『しばらく誰にも、会わないようにしないと。』
学生時代から続けて12年ほど住んだ部屋を離れた。とくに前向きな理由はないんだけど、ものぐさな自分としてはめずらしく気分転換にと思って。
たいして給料があるわけじゃないから、グレードアップはできない。部屋は替えたいけど、この街は移りたくないから、そんな条件で探した。
これまでは駅の北口を降りて、街灯の少ない住宅地の奥のぼろアパートだった。こんどは同じ駅の南口、商店街を抜けたすぐのマンションで。
オートロックになった。
トイレとお風呂が別々だ。
光ケーブルが引いてある。
当たり前だけど、生活は少し変わって。
不思議と、友達を呼ぶ気にはなれない。これまでは、たこ焼きパーティだとか、冬になればお鍋をやろうかとか、適当な理由をつけて誰かを呼んでいた。ときには1週間以上も居続けるコもいた。名前も知らない友達の友達が紛れていることもあった。
もうそういうのは、たくさんかな。
お芝居の台本は捨てる。
無駄に派手な服は売り払って。
冷蔵庫の安酒は流してしまおう。
これまでの当たり前は、もう当たり前じゃない。夜な夜なくだらないことを話しながら、だらだらと飲んでた時間。今後はそれを勉強に充てたり、あるいは何か新しいことを始めたりして自分磨き。そんな生活にシフトするべきだと思う。
給料は少ないけど、そんなのなんとかなるさ。新しい自分を見つめよう。
がんばって!勇気を振り絞って!変われ!変わるんだ自分!
二重瞼にする。
顎は削って。
鼻を高くするんだ。
しばらく誰にも、会わないようにしないと。