『（そこでも泣いた）』

人目も憚らず

俺は泣いた

教え子たちの

勇ましい姿

まさか弱小校の我々が

全国の頂点に立つなんて

俺がこの部の監督に就いて

もう１０年になるのか

きょうここで勝ち取った

その栄冠は

これまで１０年間の

いいやそのもっと前からの

先輩たちの想いも

ぎゅうぎゅうに詰まって

胴上げをされながら

そんなことを考えたら

なおのこと泣けてきて

俺は涙をまき散らしていた

俺が頑張ったんじゃない

みんなが頑張ったんだ

ありがとう

ありがとう

俺の人生はもう

衰えるいっぽうかと

そんなふうに思っていたけど

まだまだ捨てたもんじゃない

また明日から

新たな気持ちで生きていこう

グラウンドで泣いて

宿舎へ戻るバスでも泣いて

夜の祝勝会で泣いて

部屋でもひとり泣いて

妻にも電話越しに

笑われるほど

泣いた

あくる日

腫れぼったい目で

地元に凱旋

空港には横断幕

数百人の出迎えがあった

市長からは握手を求められ

ミスから花束を受け取り

また俺は泣いた

もうほんとうに

きのうから俺は

生徒にはもちろん

マスコミにも泣き顔しか

見せていないよ

セレモニーが終わり

学校で簡単なミーティングのあと

（そこでも泣いた）

自宅へようやく帰宅

大会前の合宿も含めると

およそ１か月ぶり

妻の顔を見て

また泣いた

妻はまた笑っている

久しぶりの

夫婦みずいらずのディナー

乾杯してまた泣いて

今夜くらいは部の指導は忘れて

映画でも観ましょうって

妻が言うから

それにのったら

また泣いて

もうここ数日間

ずっと泣いて

泣き腫らして

結膜炎になったよ

眼科の先生にも

笑われて

処方された目薬が染みて

また涙が出そうだよ