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ロードオブザクッキング②

料理の数だけドラマがあるよね な話。

その2 シンプルパスタ

勤めている職場には、患者家族が利用できるキッチンがある。
コロナが流行する前までは、食事も料理も自由にできあたたかな雰囲気が流れていた。

特に食が細くなってきた方には、病院食よりも家族が持参や調理したものを少しずつ口にする方が満足度が高い為、食事制限は極力せず最期の時を過ごして頂いている。

ある夜、キッチンで鍋に湯を沸かす患者のAさんを見かけた。
優しく聡明でスタッフへの気配りも欠かさない方だった。

凛とした横顔は少しずつ痩け、病の進行を感じさせた。

「パスタなら、食べられるかと思って。」
静かに湯を見つめながらAさんはそう呟いた。

ゴポゴポ…
灯りを小さくしたキッチンで湯の沸く音が柔らかく響く。

ザァッと麺を入れ数分。
湯を切り、家族が持参したソースをかけ小さな皿に盛り、ゆったりとした足取りで部屋へ戻っていった。

静かな、神聖な儀式のような時間だった。

何を思っていただろうか。

諦観と静観。
そんな感情が入り混ざった横顔をしていた。

数週間後、家族に見守られながらAさんはこの世を旅立った。

今でもキッチンに立ち目を瞑ると、湯を沸かす音と共に静かな横顔を思い出す。

あの晩食べたパスタはどんな味がしただろう。

応えに耳を澄ましコンロの火を消した。

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