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ショーペンハウアー「読書について」/自分の言葉で話すということ

池上彰さんの講演会に出られた方が、池上彰さんが強く推薦していた本、と教えてくれたのが、このショーペンハウアーの「読書について」。連休中に一冊、ちょっとアカデミックな本を読もうと思って、手にとった。

まず冒頭の

「いかに大量にかき集めても、自分の頭で考えずに鵜呑みにした知識より、量はずっと少なくとも、じっくり考え抜いた知識のほうが、はるかに価値がある。」

という言葉に、がつんとやられた。私はどこかで「たくさん本を読んできた」ということを鼻にかけて、世の中を知った気になっている節があるからだ。そして読み進めるうちに下記の箇所にぶちあたり、ページをめくる手が固まった。

凡庸な脳みその持ち主の著作が中身がなく退屈なのは、かれらの語りがいつもいい加減な意識でなされる、つまり書き手自身、自分の用いた言葉の意味をほんとうにはわかっていないせいかもしれない。かれらは習い覚えた語、出来合いのものを採用する。だから一語一語組み立てるというより、むしろきまり文句(紋切り型の言い回し)をつなぎあわせる。
(中略)
これに対して、知者の著作は、真に私たちに語りかけてくれる。だから私たちを活気づけ、楽しませることができる。知者だけが十分の意識して、ひとつひとつの言葉の意味を意図的に選び、組み立てることができる。
ショーペンハウアー「読書について」

 時を同じくして、今回のコンテンツ会議で佐渡島さんがあげられていた話が「「自分の言葉」で話すのが、作家のはじまり」。なんとこれがとても近しい話だった。

言葉は、社会のものだ。自分の生み出した言葉を使っている人はいない。社会が生み出した言葉を借りてきて、社会のではなく、自分の心を伝えなくてはいけない。一つ一つの単語は、社会のものでも、そのつながり方を工夫することで自分の言葉にすることができる。しかし、単語だけでなく、単語のつながりまで社会から借りてくると、どれだけ必死に話しても、自分の本心は届けられない。 
自分が話しているのは、借り物の言葉なのか、自分の言葉なのか、その差を理解するようになることが、作家の始まりだ。世の中に溢れている言葉は、そのほとんどが借り物の言葉として使われている。それに気づくことが、物語を作るよりも大事なことだ。
佐渡島庸平「「自分の言葉」で話すのが、作家のはじまり」

実は以前、私は「自分と向き合った方がよい」というアドバイスを、佐渡島さんからすでにもらっている。
ただ、その時はぴんときていなくて、というのも、自分では自分と向き合っているつもりで、つまり自分の言葉をもっているつもりだったからだ。

たとえば私の目下の趣味は、サーフィンの試合をみること。テレビでそんな頻繁に取り上げられる競技でもないから、他人から影響を受けた、とは言い難いと自分では思っている。
また、何故好きか、と聞かれたら、「パイプ」と呼ばれる波のトンネルをくぐり抜けていくシーンに魅了された、と答える。かっこいいから、なんとなく、そういう言葉で終わらせてはいない、と思っている。
だから、佐渡島さんから「自分と向き合った方がよい」そうアドバイスをもらった時、あまりお話をさせていただく機会がないから、そう捉えられたのかなあ、と心のどこかで思っていた。

ただ、今日、ショーペンハウアー・佐渡島さんの言葉に触れて、私が「私の考え」だと思っていることは、借り物の言葉なんだろうな、ということがしっくりきた。

先に例としてあげた「サーフィンが何故好きか」についても、じゃあ何故、パイプに魅了されたのか、というと言葉に詰まる。だいたい直近でみたサーフィンの試合は、波の上でいかに華麗にエアーを決めるか、が勝敗を分けていて、パイプをくぐるようなシーンはほとんどない。サーフィンの魅力はパイプ、そう思っているのに、実際はそうじゃない試合にも魅了されている。そしてそれは何故か、と考えると、実はよく分からない。
「パイプに魅了された」はおそらく借り物の言葉。誰かが言った言葉を、「ああ、そんな感じ」と私は気に入って借用しているだけ。
そう、今、私が考えた、と思っていることはずいぶんとぼんやりしているのだ。

そのことに気がつくと、自分とはいったい何者なのか、そんな奇妙な感覚が芽生えた。自分は社交的な性格だと思っているけど、本当にそうなのか。ここ数ヶ月で色々学んだ、そうよく口にしているけど本当にそうなのか。疑問が次々に湧いてくる。

ようやく、自分と向き合う、自分の言葉で話す、の糸口にたどり着いた気がする。

佐渡島さんが指導されている羽賀翔一さんが、きちんと自分の言葉で話せるようになるまでに、数年かかったという。
私も何年かかるか分からない。ただどうにかして「自分の言葉」にたどり着きたい。そう強く思った、GWの初日なのであった。


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