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映画『はりぼて』〜腐りきった地方議会、富山市だけの話ではないだろう

話題になっていたドキュメンタリー映画『はりぼて』をやっと観た。

富山市議会自民党議員一派の金にまつわる不正疑惑を追い続ける富山のローカルテレビ局チューリップテレビの2016年8月から2020年1月1日までの期間を記録したドキュメンタリー映画。

監督もチューリップテレビ報道部の2人、記者の砂沢さんとキャスターも務める五百旗頭さん(いずれも所属は当時)。

ちなみに、富山県は有権者に占める自民党員の割合が10年間日本一のバリバリの保守王国(今や保守とはとても言えない政党になっていると思うが)。
その自民党にとっての王国の本丸といえる富山市議会では長年に渡り自民党会派の議員達が不正に政務活動費を計上し税金を搾取していた。
さらには、住民を差し置いて議員報酬を月額60万円から70万円に増額する提案も行っており、市議会でも審議なしで受理されていた。

そうした事実を、地道な取材を通して、暴き出していくのがチューリップテレビの報道チームだ。
当時のチューリップテレビは「正々報道」というキャッチフレーズで正しい報道機関・メディアを実践していたと思う。

観ていて終始、「チューリップテレビ頑張れ!」と応援したくなる。
社員約70人という地方のまだ新しいテレビ局だが、本気になればメディアという公器を通して、政治の腐敗を暴くことが出来るということを証明した記録でもあると思う。
これが正しいメディアだろう。

かたや中央の大手メディアはどうだろう?
安倍政権からの数々の報道自主規制、なんなら政府に忖度しない番組やキャスターを更迭するような蛮行を平気でやっている。
新聞テレビの社長が政権与党のトップと会食するなんてどうかしていると思わないのだろうか。
現在も、ジャニーズ事務所の性加害問題では、ずっと大手メディアが見てみぬふりをしてきた"臭いゴミ箱の蓋"が開け放たれてようとしている。

***

映画に戻る。

冒頭で、議員報酬の増額を提案した取りまとめ役の自民党議員、後に詐欺で有罪となる自民党会派のトップ中川議員へのインタビューが出てくるが、そこで語る言葉が耳を疑う。
「5万9千円の年金(2ヶ月?)でどうやって暮らせるの?」
いやいや、みんな苦しくても、それでもやってるし。
そんな政治をしてきたのはあんたら自民党だろう。

さらに増額の理由にこういうのもあった。
「道路の除雪作業も議員がしているから」
除雪作業は雪国で生活していれば、生活道路は元気なものみんなで助け合ってやっているし、
そもそも議員は選挙の時の票が欲しいからやっていただけだろう。
それを理由にするなら、市議会議員の職務を定義する法律を変更して「冬期間は除雪作業を行う」とか明記するのが先だ。

そして、政務活動費の水増し、詐欺問題が出てくる。
(議員辺り?)月15万円が所属各会派に支給される政務活動費は本来は領収書を添付して使い途を明らかにする必要あり、余った費用は返還する必要があるが、富山市はなんと全国で唯一全額を使い切っているらしい。

そして、その政務活動費の使用履歴について資料請求したが、議員の名前が書いておらず誰が使ったか分からない領収書が多く出てきた。

例えば、市議会市政報告会4回開催し、その時に使った資料200部以上〜350部の印刷代を請求している領収書があった。
ところが、会場となっていたはずの公民館ではその用途では1回も使用されておらず、また会場も70名くらいで満杯になる大きさである。
さらに、公民館資料によると、過去4回の報告会開催日には開催実績の記録がなかったことが分かる。
領収書の捏造ではないか?

この疑惑の中心人物である中川市議を取材する。
「場所が変わっただけじゃないか。近くの料亭で開いたはずだ」
しかし「そんな事実はない」と近所の人の多くは証言する。

「政務活動費が事実と異なる使われ方をした」と報道した直後、中川市議は失踪する。
1週間後見つかり、市議会にも出席、記者会見も開き陳謝することになる。
「皆さんが調べたことを否定することはなく、印刷会社から白紙領収書をもらって自分で捏造した」と詐欺を自白。
報告会も1度も開いていない、資料も会派オフィスで印刷したもの。
着服した理由は「飲む金が欲しかった」ということ。

当然、怪しまれるのは議員報酬引き上げの提案も、単に金欲しさなのではないか?ということだが、それについては「関係ないと」言う。

しかし、中川議員が不正に利用した際の印刷会社の領収書は他の議員にも使われていた。
谷口議員「中川さんに頼まれて資料をつけてお金を出せと言われた」
そして、バレて陳謝する。
「中川さんが言うことなら大丈夫だろうと思った」
不正額442万円、議員辞職。

岡村市議は福岡市議会への視察の名目の領収書が怪しい。
「福岡は町づくりの特色とかあるんですから、よく行かれたんですか?」
しかし岡村市議の返答はしどろもどろ。
「福岡には行ってないってことないですか?」
「いや、領収書が出てたら多分行ってる。。」
福岡市に確認する。職員9名に電話で確認したら視察先には記録がなかったと簡単に嘘がバレてまたもや謝罪。

不正は他会派でもどんどん出てくる
民生クラブの不正が1,979万円など。
領収書の金額に数字を書き足して水増しする方法が自民党会派と同じ手口。
もはや集団で詐欺の手引書が会ったんではないか?というほど組織的に皆がやっていたようだ。

結果、中川市議は辞職。
続く市田議長はノートパソコン代など500万円超えの不正で辞職。
なんとこの時、1ヶ月に12人が議員辞職することになる。

そしてさらに新たな事実も。

取材にあたって情報公開法にのっとり公民館の利用についての資料を請求していたことを、議会事務局が当の中川市議らにバラしていたことが発覚する。

ここまでで、まだ映画がはじまって35分

何故情報をもらしたのか?
「どうしてでしょう?会派の方で気にしているのではないかと」
と議会事務局は釈明、どうも話がおかしい。

結果、被疑者の中川市議は印刷会社に口止めをするなど隠蔽工作をしたことが判明している。

公民館の履歴を管理する生涯学習課へも行く。
「生涯学習課の課長から他部署(議会事務局)に情報が来たと聞いているが?」
最初は否定するが、突っ込まれると「公式には伝えてない」と弁明。
「公式じゃないとすると?」
「確かに課長には内々には伝えた」

さらに教育長へ。
「守秘義務違反に当たらないか?他部署へ情報公開している個人名含む情報が役所内には広がることですね?」
「結果としてそうなるね」と教育長も守秘義務違反を認める。

役所も腐りきっている。
アタマが腐るとすべてが腐る。

結局10人の議員辞職を出すことになった自民党会派には、長老議員の五本氏が新しい派閥の長になったが、やはり不正が見つかるが、あくまでも辞職はしないと名言する。
そんな厚顔もいるもんだ。

これは富山市議会だけの問題として放置出来ないと、自民党が独自調査を報告。
過去5年間でなんと所属議員の7割、19人が不正していたらしい。
総額は2,000万円。

先の五本氏、不正はこれで出来ったと明言。
そして、補欠選挙で13人の新人が当選するが、自民党会派入りは1名だけ、舎川議員。
しかし、この年もさらに13人が議員辞職、総額4,028万円。
過去の不正はどんどん暴かれていく。

当然というべきか、議員報酬増額に関しては取り下げられた。

2017年4月、市議会選挙。
五本市議「私の人生をかけた戦いになる」
そして支持者の会合で土下座。
簡単に土下座をする人間は信用するな、ということわざあったよなぁ。
議員が汚れていれば、支持者もアホ。
集会に参加したおばちゃん達「あれを聞いたら許そうかなってなっちゃう」

それにしても。。。。。
もうすぐ還暦の自分が言うのもなんだが、僕から見ても、富山市議会を牛耳っている奴らって、
「みんなじいさんじゃないか!」

その後、五本氏に新たな疑惑。
市政報告会で資料を配ったという領収書で不正がバレた
2回の報告会で資料印刷代 1,800部(1,400部余る)
諸々おかしなことが。。。
「ちょっと調べるわ」
2時間後、よく解らない理由をのべて
「そういうことで了解しておいてくださいよ」
とゴリ押し。おいおい。

その後任の議長も。。。詐欺で。。。。議員辞職
揃いも揃って、みんな同じ手口。
赤信号、皆で渡れば怖くないって?
しかしコイツは「認めてないから返還しない」と

その次の議長も。。。辞職。
辞めるつもりはないけど、会派の意向だから。。。

もう、おそらく皆やっていたから麻痺してるんだろうな。
「何で俺が。。。あぁーあ」って顔しているし。

全員一回リセットしなきゃダメなんだろうな。

先の疑惑が発覚した五本氏もお金を返すからと謝罪
でも辞職する気はないと。
でもなぁ、何才だよ。
自民党って富山市議会に限らず、みんな同じだな。
この後、五本氏は刑事告発されたらしい。

中川、谷口、市田は詐欺の罪で執行猶予付き有罪判決。

どんなに市議会で税金不正流用の事件が起きても終始コメントを避けていた富山市長が引退表明

出てくるやつ出てくるやつ、みんな政治家、そしてみんな詐欺師、税金泥棒。
富山市民なら激おこだろ。
いや、これは富山市だけの話だろうか。
メディアが真剣に追っかけていないだけで、どこでも起きているんじゃないか?
いや、きっと起きているんだろう。

チューリップテレビ、いいぞ!
と応援したいが、この取材班の中心人物の2名、
砂沢さんは報道から社長室へ異動
五百旗頭さんは退職
「正々堂々」のポスターも撤去
会社が忖度した人事?それとも自民党からの圧力による報復人事?
そこは明らかにされていない。

しかし、まだ希望はある。
その後、五百旗頭さんは石川テレビに移り、ドキュメンタリーを2本撮り、さらに映画にもなっている。


昔ながらの政治の世界は、毛細血管の地方議会から中央政府まで全部腐っているのかと絶望を見せられた反面、
チューリップテレビのような、いや五百旗頭さんや砂沢さんのような、公器としての力を正しく使う、本来あるべきメディアとしての働きをしてくれる報道マンがもっと日本中にはいるはずだという希望も感じさせてくれた。
きっと国民も支持してくれるはずだから、もっと声をあげて欲しいなと希望を持つ映画だった。

<了>


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