『神様はいないと思うよって』
マスターに愚痴ってばかりいたら
アタシとしたことが
終電を逃してしまって
そういえば
４杯目のモヒートを頼むときに
時間だいじょうぶ？って
マスターは訊いてくれてたな
すっかりだめだねアタシ
ヤケになったから
ちょっと濃いめで
ミントが多めのモヒートを
でもこれでラスト
３０分後にタクシーを
横付けしてもらうように
マスターにお願いしたから
もうだいじょうぶ
おかわりをごくり
あぁもうさいこう
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ひとつ空けたカウンターの端の
猫背の男に話しかけられた
アタシと同じくらいの歳かな
こういうことは
別にめずらしくないのだけど
この人はずっと
むずかしそうな本を
読み耽っていたから
まさかねぇ
「神は存在するとおもいますか？」
なにその誘い文句
バーでオンナを口説くのか
宗教の勧誘なのか
区別がつかないよ
「直感で構いませんからお聞かせください」
彼の手元のグラスは
ロックアイスが
すっかり溶けきっていて
「ちなみに僕は…」
そう言いかけたところを
アタシは手で制して
だってせっかくの
美味しいモヒートが
なんだか残念なことになりそうで
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タクシーが着いたみたいだと
マスターが声をかけてくれた
もうそんなに経ったんだ
お勘定を済ませて
ちょっとふらつきながらも
無事に乗り込んで
神様ねぇ…
いないと思うけど…
あっ！
山田じゃん！！！
さっきの彼
山田じゃん
なんであそこにいるの？
なんで名乗らないの？
きっも！
そういえば高校のときもずっと
ひとりで本を読んでたなー
たしか卒業目前の３学期
隣の席になったとき
いきなり神様いると思う？とか
訊いてきたなー
うわー
なんなの？
めっちゃ怖い
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目覚めたら
昨日の服のまま
アタシはベッドに倒れ込んでた
もう会社に行く時間
急いでシャワーを浴びて
メイクをして…
あっ！
そっかなるほど
マスターはやっぱり
やさしいな
さすがはクラス…
じゃなくて学年…
ちがう学校イチの
コミュ力の男だけあるね
山田ともいまだに
付き合いがあるなんて
ところでマスターの名前
なんだっけ
開業してからたまに行ってるけど
他のお客さんの手前
名前じゃ悪いから
マスターって呼んでたせいで…
また来週にでも行って
本人に訊ねちゃおう
なんだか楽しくなってきたな
山田もきてたら
今度はアタシが話しかける
神様はいないと思うよって
それに
予め断っておかないと
神様はいないけど
アタシにはいちおう
彼氏がいるよって