映画スラムダンクを観に行く
雪予報の新宿。仕事を早めに切り上げて訪れてみたものの、雪は雨に変わり、見慣れた風景だけが僕の前に寝そべっていた。
僕はカメラを持って街を歩く。だけど、期待した雪景色が無いことやあまりの寒さ。撮影を切り上げて、映画館の上映スケジュールを眺める。
「スラムダンク」という表題が目に留まる。気が付くとチケットを購入していた。
本来、アニメ原作の映画は否定的だった。それは「週刊誌の衝撃や手触り毎週の興奮、その原作の雰囲気を超えられない」という固定観念があったからだ。
映画が始まると、いとも簡単に裏切られる。館内に響くベースの重低音、続くバスドラムのサウンド。オープニング曲「loveRockets」が流れる。
鉛筆によって一人、またひとり登場人物が描かれていく。
さあ、役者は揃った。
本編が始まると、スラダン世界観が吹き飛ばされるような、旋律中心の回想。うって変わって、スピード感ある試合展開。僕はどんどん世界観に飲み込まれていく。
交差する過去。静寂と興奮。グラウンドに立っているかのような錯覚。
自分の息が激しくなるのがわかる。
結論から言おう
作者は「この最終回を描きたくて、この漫画を描いた」そう感じた。
「約束の山王戦」といっていい。ファンやそれぞれが待っていた対戦。最終回、この試合だけのための壮大なフラグ。それこそが漫画の醍醐味なのだ。
この物語を再び語るには時間の洗礼が必要だった。必要なピースを拾い上げながら作者はゆっくりとその時を待った。井上氏は25年かけて、この物語を「本当に描きたかった物語」として完結させたのだ。
僕らが心に抱えているもの
映画を見て意外だったのは多くの個性的なキャラクターの中から、宮城リョータが秘める「超えるべきものが心の中にある葛藤」を中心に描いたことだ。それは「約束の飾り」として物語では表現されている。
人は誰しも完璧ではない。完璧を求めるほど不安になるものだ。そして「決して超えられないもの」も存在する。その内なる戦いを挑むものこそ、真の挑戦者なのかもしれない。
勝負という世界で
戦いは時間軸で展開される。限られた時間内で自分のパフォーマンスを発揮していくそれぞれの選手たち。
勝負は基本的に「負けたくない」その一点だと思う。その感情を時間軸がそっと削いでいく。
勝った先に見えている世界。
手のひらに書かれた言葉。
勝つ先の世界は誰にもわからない。ふと思い抱いた言葉があった。
「勝つか負けるか、ではない。勝つと信じることだ」
5秒間、無音の世界
「生きること、死ぬこと」
「それぞれに課した約束」
「目指す先の途中」
そんなキーワードが現れては消える。それほど試合展開は息をのむ。
名勝負のさなか、キャラクターが語る言葉、お互いの誇りがぶつかり合っては消える。
そして物語はクライマックスへ。鳴り響くリバウンド音と歓声。疾走感あふれるサウンド。
しかし突然、時間が止まった瞬間。息ができない。
本当の結末は無音の中にあった。そう、無音こそ観衆に答えを委ねられた瞬間だった。
エンドロールサウンドが心に残る
映画を見終わると、新宿はすっかり雨に
僕は映画館を出た。
雪を忘れて、雨すらも小降りになっていた。
違う展開なら、大雪で静寂な世界が見えていたかもしれない。
と、同時に僕はこの映画を見ていなかったかもしれない。
冷めない熱気。ちょうど雨降る新宿にはお似合いだった。
ずっとエンディングソング「第ゼロ感」が心に残る。
彼の腕に「約束の飾り」はもう無い。
背負ってきた背番号と違うユニフォーム。
彼が背負った「約束の飾り」それを守るべき人に手渡せただろうか。
僕は、街のどこかでバスケゴールを揺らす大きな風を探していた。
映画「THE FIRST SLAM DUNK」
2022年12月3日(土)公開
監督/脚本:井上雄彦
演出:宮原直樹 北田勝彦 大橋聡雄 元田康弘
CGディレクター:中沢大樹
キャラクターデザイン/作画監督:江原康之
美術監督:小倉一男
色彩設計:古性史織
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音響演出:笠松広司
アニメーションプロデューサー:西川和宏
プロデューサー:松井俊之
※画像は映画公式サイトより引用しました。
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