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【表現研】ようこそホラーの世界へ #1 怪談の世界そしてその未来

 みなさんはホラー、お好きでしょうか。この記事を見つけてくれた方はわりかしお好きという方が多いかもしれませんね。
私はホラーが大好きです。恐怖のどん底で心が震えるあの瞬間を味わいたくて、日々色々なホラーコンテンツに手を出しています。本シリーズでは私の愛してやまないホラーコンテンツについて、拙筆ながら考察を加えることで、ホラーの魅力を再発掘していきたいと思います。また、これから先のホラーの未来へ目を向け、テクノロジーとホラーの融合の果てを夢想していきます。
 様々なコンテンツの紹介をしていきたいと思いますが、初回は“怪談”にしましょう。映画やテレビが存在するはるか昔から存在した最古のホラーコンテンツ、その現在の形を眺めることからこのシリーズを始めていきたいと思います。

■現代怪談の火付け役 稲川淳二
 怪談で有名な人は?と聞かれたら多くの人がまず想像するのは稲川淳二ではないでしょうか。今年で73歳。巧みな話術から様々な名作怪談を生み出しました。私は個人的に『ゆきちゃん』『長い遺体』『バーテンとの再会』等が好きです。彼の怪談の魅力は何でしょうか。正直なところあまり滑舌はよくないし、声質もどちらかというと嗄れ声に近いです。私は彼の怪談の最大の魅力は全体を通したリズム感、そしてそのリズム感を最大限に活かせる怪談自体のプロット作成能力にあると考えています。

■ジェットコースター話法
 リズム感が大事という話ですが、稲川は自身のこうした語りについて2016年8月のラジオでこう語っています。

初めからトーンを落としてもいいと思うの。
話の場合って、日常から非日常に変わる状況が怖いわけじゃない? 日常がないと、寂しいじゃない?私の怪談は、「おまえは裏切りだ」と言われるんだけど、普通に笑って話していながら、だんだん怖くなってきちゃうんですよ。気がつくと怖くなってくるんですよ。これは、ジェットコースターと同じなんですよね。

怪談話を聞くとき初めから「さぁ怖い話をするぞぉ~」というおどろおどろしい雰囲気で話し出されると、聞き手は案外冷めてしまうものです。怪談はいかにもなんでもない日常会話を聞いている気持ちにさせるかが大事なポイントになってくるようです。稲川はこうした話法を通して、登場人物や怪異そのものの造形描写を導入部から丹念に展開します。聞く人によっては冗長にすら感じられるほどのゆとりが物語全体の奥行の深さを醸造し、怪談話を単なる怖い話を超えた物語として構成するのです。

■youtube × 芸人怪談師 怪談ブームの再来
 稲川淳二以降の怪談師としては新耳袋の中山市郎や茶屋町怪談の北野誠、浜村淳、桜金造、つまみ枝豆等のいわゆる第二世代が続き、そして2010年以降は怪談グランプリやyoutubeを通して、島田秀平、ぁみ、三木大雲、松原タニシ、ナナシロなどが人気を博すようになりました。その他、都市伝説系の話を収集しまとめてyoutubeで朗読するというスタイルも存在し、「ごまだんごの怪奇なチャンネル」等はそのスタイルやイケボが人気を博し、登録者数は8万人を超えています。
 本来人を笑わせるプロであるコメディアンからの流入が目立ちます。怪談は話術ですから、スキルとしては共通するのでしょう。「人志松本のぞっとする話」が人気を博し始めたのが2010年以降ですから、やはりこの10年間で芸人怪談師は飛躍的に増えたのだと思います。芸人の若手怪談師の特徴としては、“刹那的な表現スキルは非常に高いが、全体構成が甘い”という印象があります。視線を遠くから一気に目の前に向けさせる話法や短いセンテンスに恐怖情報を凝縮する話法など、芸人の若手怪談師は非常に上手にこれら刹那的スキルを使用します。ただ、話全体がこれらスキルの詰め合わせになっていて、全体としての物語性に欠ける話が多いのです。結果、聞き終わった瞬間は怖いが、印象には残らない話が多くなってしまう。これは“手っ取り早く5分で怖がりたい”というインスタントニーズに答えた結果生み出されたスタイルなのかと思いますが、個人的にはもう少し長尺で奥行のある怪談がもっと聞きたいなあと思っています。
 芸人以外では三木大雲が中々勢いがあります。現役の和尚が袈裟を着て怪談するものだから謎の説得力がある。ちょっとズルと言えなくもないが、やはり怪談の怖さには“誰が話しているか?”という属性が多分に影響するのです。(三木の話もyoutubeで聞けます。中々良いですよ。)
いずれにせよ、現代の怪談の発信はSNSを通して、だれでも容易にできるようになっているのです。売れない芸人、怖い話好きの素人、和尚どんな属性の人間でも容易に発信者になれてしまうゆえに供給過剰になっている感があります。

■怪談とテクノロジーの親和性
 これからさきメディア表現がテクノロジーの発展により変化を続ける中で、怪談はどのように変化していくでしょうか。下図はホラーコンテンツの特徴を「体験的―鑑賞的」「情報量 高 低」の二軸に分けてプロットしたマトリックス図です。完全に雰囲気と私の直観なので、今後変える可能性は大いにあります。

ホラーコンテンツ分布図


 これまでテクノロジーはデジタル情報を高密度にしていくこと、インタラクティブ体験を充実させていくことを通してエンタメコンテンツを発展させてきました。ホラーコンテンツの行く末もこの範疇にあるのならば、そのデータとしての情報量と体験性に着目して分類することは何らかの意味を持つはずです。
 映画やアニメなどをやや「体験的」寄りに配置したのは、劇場体験を考慮してのことです。特に最近の4DX等のサービスは家でただ鑑賞するのとは相当に異なる体験を提供している(であろう)という評価です。
こうして並べると、怪談は他のホラーコンテンツと相対的に鑑賞的であり、情報量も音声情報のみで少ないといえそうです。より体験的であり、高情報を扱うコンテンツがテクノロジーの進化と親和的であるとすると、怪談は真逆のいわばオワコンであると評価することができるかもしれません。でも私は怪談には期待しているのです。
(赤字で右上の方に別途、怪談をプロットしている理由については後段で述べていきます。)

■怪談の身体性・ローカル性
 怪談という音声情報・文字情報はこの10年で容易にデジタル化され、拡散されました。一つ一つの怪談は顔を無くし匿名性を獲得したおかげで誰にとっても同じ品質の工業製品として怪談市場で日々一様に消費されています。
しかし別の流れもまた存在します。最近各地で「ふるさと怪談トークライブ」という地域に伝わる怪談をトークイベントで取り上げる試みがなされています。きっかけは2011年の東日本大震災でした。復興のチャリティイベントの中で「ふるさと怪談トークライブ」が開催されるようになり、それに呼応する形で全国様々な地域でもその地域の怪談を地域活性化のために生かす取り組みが行われるようになりました。こうした文脈で語られる怪談はある一定の集団の中でのみ価値を持つという意味で普遍的ではありません。ふるさと怪談は“その集団固有の身体性を持つ”といえるかもしれません。
また全国各地で有名怪談師のライブツアーというものが最近増えています。これは怪談にも音楽などと同じように実際に同じ空間で生で体験することの価値が存在することの証左ではないでしょうか。
 怪談は工業製品化される一方で、これらの例示が示すようにその身体的価値も共存するいわば二極化したコンテンツとなりつつあるのではないでしょうか。(上記マトリックス図では、工業製品的怪談と区別するために赤字で身体的怪談を別途、プロットしています。)

■怪談の未来
 誰でも怪談を発信できる現代、これから先怪談はどのように形を変えていくでしょうか。テクノロジーの発展により、工業製品的怪談はより低コスト・高効率に生産できるようになるでしょうが、他の体験型コンテンツと比べその魅力は低下し、純粋な「鑑賞的・非身体的」語りは今後、表舞台からは姿を消すのではないでしょうか。そして、実際に語り手と相対し、空間を同じくし、お互いの表情やしぐさ、あるいは地域的バックグラウンドをまとめて共有する中で行われる超密接・超ローカルな身体的な怪談はテクノロジーの援護を経て、その体験丸ごとをデジタル化することで、未来も生き残り続けるのではないでしょうか。

〈次世代の“身体的な”怪談に関する妄想〉

デリバリー和尚:
アップルグラスをかけると目の前に和尚が現れ、自分だけに向けて怪談を話してくれる。こちらのリアクションを観察しながら話す間や抑揚等を調整してくれる。
『俺の怪談』作成サービス:
生い立ちや思い出等のAIの入念なカウンセリングを通して、自分だけの究極に怖い怪談を作成してくれるサービス。本当に自分の恐怖スイッチをズバリ押してくれる仕上がりになるため、サービスの利用には同意書が必要。

・・・と今回は“怪談”についてクローズアップしてみました。専門知識もない中で素人が好きなように書いてしまいましたが、なにかすこしでも残るものがあれば幸いです。
それでは次回は別のコンテンツで。


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