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『お金の人』


「あんにゃろう、俺の貸した金溶かしてからに」


よもやま話というよりは

愚痴に近い


「だから嫁さんにも逃げられてっからに…」


せいちゃんは酒さえ奢れば

いくらでも俺に付き合ってくれる


俺が話してる間はずっと

目を薄めてうなずいている

たまにグビっとやりながら


「あ、ごくろうさまですぅ、ほらどいて」


お金の人に迷惑をかけないよう

清ちゃんに云う


お金の人はだいたい

火曜と木曜と土曜の

昼近くにやってくる


「飲みますか?」


なんて冗談も出るほど

お金の人の顔を覚えた

かならず二人ペアでやってきて


これまではココで飲むのは

俺ひとりだったけど

清ちゃんを誘ってみたら

よけいに楽しい


「いくらくらい入れるんです?」


通うようになって幾度も

この質問をしているけど

いっこうにお金の人は

答えてくれない


お金の人は

どんな家族がいて

どんな趣味があって

どんな生活をしてるんだろう


そんな想像を

膨らませるだけでも

ちょっとした肴になる


「暑いですね」


そうですねと

ようやくまともな言葉が

返ってくる


清ちゃんは

俺とお金の人の

やり取りを

ぼうっと見つつ

缶チューハイを

グビグビやってる


ケイサツはだいじょぶなのかって

清ちゃんはヤボなことを

訊いてくる


すごく気を使って

お金の人が機械を触ってるときは

その場から離れるようにしてる


だいじょぶだから

ここで飲んでんだよと

昼下がりの

ATMで


お金の人

ご苦労様です


たまには何枚か

俺によこしてくれないかな

まぁそれは冗談だけど…


ところで最近気づいた


ここでお金を下ろす人

ぜんぜん居ないな

なんでだろう


補充だけ

してるのだろうか


それともまさか

俺が邪魔して…


いやそんなはずは…

身なりには気を遣っているし


声を掛けられれば

ビールでもチューハイでも

奢るつもりだよ

あぁもちろん

ツマミもつけて



(続編)












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