『またの機会に』

土地勘のない街へ

はるばる逃げてきたものだから

捕まったあとは所轄のほうへ

護送されることになって

距離にして８００ｋｍはあるだろう

盗んだ軽自動車で通った高速道路を

今度はセダンの覆面パトカーで

折り返すことになる

途中でパーキングエリアに寄って

休憩になるとは思わなかった

トイレにいけた

腹が減った

パンを買い与えられた

ほんとうはうどんが良かった

カレーうどんならなおよし

俺は何を言ってるんだ

銀行強盗をして

逃げて

ビビって

仲間を裏切って

自分だけ自首して

こうしていま

クロワッサンと

カフェオレを

不自由な両手で

頬張っている

情けないったらありゃしない

後部座席３人掛けの

まんなかで

ごつい警官ふたりに

挟まれる俺

滑稽な姿だろうな

ところで

初夏の日差しが強くて

南側に陣取る警官は

ずっと暑そうだ

まあごくろうなことだな

給料をはずんでやってほしい

ってそういうものでもないか

考えてみりゃあ

いま俺が食べている

クロワッサンとカフェオレも

税金で賄われてるんだよな

警察車両なら

高速道路代はタダかな

だとしてもガソリン代は

ぜったいに掛かってるよな

そういえば俺が盗んで

自首のときに渡したカネは

どこに行くんだろう

銀行に返される？

そうだといいな

悪い警官がいて

何枚か

いや何束か

抜き取ったりしないだろうか

ちょっと気になったから

警官にそれとなく

聞いてみようと思ったけど

そういう雰囲気でもないので

またの機会にしておく

またの機会ってなんだよ

本当にバカだな俺は

ググってみたら

案外わかるかも

ってそうだ

スマホ没収されたんだった

バカすぎて俺はもう

しにたいよ

でも死刑はいやだな

裁判がんばろう