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『きっとそれはいつの時代も』
3年ぶりの娑婆の空気は
やっぱりうまい
しかし働く気にはなれず
だいいち働こうにも
まともな仕事がないことも
よぉくわかっている
だからナカで
準備は済ませていた
かなり綿密な計画だから
きっとうまくいくだろう
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一晩まるまる
高速道路を飛ばして
大きな都市に辿り着いた
昨日の夕方
俺は小さな地方都市の
信用金庫を襲って
みごと現金の強奪に成功
近くの駐車場に
用意してもらっていた
逃走用のクルマに乗ったわけ
あぁもちろんこれは盗品で
県境を跨いだら途中で乗り捨て
タクシー運転手を脅し
しばらく走ったら
小さな駅の柵を乗り越え
電車に無賃乗車
そのあとは偽造免許証と
偽造のクレジットカードで
レンタカーを借りて
無我夢中で
何も目に入らなかった
でも俺は逃げ切りに
成功した
検問が敷かれるまえに
あのまちを抜け出せたのが
大きいと思う
落ち着いたところで
これまた盗んだスマホを
ふところから取り出し
ネットニュースを確認する
おかしいな
ひとつも記事が見当たらない
地元の地方新聞の
WEB版にも
そしてSNSでさえ
あぁあるいは警察が
情報統制を敷いて
隠密捜査ということなのか
そりゃあ出所当日のやつが
容疑者となれば
世間の風当たりも大きいから
納得だな
ところで俺が強盗をした動機は
カネはもちろんのこと
承認欲求もあった
だからまったく騒がれていなくて
少し落胆したというのが
俺の本音でもある
もっと騒ぎになってほしい
信用金庫の名前が入った
札束入りのバッグを
写真に撮って
SNSに投稿した
拡散されて
この大都市で
すぐに顔が割れて…
そう甘くはなかった
考えてみれば
俺のフォロワーは
ひとりもいないんだ
これだけの悪事を働いても
まったく相手にされていない
もうどうにでもなれと
俺は繁華街のどまんなかで
札束をばら撒いた
どうだ俺は大金持ちだぞ
欲しければ拾え貧乏人ども
撮影しろよ暇人ども
そんな思いもむなしく
ひらひらと木枯らしに乗って
札束は舞い散るばかり
行き交う人々は俺にまったく
見向きもしない
どうなってんだこの国は
おかしいだろう
気を紛らわすために
自販機で缶コーヒーを買おう
表示されている金額をみて
俺は驚愕した
そりゃあ相手にされないわけだな
俺は自分の無知さ馬鹿さ加減を
改めて思い知った
たったの3年で…
強奪したカネでは
コーヒー1本も買えないほどの
ハイパーインフレ
おとなしく実家に帰って
かあちゃんに肩たたき券でも
作ってあげよう
きっとそれはいつの時代も
プライスレス
うーんなんだか
照れくさいな
(あとがき)
きっとこれ昨日の続編というか並行してる話です。書いてる自分でもよくわかりませんが、つなげてしまって構わないかなと思ってきました。そう考えると切ない話ですが。