見出し画像

小学校時代の遊びで人生を考えさせられた話

「生まれたて!赤ちゃん!幼稚園!一年生!…」

"あっち向いてホイ"をしながらリズムを刻むこのゲーム。小学校時代に経験した事がある方も多いと思う。

引っかかってしまった所がその人の年齢とか言って遊んでいたのが懐かしい。

「あー!赤ちゃんだ!」「よっしゃ大人!」
大学生とか大人まで進める人はごく稀で、大抵は赤ちゃん、進んで小2ぐらい。自分の年齢より下で止まってしまう所がこのゲームの面白さでもある。

いやぁ、とっても平和な時代だった。



私には小学3年生の弟がいて、学校で流行っているというこのゲームを約10年ぶりにすることになった。学校で流行るゲームを開発する人は凄い。もはや伝統文化になりつつある。

弟が鬼(指示役)で、私が首を振る係になった。

首をコキッと鳴らし、準備完了。弟の指先を見つめる。

「生まれたて!」

弟は右を指す。私は上を向く。
よし、生まれたては耐えた。

「赤ちゃん!」

弟は上を指す。私は右を向く。
なんだか良い調子。

「幼稚園!」

弟は左を指す。私は下を向く。

「1年生!」「2年生!」「3年生!」

3年生の弟は自分の年齢を超えた事が嬉しいのか、「おぉ〜!」と小さい声で感嘆の声を上げる。

「4年生!」「5年生!」



ここまで来たとき、私は気づいてしまった。


私の頭の中には10年分の記憶と経験が積まれていることに。

18歳の姉は小学生の弟を前に、ある戦略が閃いてしまった。


弟は、前に出した方向を2度繰り返すという作戦を身につけていなかった。2回連続で右を出したり、左を出したりすることを一切しなかった。

つまり、弟が1つ前に出した方向を向けば、永遠にゲームを続けられると言う訳だ。このままいけば子供の頃に憧れの的だった、ゲーム内での「大人」になれるのだ。


…いや。いやいや。流石にオトナゲなさすぎる。

相手は弟とはいえ小学3年生。

これまで学校の休み時間に必死に戦ってきたゲーム相手の中で、最強が「18歳の姉」なんてそんな情けない話があろうか。

こちら側もゲームに参加する以上、真剣勝負をモットーに取り組む訳ではあるけれども、姉側が勝ち誇っている真剣勝負なんて誰も望んでいない。

弟よ、君はなんて可愛いんだ。作戦などに囚われず、自分が出したい方向に指を向ける。こんな純粋で綺麗な心を彼はまだ持っているのか。

きっとあなたも10年後、こんな気持ちを抱えながら「あっち向いてホイ」をする事になるのだよ…。今を大切に生きて…。

ここまでの感情を僅か0.5秒で感じた後、私は決断をした。

「弟の為に、勝とう。」

これは決して私の為ではない。
勝って弟に教えてあげたい。

お前は純粋すぎるんだ。作戦というものを覚えるべきだ。

これからの世の中を生きていく為に。
私がその案内人になりたい。

「6年生!」
弟は右を指す。私はゆっくり上を向く。

弟、ごめんな。世の中の事をちょっとばかり知っているからって。


「中学生!高校生!」
あんなに辛い事が沢山あった6年間が、1秒の間で、指一本の動きだけで乗り越えられていく。

「大学生!」
不安を抱えながら待ち望んでいる4年間が、一瞬の内で通り過ぎていく。

「大人!」
ついに小学生の私の憧れだった「大人」に辿り着いてしまった。
10年経つと、「大人」への簡単な辿り着き方を学んでしまう。相手の心理を読まずとも、法則だけで生き残る事ができてしまう。
とても皮肉な話だと思った。

その後も弟の高い声で年齢がどんどん重ねられていく。

おばさん、おばあちゃん、ひいおばあちゃん。

このゲームは「大人」が喜びのピークだということを思い知った。
もし「おばさん」で引っかかったら、笑うに笑えない空気になってしまったりするのだろうか。それとも、こんな考えになるのも私が成長したからなのだろうか。

カウントはどんどん大雑把になる。確かに、8割型中学生までには引っかかってしまうゲームだもの。この辺のカウントなんてほぼ必要無いのかもしれない。これがまた、なんとも小学生らしい。

「天国!」
ついに私は死んでしまった。

「地獄!」
人生は忙しい。少し悪い言葉を覚え始めた弟は、ケラケラ笑いながら「じごく!」と言った。

「生まれ変わり!」
生まれ変わってしまった。

「生まれ変わりの生まれ変わり!」
流石の弟もネタ切れか。うーん、と考えながら、生まれ変わりの次の言葉を探す。そりゃそうだ。生まれ変わったらまた最初からやり直せば良いんだもの。けれど彼は必死にネタを探す。止めるのも勿体無くて、私も少し待ってみる。

数秒経って、

「ゴリラ!」
おぉーー。そう来ましたか。人間の枠を超えて。
ついに私はゴリラになってしまった。
赤ちゃんだった私が30秒後にはゴリラになっている。楽しい、すごく楽しい。
私が笑うと、弟は嬉しそうにもっと笑った。
よし、もっと来い。何が来ようと受け止めてやる。

「地球!」
まじか…!!!
人間の枠を超えたと思った次は、世界の枠を超えてきましたか!!渋いセンス!

「地球の外側!」
ひょえぇ〜!私は宇宙に放り出されてしまった!!!面白い!!面白すぎる!!!

ここで、流石に弟も飽きてきたようで「おしまい〜」と手を降ろした。
私も笑いながら「もうええわ〜!」と言った。

「何でそんなに強いん?」と弟。
私は言うか少し躊躇いながら、「作戦もっと考えなあかんねんで!」と教えた。

弟はキョトンとした顔で一言、「へぇ〜。」とだけ言った。



多分弟はこれからも2度同じ方向を出さないだろう。
そして、友達もそんな作戦が存在することに気づかないだろう。

そんな小学生達は、きっと私より強い。
この世の生き方を私より分かっているはずだ。

人生は上手く生きることが全てじゃない。
そんな事をこのゲームで学んだ気がする。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、私にとっては十分過ぎるほど理解できる体験だった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?