『かれこれ10年は守っている』
俺はこのサッカーチームの
ゴールキーパー
かれこれ10年は守っている
あのとき俺はハタチだったから
三十路になっているんだ
キックオフから10年あまり
ずうっと守っているけど
一本もシュートが飛んでこない
それどころか
広い広い地平線の
さらに向こうの相手ゴールまで
仲間たちは攻め込んだまま
ずうっと戻ってこない
10年経過したこの時点
きっと味方は
善戦しているんだと思う
幸か不幸か俺は出番がなくて
あんまりにも退屈だから
正直言って
ゴールを離れたくなるときもある
でも万が一俺が離れたせいで
失点してしまったら
チームメイトに示しがつかない
ところで
試合はあとどれくらい
あと何年ほど
続くのだろうか
審判のホイッスルも
ぜんぜん聞こえてこないよ
ゴールを守るのは俺の仕事だけど
そろそろ別のことも
やってみたいな
進学もしたいし
就職もしたい
恋愛もしたいし
新しい家族もほしい
ただ俺には
ゴールキーパーという大役がある
シュートはいっこうに
飛んでこないけどね