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採用ミスマッチを防ぐには①

今回、経営戦略策定のお手伝いをしているのは、東京で老舗和菓子屋さんを継いだ2代目社長が経営しているパン屋さんです。

社長は事業引継ぎの前に既に地方でパン屋さんを営んでいましたが、引継ぎを契機に東京へ戻ってきました。

社長だけではなく、社長の奥様にもさまざまな項目でヒアリングを進めていき、「人」について伺い始めたところ、奥様から以外なひと言が…。

「もう、他人と一緒に働くのは嫌なの」

今までの表情とは打って変わり、厳しい表情で何があったのかをお話ししてくださいました。

・時間通りに出社しない
・黙って休む
・急にやめる

まあ、アルバイトだからあり得るなぁ、と思いながらお話しを伺っていると、決定的になった出来事について語り始められました。

アルバイトにしては珍しく熱意を持って仕事に取り組んでくれる方がいて、普段は教えないパンの成形だとか、焼き具合、その他にも仕入についても熱心に聞いてくるので、誠意をもって教えていたといいます。

その方、数か月後仕事をやめると言い出して、近所にパン屋さんを出店したのだそう。

その時のご夫婦の落ち込みようは相当なもののようでした。

これを採用のミスマッチだったと言っていい事案かどうかは疑問ですが、今回は採用のミスマッチについて書いていきたいと思います。



1.現状

(1)転職者の動向

転職者数の推移をみてみると、リーマンショック期の2009~2010年にかけて大幅に落ち込んだ後、2011年以降増加を続け、2019年は過去最高の353万人となっております。感染症の影響で2020年、2021年と減少が続き、290万人まで減少しましたが、2022年には3年ぶりに増加し303万人となりました。

厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析 第1-(2)-22図

(2)理由別転職者数の推移

前職の離職理由別の転職者数の推移(前年差)をみると、「より良い条件の仕事を探すため」は、雇用情勢が改善している時期に増加しています。2022年についてみると、感染症の影響により減少していた「より良い条件の仕事を探すため」という転職者が3年ぶりに増加に転じています。

厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析 第1-(2)-22図

(3)入社後に失敗したと感じた理由

転職クチコミサイト「転職会議」の調査によると、20〜40代が「入社後に失敗したと感じた理由」の上位は「人間関係」および「労働環境」となっています。

(4)転職先に決めた理由

転職経験者(2020年)に「現在、勤めている会社を転職先に決めた理由」を尋ねたところ「希望の勤務地である(34.2%)」がトップ、以下「給与が良い(29.7%)」「休日や残業時間が適正範囲内(28.4%)」と続いております。また、新卒者(2022年卒)に対する「企業選択の際、どのような企業がよいと思うか」のアンケートでは「安定している会社(42.8%)」がトップ、続いて「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社(34.6%)」「給料のよい会社(17.5%)」という選択肢が上位に入りました。

ここまでのデータでは、「より良い条件の仕事を探すため」という転職者が増加しており、退職理由は「人間関係」「労働環境」によるところが多いことが分かります。求職者に転職先に選ばれるためには、職場が求職者の望む場所にあり、労働条件や労働環境が良い企業が良いようです。

2.ミスマッチが起こる原因

採用時に求職者が思っている企業イメージと実態に差があること、企業側が求職者に期待しているパフォーマンスと転職希望者のスキルのギャップがあるとミスマッチが発生します。

(1)人間関係について

【労働者側】
・わからないことを誰に聞いて良いのかわからない
・なんとなく孤独を感じる
・昔ながらの企業風土

【企業側】
・スキルが想定よりも低かった
・面接時とは違って、コミュニケーションが苦手

(2)労働環境について

・就職したら残業が多かった
・固定残業代の時間を超えて働いても割増手当が払われなかった
・配属された部署が希望していた部署と違った
・転居を伴う異動があることを知らされてなかった
・実際にやりたいことと違うことをやらされることになった

労働環境については実際に私が経験したギャップです。

3.ミスマッチによるダメージ

(1)コスト面

就職みらい研究所が2018年から19年にかけて実施した採用市場調査「就職白書2019」によると、中途採用時の採用単価は1人あたり平均82.8万円だったとのこと。

コストには社内での採用活動にかかる内部コストと社外に支払う外部コストがあります。

【内部コスト】
・採用活動のための人件費
・内定者に対しての懇親会費 など

【外部コスト】
・求人を掲載するのにかかった費用
・紹介会社への報酬
・ホームページ制作費 など

入社したあとも、福利厚生費や教育費など人材育成に係る費用も上乗せされてきます。

多額の費用、時間をかけて採用、教育した人材がミスマッチにより早期に退職してしまうと、かけたコストが無駄になります。

(2)レピュテーションリスク

レピュテーションリスクは退職者による企業に関するネガティブな評価を広められることによる、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被るリスクのことです。

採用活動が困難になるなどの影響が出る場合もあります。

(3)生産性の低下

人を採用しても、採用しても離職してしまう職場では、ノウハウが蓄積できず、生産性が下がることが懸念されます。

「一生懸命教えてもどうせすぐに辞めちゃうんでしょ」といった指導者のモチベーションの低下により、教育レベルも低下、そのことにより離職してまう負の連鎖もあり得ます。

こうなると人材は育たず、通常業務もままならない状況となり、業績も頭打ち、もしくは低下してしまうことも考えられます。

次回は採用ミスマッチを防ぐにはどうすれば良いかについて書いていきたいと思います。

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