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40年近くを経た今でもリアルに響く歌〜映画『リンダ リンダ リンダ』

もう20年近く前の映画なんですね。

ペ・ドゥナが韓国からの留学生のソン役ではじめて出演した日本の映画。
日本語があまり分からないのでいい加減な返事をするという役どころだけど、リアルの現場でも同じように日本語があまり分からなかったんじゃないだろうか。
松山ケンイチ扮する男子学生に告白されるシーンがあって、彼は一生懸命覚えてきたハングルで告白するんだけど、ソンは彼のことを記憶していなくってというシーンが笑える。

一人カラオケに行って、ドリンクも一緒に頼んでもらわないと駄目だ、いや私はドリンクは飲みたくない、だけど何か注文してもらうことになっているので、だからペットボトルの水を持ってるしドリンクはいらない、だから。。
と言葉の壁とそもそもカラオケ屋のシステムも分からないということで押し問答になるシーンもそんな相互不理解を演出している。

物語の舞台は地方の高校の文化祭なんだけど、ソンは文化交流をテーマにした韓国を知ってもらうという展示を担当している。
だけど、わざわざそんな展示を見に行くような生徒もおらず、一人で受付に座って退屈している。

そんな大人(担当教員)が考えたであろう教科書みたいな形だけの文化交流よりも、言葉は通じなくても何かに一緒になって取り組むことが若者にとっては何よりも生きた文化交流になる。
いや、文化交流なんて概念がそもそも偉そうだな。
別に生徒たちは国を代表している訳ではないし、ソンだって交換留学生とはいえ韓国を背負って来ている訳ではないだろう。
一人の人間としてたまたま言葉や育った文化が異なる人間と触れ合い、理解し合う、それでいいじゃないか。

当時24歳のペ・ドゥナは他の同級生役の誰よりも高校生然としてピュアな感性で溢れたような演技をしていて素敵だった。

そして、もう1人の主人公と言えるのが文化祭直前でのメンバーの怪我と仲違いによる脱退劇のためにキーボードから急遽ギターにスイッチすることになったバンドのリーダ的存在の恵(ケイ)を演じる香椎由宇。
とにかく彼女の美少女ぶりが凄まじい破壊力だ。
彼女も小学校6年間はシンガポールで過ごした帰国子女らしいので、帰国してからも一種日本という異文化での友人関係や自分を表現することなどで苦労されたのかもしれない。

他のバンドメンバーは当時クレジット的には2番手をつけていたのは、子役としても活躍していた前田亜季がドラム担当の響子役。
そして、既にBase Ball Bearとしてデビュー目前だったであろう関根史織がベースの望役で出ている。

前田亜季は映画のためにドラムを練習したのであろうか、それでもしっかりリズムキープして叩けているし、関根史織が引っ張るベースでしっかり演奏にグルーヴ感があってよかった。

そんなバンドメンバー4人が、1人はポジションスイッチして慣れないギター、1人は言葉もままならない中で歌詞を覚えてボーカルが、練習を重ねる中でお互いを理解していく、たったそれだけの話で、特に事件やドラマチックなことは起こらない。

文化祭前日に夜中に徹夜で練習をしていたせいで、当日バンドの出演時間まで居眠りしてしまい、急いで学校へ行こうとするが大雨が降ってきて、びしょ濡れになりながら会場の体育館へ向かうというシーンがハプニングらしいハプニングだろうか。

ただただ高校時代のあるあるな小さな日常の一瞬が描かれていく清々しい青春モノなのだけど、女子高生は男子高校生のような思春期の鬱屈がなさそうに見えるのは僕が男子だからで、2人いる子供も男子だからだろうか。

それにしても、あんなドラムやアンプが常設してある部室を持った軽音楽部がある高校はなんて羨ましいんだろう。
僕の通っていた高校はどういう訳か「バンド活動は不良だ」なんて決めつけれれて、文化祭でもバンド演奏などの出し物はなかった。
それでもバンドブームだからみんなギターを買ってバンドを演っていたけれどみんな帰宅部で野外活動だった。

そして中学時代にバンドをはじめた頃のことも思い出させてくれた。
中学生は練習スタジオに行くお金なんてないので、リアカーに小遣いを貯めて買った安物のドラム・セットやミニアンプやギターを乗せて、電源の取れる練習場所を探して町内を歩き回った記憶がある。
個人タクシーのガレージが集まっている場所があり、空きガレージを見つけて雨の日は勝手に入り込んで(鍵は空いてたので)、今から思えば盗電なのだけど、練習したり、
団地の共同ゴミ捨て場にもコンセントがあったので勝手にそこで練習したり、
よく叱られなかったなと思う反面、絶対大人は見ていたはずなので、黙って見守ってくれていたというか、昭和はやはりおおらかな時代だったのかな。

そして、実はこの映画の本当の主役はタイトルにあるザ・ブルーハーツの曲たちだ。
ラストの文化祭シーンでは『リンダ リンダ』と『終わらない歌』の2曲が演奏される。

『リンダ リンダ』は今聴いってもやっぱりストレートに胸に響く名曲だし、そしてエンディング曲は『終わらない歌』の方なのが面白い。
そして、彼女達の演奏に続いて、エンドクレジットではザ・ブルーハーツのバージョンが流れる。

終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう 全てのクズ共のために
終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため
終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように

映画が2005年なので約20年前、『リンダ リンダ』と『終わらない歌』が収録されたファースト・アルバムがそこからさらに約20年前(18年前)。
彼女達にとってもそれは昔の歌だけどリアルに感じたからこの2曲を選んだのだろうし、
それが40年近くを経た今でも懐メロになんかならずリアルに響いてくるのは、ある意味不幸なことなんだろうと思う。


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