくよく見ると「これは利用者には無理だろうな」「これはおかしい」と思ってしまうことはありますが、利用者ができないことを無理にしてもらおうとは思っていません。

 また、「利用者は専門職」ということを残しておきました。これまでの生活をしていく中で、学んできたことを自分で考えて、実践していく。失敗しながらも、悩みながらもよりより方向に進もうとしていることは「専門職」と言っても良いと思います。

最後に、

 ここに書いたとしても「利用者をお客様扱いしましょう」「良い利用者になりましょう」と言っているわけではなく、「利用者との対等な立場や真摯な対応や権利」をもって、福祉全体のスキルアップをしていくための約束事と思ってください。

 利用者からの投げかけにきちんと応じること
 スタッフからの投げかけにきちんと応じること
 「福祉サービス」を「サービス」にしていくのだと思っています。

 

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