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俳優のんの新しい代表作 『天間荘の三姉妹』

漫画原作とは知らずに、つまり全くどういう話なのかも分からず、劇場公開時の予告編を1度見ただけでの情報で鑑賞したので、まさかの展開に驚いた。

正直、どうもこの天間荘の設定がよく分からない。
いかにも瀬戸内のような、または入江のある小さな海辺の町にある「天間荘」は、一見普通の旅館に見えるが、どうやら生死をさまよっているような状態の魂が送り込まれる現世と天界の中間にある場所だ。
天間荘で自分の一生を走馬灯を見て思い返すことで、あの世に行き成仏するか、現世に戻り行き直すかを決めるそうだ。
そういうことだからか、滞在客は多くはなさそうだが、それにしても建物の規模の割には従業員が少なすぎる、調理場にいたっては料理長が1人だけで何とかなるのか。

やがて、この旅館を営んでいる天間家の大女将と姉妹達も死者らしいとわかってくる。彼女達もいずれあの世に旅立つ日がくるようだが、それはどういうことなのか。
そして、天間荘のある町 "三ツ瀬"とその住人達も死者であるという描写が少しづつ出てくるが、天間荘に送られてくる未だ死者ではない人間との違いは何なのか?

この天間荘に、のん演じる"小川たまえ"という女性が送られてくる。
彼女は天間荘の若女将"のぞみ"(大島優子)と"かなえ"(門脇麦)と腹違いの姉妹だ。
「のぞみ・かなえ・たまえ」の三姉妹。
昭和世代には懐かしい欽ちゃんファミリーの三姉妹と同じじゃないか。

"たまえ"(のん)は天間荘で働くことになり、持ち前の明るさで滞在者達の決心を後押しすることになる。

話が進むうち、途中で東日本大震災が土台にある話だとわかってパズルがはまり天間荘の存在理由について大きく頷くことになる。
なんという展開。そういうことだったのか。

さて、本作ののん演じる小川たまえもその天性のキャラクターを上手く活かした配役で、のんを代表する一作になるのではないか。
それにしても東北が舞台だとわかってからは、途中何度か「天野アキです」と言い出すんではないか、とオーバーラップするようなところもあった。
ちょうど、現在『あまちゃん』が再放送されているが、あれからも約10年。
のんの成長を感じさせるが、同じく近作の『さかなのこ』でも見られた彼女の天然の素養がこの10年でも失われていないことにも感嘆する。
(そういえば、『さかなのこ』のミー坊ともオーバーラップするような水族館でのイルカの調教シーンがあったのも面白い)

さらに、のんの脇を固める俳優陣も皆さん素晴らしい。
大島優子と門脇麦の姉妹のキャラクターもそれぞれに合っていた。
ところで、門脇麦と高良健吾のラブシーンはあそこまで描く必要があったか疑問。この映画のトーンからして、もう少し手前の匂わせるまででも十分だったのではないか。
また、姉妹で温泉の湯船に浸かるシーンもサービスカットのような印象があり、蛇足と感じた。
もはや必要ないでしょ、そういうのは。

寺島しのぶ演じる大女将のダメキャラがちょっとやり過ぎを感じたところもあったが、最後の宴会シーンで締めてくれたことでコントラストが際立ったか。
久しぶりに見た三田佳子さんもご顕在で流石の演技だった。
サングラスをかけていらっしゃったので、最初誰か分からず一瞬
「淡島千景?いやいや、流石にそれはリアル天間荘だし」と思っていたら、まさかの三田佳子だった。
男性陣もよかった。
次女のかなえの恋人役の高良健吾があの世に行くと決めた時、何故彼だけは船で旅立ったのか?謎。
友情出演扱いの中村雅俊さん演じる料理長も、三姉妹の父親役の永瀬正敏もキャラクタに合っていた。
本当に永瀬正敏は、憎めないダメキャラが似合い過ぎます。
息子を震災で失った柳葉敏郎も久しぶりに会えてよかったです。

背景にある重いテーマの割には、極めてライトに描こうとしている演出にもかかわらず、やはり途中何度も落涙してしまう。

1つだけ難を挙げるとすると、149分の上映時間は長かったか。
もう少し映画用にエピソードを端折って短縮してもよかったのではないか。
(原作のどの程度をカバーしたのか全くわかっていないが)
果たしてイルカの調教エピソードは必要だったのだろうか。
この物語上、どこまで重要な設定だったのか?
映画しか観ていない状況では、さほど重要な設定シーンのようには思えなかった。

とは言うものの、死者たちの想いを背負って生きていくことを決心したラストの現世の水族館でのシーンでの、イルカショーでの"のんの立ち姿"は凛々しく、清々しく、素晴らしく良い表情をした名シーンだったと思いました。

それにしても、この映画を観たことで再び思い起こさせられたのは、
東日本大震災の傷跡はまだ癒えていないのではないかということ。

国は真に被災地に寄り添い、復興を支援してきたのか。
死者を弔い、生者に寄り添い、そういう国としての心からの支援は本当になされてきたのだろうか。
本作のように被災地の気持ちに寄り添う映画の企画に予算をつけるだけでも構わないのだが、それすらも為されていないのではないか。
何故かこの国の政権は国内には最低限の金しか使わず、いや最低限にも全く足りていないが、海外にばかりよい顔をして金をバラまいてくる。
目先に見えた薄っぺらい得にしか金を使わない。
外面ばかり良くて、家は借金ばかりで家族に満足に食事もさせられない昭和のボンクラ親父と一緒ではないか。
海外でいい顔を出来ているその原資は我々の収めた税金なのだぞ。

<了>



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