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『だいぶ用意がいいじゃないか』


念願の別荘を手に入れた


都会の喧騒から離れた

ごく静かな場所に


ある実業家が所有していた物件を

その人が亡くなったというきっかけで

知り合いを辿って購入した


少し築年数はあるけども

手入れが行き届いており

その古さは感じないうえに

たいそう清潔に保たれていて

妻も私も

とても満足している


そしてこの高台から見下ろす

水平線が格別

目下の岬と灯台を除いては

視界を遮るものはなくて

地球が丸いことを実感する


私は料理を趣味としているので

この地で獲れた魚や肉

それに野菜を使って

旨い飯を作るのも生きがいのひとつ


いまそれらの食材は買い取るのみだが

そのうち釣りを覚えて

農業にもいそしみたいところ


あぁそれから

狩りなどもできるだろう


来客があった


宅配業者を除いては

拙宅への来訪は

とてもめずらしいことだ


どうやら町内会へのお誘いだという

そして会費を納めてほしいとのこと


いやだわ

ぜってーいやだわ


おまえらどうせ俺らのこと

陰でねちねち言って

そんでなんかいたずらされたりして

嫌な目に遭わされるんだろ


知ってんだぞ


俺の友達が現にやられたからな


という気持ちを抑えつつ

私は恭しくお断りの意を伝えた


また来ますと言って

連中は拙宅をあとにした


もう二度と来るなと

心のなかで舌ベロを出しながら

私は扉を閉めた


気分が悪くなったので

塩を盛るついでに

ちょっと散歩にでも出ようか


やつらが完全にいなくなる

その頃合いを見計らって

私は玄関を開けた


やはりここは空気がうまい


と言いたいところだったが


私の足元に置かれていたのは

カラスの亡骸


だいぶ用意がいいじゃないか

上等だ


こちらだって

負けていないぞ


そう覚悟した私は

いったん部屋へ戻り

保管庫から猟銃を取り出した


見ていろよ田舎者たち











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