見出し画像

小気味よいサクセスストーリー映画『AIR/エア』

 ベン・アフレック監督、マット・デイモン主演の映画『AIR/エア』を観ました。

『AIR/ エア』(原題:AIR)
製作:2023年
上映時間:112分
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ベン・アフレック
主演:マット・デイモン

舞台は1984年のアメリカ オレゴン州のナイキ本社。
今でこそバスケットシューズとしてもブランドを確立しているナイキだが、当時は「あ、ナイキね。ランニングシューズでしょ?」くらいの扱いで、
バスケットシューズはアディダス(ドイツ)とコンバース(アメリカ)の2大ブランドの牙城です。
特にアディダスは、流行してきたヒップホップグループがこぞってアディダスのウェアを着ていたり「一番イケてるクールなブランド」として若者に大人気でした。

物語は、そんな時代背景のもとナイキのバスケットボール部門が当時まだNBA新人だったマイケル・ジョーダンと契約して後の成功に至るまでの初期の話と、現在の大ヒットシューズの地位を確立した"エアジョーダン"誕生秘話でもあります。

こういう史実に沿った業界内幕モノは結論は分かっているので、安心して観ていられるのでいいですね。
ほとんど吹き替えで観ることなんてないのに、今作は吹き替え版で観てしまいました。

ベン・アフレック監督作といえば、アカデミー賞作品賞も受賞した『アルゴ』が思い浮かびます。
あちらも、1979年から1980年にかけて実際に起きた"イランアメリカ大使館人質事件"を題材とした映画でした。
いずれの映画も、衣装、セット、小道具なども当時を再現していて、映像の粗さも1980年代を想起させる感じに撮影されています。

そして、今作はずっと80年代半ばのヒット曲の数々が背景に流れるので、映像と相まって「あぁ、懐かしいなぁ」と当時にタイムスリップしたような感覚になります。

一点だけ気になったのは、前半にビッグカントリーのヒット曲「In A Big Country」が流れるのですが、
彼らはスコットランドのバンドなので、ここはアメリカのバンドの曲で統一して欲しかったかな、と少しだけ思いました。

それにしても、この映画のユニークなところは、マイケル・ジョーダンも当事者の1人と言ってもいいのに、作中では一切映らないことです。
マイケル・ジョーダンも(あ、一緒にいるな)くらいのシーンはありますがせいぜいが後ろ姿でくらいで、徹底的に彼自身の顔は映されません。
もちろん、セリフもありません。
ナイキとの交渉に立つのは、あくまでもマイケル・ジョーダンの母親のデロリス・ジョーダンです。

そういう意味では、これはナイキの物語でもありますが、
マイケル・ジョーダンの母親の物語なんです。
エンドクレジットで47才になったマイケル・ジョーダン本人が何かのスピーチで彼の母親について語るシーンが流されますが、
母親なしには成功はなかったというくらい、マイケル・ジョーダンにとっては大切な母親のようです。

最終的に、マイケル・ジョーダンは当初希望だったアディダスを蹴って、ナイキと25万ドルで契約することになるのですが、
その時に母親が出した追加の条件が今では割りと当たり前の"レベニュー・シェア"という考え方です。
「マイケル・ジョーダンの名を冠したシューズ"エアジョーダン"が売れるごとに売上の一部を得る権利」
を提案します。
当時の業界でそんな契約は前代未聞で、おそらく一か八か勝負をかける立場にあったナイキだからこそ実現出来たのかもしれません。
結果的に、エアジョーダンは当初予想を大幅に裏切って凄まじいい大ヒット商品となり、今でも両者にとって莫大な利益をもたらすことになります。
そんなところは、ビジネス観点でみてもワクワクするところでした。

映画は最初から会話だけで話が進められるので、誰が何でどんな役割なのかもよく分からないままですし、
必要以上に泣かせにくるよなお涙頂戴感動シーンもありませんし、
ハラハラ・ドキドキやどんでん返しなど盛り上がるところもさほどなく、
割りとあっさりと展開していくのですが、
それがよい具合に小気味よく、1時間52分があっという間に感じれられる映画でした。

当時のマイケル・ジョーダンとナイキのシューズの人気を知っている世代の人も、知らない若い人も、是非観て欲しい映画でした。

<了>



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?