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頭が重すぎるアリの話

忘れることー多くの人はこれを避けたいと思っている。覚えたテストの内容、読んだ本の内容など、せっかく覚えたのに…せっかく読んだのに…結局忘れて思い出せない。このような経験に歯がゆい思いをした人がほとんどだろう。一度頭に入れたことをずっとキープできればどんなにいいことか…あなたもそう思うだろうか?であれば、これから紹介する話は印象に残るかもしれない。

先日読んだ『きげんのいいリス』トーン・テレヘン著 長山さき訳(新潮社)の中にこんな話があった。森の中を一匹のアリが歩いていたのだが、頭が重すぎて途中で歩けなくなってしまった。なぜ頭が重すぎるのかというと、なにもかも知りすぎているせいだという。そこで彼は「なにかを忘れるしかないんじゃないか」と気付く。試しに友だちのリスのことを忘れてみたら、突然アリはくるくると空へ舞い上がって、ふたたび地面に落ちた。落ちたのはまたリスのことを考えたからだ。そして落ちた時にアリは頭を打ってしまった。でもそのおかげで、自分がなんでも知っているということを忘れたので、また立ち上がることができたという、こんな話だ。

わたしたちの多くは、学生時代から膨大な知識をインプットし続け、社会に出てからもアンテナを張り巡らせてできる限りの情報を集め、そして忘れないために心血を注いできたかもしれない。でもここで思い出して欲しい。先ほどの話に出てきたアリの頭が重すぎて歩けなくなったのはなぜだったか?「なにもかも知りすぎているせい」ではなかっただろうか。では、アリがまた立ち上がることができたのはなぜだったか?「自分がなんでも知っているということを忘れた」からだったにほかならない。そう、知識はあくまでも行動するために必要なのであり、歩けなくなるほどの知識は邪魔にしかならない、ということだ。

生きていくために必要な知識は必然的に活用される。言い変えれば、忘れていくような知識は、とりあえず今は必要ではないのかもしれない。

「頭が重すぎるアリの話」は、忘れることの効能ーとても身軽に歩けるようになることーを教えてくれた。

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