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どこまでも優しい映画だった是枝監督最新作「ベイビー・ブローカー」

こんにちは、makoto です。

是枝監督の最新作「ベイビー・ブローカー」を土曜日午後の回で観てきましたよ。
公開日翌日の週末なのにも関わらず、観客の入りは2−3割程度もなかったようです。
あまりの暑さに外出を控えた人が多かったのでしょうか。
それとも、トップガン マーヴェリックに観客が流れてしまったのか。

「万引き家族」の是枝監督と「パラサイト 半地下の家族」のソン・ガンホの組み合わせに惹かれるようなライト層はトップガンなのかなぁ。。。
うちの妻も明らかにそちらのクチ難ですが、観に行ったんだけど。

そんな妻の終演直後の第一声は
「そういえば、これは是枝さんの映画だったんだね」
でした。
シネフィルでもない妻は、
ポンジュノ監督の「半地下〜」でソン・ガンホを知り、
韓国映画の面白さを知りました。

そんな妻は
「ソン・ガンホが出ている」
「韓国で撮影された映画」
という2つのポイントに引っ張られて今作に対して何らかの期待をしていたんだろうと推測します。
それは、是枝監督映画への期待というよりは、
韓国映画のエンタメ性を期待していたんだろうと思います。

まだ上映直後ですが、既にいくつかあがっている感想では、
「期待していたほどではなかった」
「退屈で眠たくなった」
のような感想もちらほらと見受けられるようです。
それらはおそらく同じような理由で、今作へエンタメ性を期待していたのかもしれません。

是枝監督の作風にエンタメ性というのは本質的にはないと見ています。
テレビドキュメンタリの世界から出てこられた監督は、社会のありようや理不尽さ、どうしようもなさなどを、一般の生活者の視点から描いてきた作家だと思います。

日本国内での映画制作にまつわる環境の厳しさから、むしろ求められるままに海外での制作環境に身を置いた前作は、
フランスへ赴き基本的には往年の大女優の1人語りで進む一幕物のようなものでした。
続く今作は韓国へ舞台を移し、前作とはガラリと変わって
「万引き家族」同様の擬似家族(ただしテーマは全く異なる)を中心に、
それぞれの事情を抱える主人公たちの群像劇+ロードムービーになっています。

まだ公開直後なので細かい話を書くのは止めておきますが、
一言で表すと、

「限りなく、どこまでも優しい映画」

だったなという感想でした。
主要な登場人物に悪人は1人もいません(暴力団の二人組は出てきますが)。

ソン・ガンホ演じるサンヒョンとカン・ドンウォン演じるドンスのブローカーのコンビは、赤ちゃんポストから横取りした赤ん坊を売買している、という一点だけを見ると悪人だと言っても差し支えないのですが、
そこには「人身売買」という言葉から連想される悲劇や残忍さはなく、
(彼ら自身は「仲介業」だと表現しています)
むしろ
「赤ちゃんにとって、より幸せな生活をさせるために」
という大義があるようなのです。
それは彼らの抱える個人的な事情から生まれた
「他者へ向ける優しさ」
がそうさせています。

あと、とても印象的だったのは、
赤ちゃんポストに子供を遺棄するIUイ・ジウン演じるソヨンが、
最初に出てきた時のケバいやさぐれた感じから、一緒に旅する彼らに心を開いていくにつれ表情も明るくなり、そしてどんどんとナチュラルに綺麗になっていったことです。

ペ・ドゥナ演じるスジンとイ・ジュヨン演じる彼らを追う2人組の刑事も名コンビでした。
このコンビが主役のドラマをスピンオフで見たいくらいです。
そういえば、ペ・ドゥナは「秘密の森」でも正義感溢れる刑事役を演じていましたね。
その新シリーズでイ・ジュヨンが出演すればいいんでは?(なんて)
そして、ペ・ドゥナが出てくることで、なんとなく是枝監督映画だという安心感が生まれるので不思議です。

映画全編に渡って「優しい映画」だということは十分伝わってくるのですが、
赤ちゃん受け渡し前日となる最後の夜、ホテルの部屋を暗くしてソヨンが
「生まれてきてくれてありがとう」
と1人ずつに言います。
そのシーンでは、僕自身も生まれてきたこと肯定され、祝福されたような錯覚を覚え、少し落涙してしまいました。

派手なカーアクションも銃の撃ち合いも何もない、とても静かに物語が進んでいく映画ですが、優しいほっこりとした気持ちになりたいときには、是非この映画を鑑賞してください。

それでは!

*カバー画像は公式サイト (https://gaga.ne.jp/babybroker/) より拝借

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