『「まぁたしかに、仮に同級生でもねぇ」』
この家を建ててもう10年が過ぎたか
郊外の狭い土地とはいえ
注文住宅を購入した
私は庭とテラスにこだわり
妻はキッチンと浴室にこだわった
ある昼下がり
私と妻がコーヒーで一服していると
インターフォンが鳴って
薄緑色の作業着姿の
リフォーム業者を名乗る男
いつもならば
門前払いをするところなのだが
高校の同級生Nだ
私はモニター越しに
その男の顔を見て驚いた
何年ぶりになるだろうか
2年生3年生と同じクラスで
毎日のように遊んだり
それから勉強したりしていたが
私は志望する大学に受かり
上京した
いっぽうでNは
受験に失敗
なんとなく気まずくなり
卒業後は連絡も取らなかった
逡巡する
思い出話に花を咲かせようか
だけどいまさら
向こうは私の顔など
見たくないだろうに
あぁそれから
いったん招き入れたら
いまはリフォーム業者と
客の立場
どんな契約をさせられるか
そんなことを考えたあげく
結果いつもと同じように
間に合ってますので
そういってインターフォンを切った
「変な間があったけどどうしたの」
妻が問いかけてきたから
理由を話す
「へぇすごい偶然」
だけどあれが本当にNだったかは
わからないんだよって
自分へ言い聞かせるつもりで
妻へそう伝えて
「まぁたしかに、仮に同級生でもねぇ」
妻も同じことを思っていたようだ
リフォームなんて間に合っていると
ふたたびインターフォンが鳴った
今度は宅配業者のようだ
妻が受け取りに出た
「やっと届いたぁ!」
嬉しそうに段ボールを開梱する妻
何を買ったのかと問いかけてみると
「こないだ駅で久しぶりに同級生にあってね、その子わたしと同い年なのにものすごく肌が綺麗なの、それで、どうしてそんなに?ってたずねたら、その美肌の秘訣を教えてくれるっていうからそのまま盛り上がって、お茶しようってカフェに入って、そしたらその子すっごく用意が良くて、偶然自分が使ってる化粧品のパンフレットとサンプル持っててね、勧めてくれ…