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小声コラム#30 パラレルワールド

僕のパラレルワールドの話をしたい。
どこぞの人間の妄想の話ほど、痛々しいものはないことは重々承知である。でも、仕方ない。僕はイタいヤツなのだ(公言する人間に真実はないと信じたい)。だからどうか優しい眼差しで文字を追ってほしい。

2021年2月、新居に引っ越した。
都心から離れて落ち着いた場所で、近くには大きな川が流れている。前の家よりも古く、年季の入ったアパート。1LDKでリビングは広く、寝室も十分な広さがある。キッチンが広くなったから、料理も捗るようになった。何より変わったのは、猫のホタテさんが僕のベッドで寝ていることだ。

3月には仕事をやめた。今まで取り組んできたコピーライターの仕事が、音楽家雑誌の編集者の方の目にとまり、コラムを書かせてもらえるようになった。それがきっかけで、フリーランスのカメラマン兼ライターという形で収入も1ヵ月で安定したことには、自分でも驚いた。社会は案外チョロい。

桜が満開になったころ、ベランダに出てホタテさんと日向ぼっこをしていたら、どこからか紙ひこうきが飛んできた。紙ひこうきを開いてみると、手書きで大きく電話番号らしき数字が書かれていので、電話をかけた。架空請求の支払い窓口だった。

その電話を切るとすぐ電話がかかってきたので、警察に連絡しました!と言って電話に出ると、それは失踪した元カノからだった。失踪届は出していないので、警察には連絡していない。
彼女からの電話は、1年間の修行を経て、結婚する準備が整ったという内容だった。丁重にお断りした。長い不在の恋愛に決着がついたのだった。

そして僕は今、このnoteを書いている。
真面目なことを書こうと思ったが、真面目なことは書けなくなってしまった。音楽雑誌に帰投していたコラムも、ドラムのビートの疾走感をハムスターがひまわりの種を齧る感じに例えたことによって打ち切りになった。社会はなかなかに難しい。


世界線を戻そう。
僕は今、noteを書いている。
毎日は模造品みたいに繰り返し過ぎていく。何も起きない、何も起こそうとしていない。都合よく事件なんて起きない。平穏な日々は最高であるが、時に最低としか思えない瞬間になる。

そんなとき人間はパラレルワールドに接続することができる。どこにも書けないような最低なことを考えて、ひとしきり満足したら世界線を戻す。そしたらまた、願ってもない明日を作り笑いで迎えにいけばいい。妄想は想像のタネになるから、今日、真面目に水をあげればいい。


#30  パラレルワールド

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