『頼まれてしまった』
灰皿から溢れた吸い殻が雨水を含んで
異様に膨れているのが滑稽
傘を差しながら煙草を燻らす
透明のビニール傘に煙が充満する
同僚の気になっているコ
ランチ帰りなのか俺の目の前を横切っていく
仲間との会話に夢中なようで
俺になど気づく様子は微塵もない
だからといってオフィスでも
俺のことなど気に留めることはない
席に腰を下ろすか下ろさないかのところで
上司から呼び出しがあった
こいつはいつも俺を呼び出してくる
たいした用事でもないのに
「あのな」
「はい、何でしょう」
「煙草、やめてほしいって、みんな」
「え、私、え、はい」
「けっこうな、あれなんだ、あれ」
「えぇ、そう、ですか…」
「頼むよ」
「はい…」
思いがけず
頼まれてしまった
だったらもう
転職かな
その前にあのコに声をかけないと
きっと嫌煙家じゃないはず