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信じる心を育てる『サンタクロースの部屋』のお話

我が家の5歳の娘も楽しみにしている、サンタクロースからのクリスマスプレゼント。聞けば同じクラスの女の子の間では、すみっコぐらしの子ども用パソコンが一番の人気らしい。

年始になればお年玉、誕生日にもプレゼント、そしてクリスマスまで。。。子どもへの贈り物はとてもワクワクするものだけど、商業主義に踊らされているだけでは?と、実はあまりポジティブな気持ちでクリスマスを迎えられてはいなかった。

でも、育休中に出会った保育関係者の方から『サンタクロースの部屋』の話を教えてもらい、ちょっと考え方が変わったのだ。

「子どもたちは、多かれ早かれ、サンタクロースが本当はだれかを知る。知ってしまえば、そのこと自体は他愛のないこととして片付けられてしまうだろう。しかし、幼い日に、心からサンタクロースの存在を信じることは、その人のなかに、信じるという能力を養う。わたしたちはサンタクロースその人の重要さのためでなく、サンタクロースが子どもの心に働きかけて生み出すこの能力ゆえに、サンタクロースをもっと大事にしなければいけない」

ー中略ー

心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。だが、サンタクロースが占めていた心の空間は、その子の中に残る。この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎え入れることができる。

サンタクロースの部屋 子どもと本をめぐって
松岡享子

サンタクロースの存在は、その子の『信じる心』を育てる、なんて素敵な考え方だろう。

思えば自分が子どもの頃も、クリスマスの時期にはサンタさんについていろいろ想像したものだった。どこからやってくるのか、プレゼントの希望はどのように伝わっているのか、どうやってすべての子どもたちにプレゼントを渡しているの。。。?

現実には見えないサンタクロースという存在を信じ、空想の世界を楽しみ、イブの夜にはワクワクしながらプレゼントを待ったのだ。

信じる心を育てる云々の前に、そもそも、サンタクロースの存在に"意味があるのか"なんて考えてしまう自分の愚かさを思い知った。娘がサンタクロースの世界を空想して楽しみ、友達と一緒にワクワクしながらクリスマスの日を待つ。それは宝物のような時間だ。

この本の著者は『くまのパディントンシリーズ』『おふろだいすき』など、長年にわたって絵本の翻訳や創作に取り組まれた児童文学者の松岡享子さん。公共の図書館の発展にも尽力してきた彼女が、子どもと本との出会い、親のかかわり方を論評として綴った中には、こんなくだりもあった。

だいたいこのごろは、それでなくても家族の数が少なくて、親の目が届きすぎ、子どもは、精神の発達に必要な精神的な空間ーそこでは、子どもは完全にひとりで、自由であるようなーをもつことができないでいるのではないかという気がします。

たとえ幼い子でも、その子だけの世界、あるいは、同じ年ごろの子どもとつくる世界というものをもつことが必要ではないでしょうか。

そうした精神的な空間があって、はじめて、子どもは、そこに、自分だけの、自分らしい何かー個性とか、人格とかーを育てていくことができるのだと思います。

サンタクロースの部屋 子どもと本をめぐって
松岡享子

情報に溢れた現代では、意識せずとも子どもにとって良さそうな情報が次々と入ってくる。

ひらがなやさんすう、英語にピアノ、さらには絵本にも知育要素を。。。など、注意していないと、意味のありそうなことで子どもの時間を埋め尽くしそうになる。

もしそんな、私のような親がいたら、ぜひこの本を手に取ってみてほしい。

松岡さんは、全ての子どもが本を読むべきだとも言っていない。

「やっぱり子どもの教育のために絵本を読み聞かせしよう」ではなく、「大好きなおままごとに娘が夢中になっている間、親だってお気に入りの小説でも読んでくつろごう」、そんな気持ちにさせてくれる一冊です。

本を読ませようとするのはいいが、目先の効果をねらった読書を強いて、子どもを本ぎらいにしてはつまらない。おとなも、子どもも、本を読むときは"上を向いて"いよう。そして、心が、より高い、よりのびやかな世界に向かって開かれているようでありたい。

サンタクロースの部屋 子どもと本をめぐって
松岡享子




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