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nekonosara
『一瞬の気の緩みが』
この国に潜んで早や
三か月になろうとしている
あらかじめ母国で習得した
この国の言葉も
すっかり当地流に馴染んで
"偽造のビザ"が切れるから
一旦帰国せねばならない
"観光ビザで雇われている"仕事先に
理由を告げて休みを乞う
というのは表向きの理由で
私は情けないことに
諜報員をクビになった
つまりはほんとうに
偽造の観光ビザで
不法にこの国に入り
不法に職を得ている
ただの犯罪者に
転げ堕ちた
もはや言い訳など
できるわけがなく…
いま思えば
2か月半ぶりに与えられた
72時間の休暇
身よりもいないこの国で
それを持て余した私は
ターミナル駅の広場で
朝な夕な
鳩に餌をやり
怠惰な時間を過ごした
誰が想像しようか
AIがチェスで
人間を負かす時代に
伝書鳩が
国際諜報の舞台で
現役であるなど
私が餌を撒いていた鳩は
私の母国の鳩だった
私が諜報部に入る
そのずっと前から
活躍している鳩だった
私の撒いた餌は
駅前のスタンドで買った
ポップコーン
悪いアブラを使っていたらしく
鳩は体調を崩し
我が母国に
帰還できなかったという
知らぬこととはいえ
"先輩"に危害を加え
ミッションを妨害した私は
処罰されたということ
一瞬の気の緩みが
命取りになった
ていうか先輩さぁ
ミッション中に
駅前で餌喰うなよ
(あとがき)
いま流行ってるあのスパイ漫画とは関係ないんだからねっ!