マガジンのカバー画像

34
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

落葉

少し眠るわね、
まるで気のないように
おまえは髪を切り落とした
燃える赤がハラハラリと
妖精のように空を舞い
地面に波紋を描く
それから膝を抱えて動かなくなった
小さな火種のそのまた前ぶれような
かすかな呼吸音だけがそこに残った

書を積む

本の背表紙が色を淡くした

中から文字が溶けて透ける

呼吸をするように微かに発光している

本棚に咲く花は濃い芳香を放っている

君はそれを摘みあげて積み上げて

明後日と一昨日と5年前と2年先とを

音もなく反復する

窓も開けていないのに

レースカーテンが揺れている

空洞

都会には人知れず空洞がある
ビルの隙間に側道の中に公園の裏手に
誰にも気づかれない空洞がある
風の線を伝って私はそこに辿り着と
体を譲って纏った何かを振り落とす
空洞はそれをものの数秒で
すっかりと飲み込んだ
そしてまた次の空洞を探す

夏夜の終わり

ゆっくりと

夏を脱ぎ去るように

あたたかい雨が降っている

湿った空気が皮膚を撫でて

頬杖をついたまま目を閉じて

窓の外へじっと耳をすませる

私もこのままやさしい夜の黒に

薄く溶けていけたらいいのに