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『石』


父の故郷はだいぶ田舎で

良質な石が採れるまち


曽祖父はその採掘を

稼業としており

全盛期には

墓石ひとつ売ったら家が建つ

そんなふうに形容されるほどの

ブランドを誇ったらしい


いまやむかし


掘れば掘ったで

その資源は枯れて

削られた山肌だけが

その風景には残っていて


--


ちょうど時局は

世界大戦のまっただなか


国中が物資不足に喘いでいる


鍋釜を差し出し

芋のつるを喰らって

生き凌ぐ生活が続く


そんな折


軍当局の担当者が

曽祖父のもとを

不意に訪れた


荒削りでかまわない

石を差し出せと


曽祖父は軍隊さん相手に

媚びへつらうような

そんな態度を見せつつも

ごらんのとおりあの禿山では

お出しする石もございませんと

そのように追い払ったという


もっともそれは

嘘ではないが嘘であり


採石場はがらんどうとなっても

石堀りの連中は皆ほうぼうに

とりわけ良質な石を隠し

家宝として大切に

仕舞っていたというから


どうやら軍部は

爆弾の代わりに

飛行機に石を積んで落とす

そんな作戦を練っていたそうだ


遠く離れた別の産地の石は

これまた遠い南国で

爆弾ならぬ爆石として

実際に投下されたというのも

むごたらしく

哀しい逸話


--


曽祖父の墓前で

手を合わせつつ

父もまた祖父から

口承されたらしい

そんな話を

受け継がれた






※史実をもとにしていません念のため








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