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あるインフルエンサー

フィクションの小説です。
加筆していきます。*10/19完結しました
小説ほかにも色々書いてます。

ある男が0からインフルエンサーになった物語です。

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 これは歴史に名を残すある男の物語だ。

 俺は気づいてしまった。その事に気づけた時、俺は神に選ばれた男だと確信した。
 君は人生を全うした後、自分のその物語を何と呼ぶ?「成功者の人生」だと言える?俺は言える。そして「誰よりも」と付け加える。

 「自分はこいつらとは違う」学生時代からまわりにいる人間と自分は違うと感じていた。勉強は同じように好きではないが、IQは次元が違うはず。一緒に笑ったり話したりしている間も、自分だけはもっと特別な存在だと思っていた。

 あとはきっかけさえあればいい。

 しかし、待てど暮らせどそれはなかなかやって来なかった。そろそろ来ないとやばいぞ、と焦り始めたら大学生活が終わった。そんな中選んだ社会人一年目の仕事は携帯電話販売会社の社員だ。仕事は嫌いではないが、これを続けていても想い描く人生にはなれないのがわかるから情報収集を続けた。勿論、挑戦も繰り返した。
 ネットワークを使ったビジネス、ブロックチェーンを駆使した仮想通貨投資、バイナリー。そういった抜きん出た行動力の結果、俺は「成功者」と呼ばれる人に会う機会を持てた。 
 会えるとわかった時、ついに自分もこれで成功者の仲間入りだと喜んだ。

 会っている間、嬉しいといった感情をひた隠した。俺にとってはこんなものは序章に過ぎない、俺はそんなに安くない、俺と付き合うと更なる高みにのぼれるのだ。タワマンでのホームパーティはとにかく最高だ。毎日でも大歓迎。彼らの持つブランド品、高級時計、自分には今ないが、「今は」ないだけだ。必ず自分のものにする。そこにいた人間は互いに「仲間だ」と言う。自分も仲間になりたい。そして必ずいつか近いうちに追い越す。

 俺は更に努力をすると決めた。

 同年代の人間が知らない情報を俺は持っている。行動をひたすら繰り返し、権利収入を誰よりも早くこの手にする。雇われ続けていても今いる会社で出世する日なんて遠すぎるし、欲しい物もとてもじゃないが満足に買えやしないだろう。

 目標は決まっている。
 あとは、どうやってそこに行くか?だけだ。歩いてはいかない。それは多くの人間がしている。自転車、車、いや、俺が使うのは飛行機だ。きっと、どこかに速くそこにたどり着く方法があるはず。ネットワークビジネスでもいいが、少しやってみて薄々このやり方も近道ではない気がしている。いい商品で、権利収入にもなるからやめはしないが、ほかにもっと凄いものがあるはずだと、俺は探し続けた。仮想通貨もいいだろう。少額から投資が可能だから既に開始している。だがしかし、何か違う。もっとほかにあるはずだ。探し続けたらきっと見つかるはず。とにかく人に会い続けた。そしたら、俺は気づいてしまった。その事に気づけた時、俺はやはり神に選ばれた男だと確信した。

 ひたすら「成功者への最短ルート」を探した。誰よりもその情報を知る事が出来ればおのずと自分は成功者になれるはずと信じていた。

 そしたら、見つけた。 

 ある成功者が「この人は昔からスゴい。一度地に落ちたのにまた復活して今もめちゃくちゃ稼いで海外のタワマンで暮らしている」と一人の男の存在を教えてきた。名前をうっすらと聞いた覚えがある程度だが、そんなに凄いなら何かヒントがあるかもしれないと思い、その人物について調べてみた。

 数年前、情報商材という有益な情報を販売して稼ぐブームの先駆者であったその男は、当時金を稼ぎに稼いでいた。テレビでもその豪遊ぶりが取り上げられ、一気に成功者への階段を登っていったが、転落も一瞬だった。それまでしていた事業をやめ、海外に移住して多くの人から「もう終わりだ」と言われたが、そこでこの人は終わらなかった。投資ですぐに資金を増やし、再び「成功者」に舞い戻ったらしい。なんとすごい人生なのだろう。地獄から這い上がり、金のない状態からまた金持ちになり、転落前よりも資産家になっているというのだ。かっこいい、俺がなりたいのはこういう人間だ。その人物の悠々自適な生活を知り、自分も海外でそういう暮らしがしたいと強く思った。

 自分もこういう生活がしたい。
 自分もこの人になりたい。
 自分は日本で毎月安い賃金で朝から夜まで働き、買いたい物も自由に買えないというのに、何故この人はこういう金に不自由のない生き方を送れているのだろう?理不尽だ。それはおかしい。
 この人になりたい、なれる訳ないとかいう声なんて気にしない、俺はなる。

 ここで、あるアイディアが降ってきたのがこの成功者の人生のターニングポイントだ。







 俺も、この人になったらいいのだ。

 そのアイディアが何か、ここですぐに理解出来るか出来ないかも差があるが、それを行動に移せるか移せないかで人生は劇的に変わると、色んな人に会って言われてきて俺は知っている。情報もそれを活かせないと何もない。しかし俺にはそれを活かせる行動力が備わっている。

 すぐにそのアイディアを誰かがやっているかどうかネットで調べてみた。

 アイディアには基本価値がなく、それをやっている人がいない時、やったけどうまくいかなかったか、やろうとしたけど何かの理由でやらなかったのどちらかだと本に書いていた。

 ある程度調べてみたが、このアイディアを実践している者はいなかった。この場合、きっとやろうとしたけどやらなかったのだろうと結論づけた。これを実践するのはとてつもなく大変だ。精神力も体力も常人以上のレベルが必要だ。俺にはそれがある。俺は行動に移す。そして成功者となるのだ。


 シュウに連絡を入れた。彼とは少し前にビジネス交流会で知り合った。お互い試行錯誤をし始めたばかりという共通点もあったが、何故かうまがあい、何度もサシで飲みに行く様になっていた。シュウも自分と同じ知識を持っている事、成功者になるという明確なビジョンがある、信用出来そうという点で、ビジネスパートナーにしようと決めた。 
 どうやって、何の為に、いつからなど、革命家が民衆に向けて演説をしたみたいに力強く「二人のこれから」をシュウに語った。みるみるうちに表示が良い方向になっていくのもわかった。まだ早いが、やはり打ち立てた仮説は正しいと思った。

 俺たちならばやり遂げられる。
 そして成功者になるのだ。

 あとは実行に移すだけ。
 やり方はシンプルだ。

 情報商材で成功者となった人たちには、共通する成功したやり方の型がある。その事に俺は気づいたのだ。それを今している人間がいないから、そのやり方を今の時代にアップグレードするのが、俺達のこれからやる事だ。あの有名な孫さんは海外で成功してまだ日本に上陸していないビジネスを日本でやって成功した。それを自分もやるだけ。俺達の場合は海外から日本ではなく、過去から現代に持ってくる。俺は出来る。成功者たちには成功した理由がある。人脈、知恵、環境、時代、俺には知恵も環境もあるし、時代も味方している。人脈は成功したら勝手に増えていくだろう。俺はやりきる。そして成功するのだ。欲しいものは何でもこの手にする。俺は選らばれた人間だ。 


 まずとりかかったのは、自分の名前と経歴の設定だ。俺は全く違う人間に生まれ変わる。
 その為には今の名前ではダメだ。 
 経歴もこのままでは何の魅力もない。
 かといってこれから勉強をやり直す時間もない。じゃあどうすればいい?と凡人だったこれまでの自分だったら途方に暮れるだろう。しかし今はもう違う。ないなら、創ればいい。



 いわゆる経歴詐称だ。なあに、ただほんの少し盛るだけだ。芸能人なんて沢山やっているだろうし、ビジネスマンの多くもしている事だ。どこの大学卒とか、MBA とか言っているけど、誰も調べやしない。それに、芸能人でバレた例を教訓に、調べてもわからない経歴にしてしまえばいい。そうだ、海外で学生生活を送った設定にしよう。それも、アメリカだとバレやすいかもしれないから、いっそ中南米にしてしまおう。英語はこれから日常会話レベルをマスターすればいい。詳しい英語など披露する場なんてすぐにはないだろう。

 とりあえず決まった経歴はこうだ。
「学生生活は親の仕事の都合で中南米で過ごし、上場企業で就職、そこで実績を作り起業する。数社の役員に名をつらね、顧問としてもいくつもの会社に関わる」どうだろう?言葉に重みが生まれる人間の誕生だ。今の自分と、この人物が同じ話をしても聞く側の印象はかなり異なるものになるだろう。言葉は「誰が」言うかが大事。じゃあ、誰かになったらいいのだ。ないのなら、創ればいい。

 次のステップは、この人物をネットの中にも命を宿す事。自ら、あるインフルエンサーを創るのだ。SNS で新しい自分のアカウントを創ると、複数の別名のアカウントを作った。フリーアドレスがあるといくらでも積み重ねられる。地味な作業だが、これが成功への近道だと思うと苦にもならない。そうやって作るだけで、そこから発信はまだしない。それはもうちょっと後。
 アカウントを増やしつつ、会社を作った。法人を作る事は以外と簡単だと調べたらわかった。ほんのわずかな金で誰でも起業は可能だけど、「社長」という肩書きは絶大な力を持つ。事業内容はWeb関連を選んだのにも理由がある。これらが花開くのはまだ。これはその為の準備だ。

 膨大な数のSNSアカウントを作った。これは資産だ。これに「ある工夫」という魔法を加えるだけで大きな金になる。そろそろいいだろう。気は熟した。シュウの前で俺はあるパフォーマンスを披露した。全て演じた後、正直な感想を聞いた。

「やばいぞ、これ。お前って本当すごいな」
「天才だろ」
「そうだ。この内容、どうやって知ったんだ?SNS マーケティングの話だよな?」
「なあに、簡単だよ。本に載っていた事をまとめて話しているだけだよ」
「え、そうなんだ。けどそれっていいのかな?」
「いいさ。この動画を見る人間はあの本の存在なんて知りやしないよ。いいか、俺らのYouTubeチャンネルは、本なんて読まない層をターゲットにしているんだ。だから大丈夫。それにその本の全てを話す訳ではない。本もどこかからしれっと引用ってしているもんだし。それかただわからないだけ。誰も何も言わず今日も本屋に本は沢山並んでいる。本がしている事を、俺らはYouTubeで動画としてするだけ。勝負をする場所を変えるだけ。何も悪い事ではない。内容はきちんとしてるから、これを見る人間はどこかの本と似ているかなんてまで頭が回らないさ。俺らはYouTubeに学びの場を作る。それはいい事だ。普段本は読まないし読めないけど、俺らみたいに成功したいと思っている人間にとってはこんなにありがたいものはないはず。需要に見事にマッチしているんだぜ、最高じゃん」
「確かに、そうか。ありか。喜ばれるし」
「そうだよ。俺らはそういうやつらの気持ちが痛い程わかるよな。当事者だからな。人脈が欲しい、凄い人間と繋がりたい、成功者と繋がりたい、成功者の視点が知りたい、どうやって成功したかを知りたい。そう思っている人間に、それを与えるんだ、俺たちは。とてもいい事だ」
「そうだよな、まあけど、今はまだ成功者じゃないけどな」
「これからなる。ただ成功する前か後かだけの違いだ。すぐに成功するから一緒だよ」

 記念すべき一回目の動画が完成した。成功者であるインフルエンサーの成功哲学チャンネルがこれから始まる。それからSNS の出番だ。このインフルエンサーのアカウントを自らが作った大量のアカウントで絶賛していくのだ。
 その後にオンラインサロンへ誘導し、そこで稼ぐ。これが思いついた最強のビジネスプラン。最近知った過去の情報商材で荒稼ぎした人間のやり方を現代にアップデートしたこのプランは絶対に完璧だ。そしてこれをやっている人間はほぼいない。いたとしても中途半端。やるならば突き抜けないと意味も効果もない。俺はやれる。

 あるインフルエンサーに命を宿す。
 初めて発信する時も躊躇なんてない。

 そして、あるインフルエンサーが生まれた。

 1日のルーティンはこうだ。
 朝の9時までにまず、本に載ってある内容を短くまとめてSNS に数回書き込む。その時に、勿論さも自分の考えかのようにするのも忘れない。そうすると、我ながら良い内容だと感じる。
 そして次の一手が肝心。二人で手分けして別のアカウントでその投稿を絶賛したり、シェアをしていく。この別アカウントも工夫をしている。絶賛やシェアだけではなく、別の内容も各自で投稿して偽りのアカウントとはわからないように施す。大変な作業だが、これをするとしないとでは大きな差があると考えている。きっと間違いはないはず。

 シュウには効果が現れるのは半年は必要だろうと伝えていたが、予想は見事に外れた。数ヶ月でYouTubeチャンネルの再生回数が跳ねたのだ。みるみるうちにSNS のフォロワーも増えていく。やはりインフルエンサーはなるものではない、創るものだ。そんな中、「登記だけして何もしていないけど、やっぱり会社の事業もきちんとやっていくべきでは?」とシュウから提案された。
 それに対しての俺の答えは「NO」だ。
 これにはシュウも驚きを隠さなかった。事業を伸ばすチャンスという意見もわかる。しかし、まだ今の自分達だけでは頑張っても凄い実績をあげるのは難しいと俺は判断していた。
 中途半端にやって批判を受ける位なら、いっそやらない方がいい。そしたらネットで批判も受けない。実際にはやっていないのだから、『受けたけどすごくはなかった』という意見は生まれないし、失敗もしようがない。ネットにあるのは自分たちで書き込んだ口コミだけでいいのだ。
「わかったよ、けどじゃあ、オンラインサロンはもうそろそろ作ってもいいんじゃないか?」
「その前にセミナーをやろう。それからだ」
「セミナー?あれか?俺たちが何度も参加したようなやつか?人、集まるのかな?」
「集まるさ。このInstagramの俺へのコメントを見てみろよ?絶賛だらけだ。YouTubeのコメントもそう。絶対うまくいくさ」
「わかった。値段はどれくらいにしよう?3000円くらいにするか?」
「おいおい、俺を安く見積もるなよ。1だ。一万にするぞ」
「え、一万って、そんな高くして参加のハードル上げてどうすんだよ。それよりまずは安くして多くの人に参加してもらった方がいいだろうよ」
「あーまだまだわかってないな、シュウは。これだからその位置なんだよ」
 表情が変わったが気にせず話を続ける。
 「価値を示すんだ。価値を上げるんだ。この値段で参加する意味のある存在だとわからせるんだ。だからこそ、高い方がいい。高い事がブランドになる。俺はもうブランドだ。インフルエンサーになったやり方をここでも応用するんだよ」そう言って俺はすぐに別アカウントを使ってSNS とYouTubeの自分の動画のコメント欄に書き込みを入れていった。「やばい、直接話を聞いてみたいです」「セミナーってやってますか?」「ホンモノですね!ほかのインフルエンサーとのコラボ動画見たいです!」「あの有名人と対談してほしい」「こんな有益な情報を無料でやっててすごいです」何度も何度も繰り返した。今は個人が簡単に発信出来る時代で、多くの人間がそのネットの中の評価を参考にしているが、それが嘘かどうかまではほとんどの場合考えない。ネットの中で評価したものが全て。もう少し先になると発信者がきちんと特定されないと信用されないようになるかもしれないが、今はまだ違う。誰かを肯定したのが嘘でもほとんどわからないし、批判したのが嘘でもほとんどわからない。俺はこの仕組みがおかしいと思っている。ネットの口コミで評価の低い飲食店が、実はすごくうまい事ってよくある。うちの親父の店がそれだ。誰だよ、書いたやつ。ほんとに食べたのかよ?それってどうなんだ?とずっと俺にはこの怒りがある。そして、自分の頭で考えず、そんなのに従っている人間の多さにも失望している。実在するかどうか定かでない、会ったこともないやつの意見に従うのか?こうやって怒りや疑問を持った所で、なかなかこの仕組みはアップデートはされないだろう。だったら俺はこの仕組みに支配される側ではなく、支配する側になるだけだ。親父は支配される側でずっと苦労をしてきた。ネットに悪い評価を書くやつは、親父の苦労を絶対に知らない。そんな奴等によって疲弊してきた親父がどれだけ大変だったか俺は知っている。
 今は個人の時代、個人が自由に発信可能で、評価経済の時代、そんなのクソくらえだ。そんなモノサシより、リアルの友達や、好きでいてくれ本当に通ってくれているお客さんの評価の方が弱いっておかしい。それを良しとする時代なんておかしい。本当の価値が、こんなスマホの中で完結されるべきではないはず。知らない誰かが誰かを評価するレビューで溢れた世界なんておかしい。しかしまだ今はこういう考えの人間はごく少数。嘆いても変わらないなら、俺も俺のやり方で利用するまでだ。このやり方を可能にさせているのは、こういう世界を肯定しているすべての人間の責任だ。ゲームでもスポーツでもそのルールを誰よりも理解するものが優位に立てるが、人生もそうだ。そしてこうやってルールを上手く活用するのは何も俺だけじゃない。世の中の成功者の多くが、俺みたいなやり方ではないがルールを少なくても上手く利用しているはず。それを俺もするだけ。それだけだ。

 セミナー当日の朝。
 シュウと控え室でその開始時間を待った。結局、参加費は高額にしても目論見通り完売した。
 ジャケットを羽織り、鏡の前で身だしなみを整える。服は高級ブランドでかためたが、シンプルな服を選んだ。時計も高級ブランド。シャツの袖口から少し見えるようにしている。
「いよいよだな」
「ああ、もうすぐ始まるな」
「緊張してないのか?」
「さすがにしてるさ。大勢の前で話をするのは初めてだしな。まあ、大丈夫。練習は沢山した」
「成功するかな」
「成功するさ。トーク内容、俺が考えた訳ではないしな。いくつかの本の中身を俺の言葉で話すだけで、内容はすごい人たちが考えている訳だから、もし評価が低いならそれは俺への評価ではない。参考にした本を書いた奴等のせいだ」
「強気だな。いくつかの本に書いてることをパクっているってバレないかな?」
「大丈夫だろう。わからないように、俺の言葉で話すさ。それに、ここに来ている人間は参考にした本なんて読んでないさ。読めていたらそもそも俺に興味なんて持たないし、ここに来ないよ」
「それもそうだな」
 俺はビールが注がれたコップを飲み干した。
「あまり酔い過ぎないようにしろよ」
「わかってるよ。ただ、シラフではこのキャラを演じ続けるのはきつい」
「俺なら数分でギブアップ。よくやるよ。あの喋り方、テンション、役者になれるぞ」
「ありがとう」
「そのキャラってさ、そういえば誰かを参考にしているんだよな?」
「ああ、そうだ。素の俺はこんなのじゃないからな、それ知ってるよな」
「勿論、こんなにテンション高くない」
「そう、政治家とか、映画の人物をいくつか混ぜ合わせて作っているから。だからこれした後ってどっと疲れる。インフルエンサーになるのも大変だ。よし、そろそろ時間か。頑張ろうな」
「おう、やったろうぜ」
 拳を交わし、扉を開けた。
 現実世界に、あるインフルエンサーの登場だ。


 開演前に会場の下見は済んでいたが、人で埋まった会場を改めて見るとその凄さに内心驚いた。それを悟られないよう、割れんばかりの拍手の中、こういう場はさもお手の物といったようにゆっくりと進んで舞台の中央に立った。渡されたマイクを握り、まず挨拶をする。すると、全員から大きな声で挨拶をされた。俺は自分でこの場を用意しながら、この空間の異様さに驚いていた。それはシュウも同じみたい。この部屋の中、二人だけがこの真実を知っている。後の人間はこの真実を知らない。それはまるでこの世界の縮図かもしれないと思った。知っている人間と、知らない人間。そして、この光景を見て、俺たちは成功すると確信した。

「今日は来てくれてありがとう。絶対、来て良かったと思うよ。損はさせない。世の中には、成功者とそうでない人の二種類がある。色々違いがあるけど、大きな違いって何かわかるかな?」
 聴衆にいきなり質問を投げ掛けると、それぞれが回答した。そのいくつかに触れてやる。
「いいね、努力するか、しないかもいいね。そう、それはそうだ。だけど俺が言いたいのはそうじゃない。何だと思う?それは、行動したか、行動していないか、だ。これに当てはめるとみんなはどうだろう?ここに来た。何かで俺を知って、それで終わりにするんじゃなく、きちんと、こうやって、ここに来た。素晴らしい。これこそ、行動だ。これこそ、行動力というものだ。多くの人は行動しない。なんでだろう?それが俺は不思議でならない。世の中の成功者はみんな必ず行動してきた。それも、早く、だ。ウジウジと行動しないでいる間に、成功者たちはみんなとっとと行動してきた。だから成功したんだ。そう言う俺もそう。だから20代で億を稼ぎ、バイアウトして、多くの企業のコンサルをしているんですよ。行動ってめちゃくちゃ大事。その点、今日ここにいる皆はこっちの人間になれる素質を持っている。あ、そろそろ座ってもいいかな?」
 どっと会場が沸いた。
 掴みの話は成功だ。
 何度も鏡の前で練習した成果が出た。声のトーン、ジェスチャー、顔の表情、どれをとっても完璧。まるで人気ミュージカル俳優になった気分だ。
 今日のセミナーテーマは、「成功哲学」。ここに来る人間が一番知りたい話だと思って選んだ。インフルエンサーになる前の自分が知りたい内容は、みんなの知りたい事に違いない。自分がそうだったからここに来た人の気持ちがわかる。だから教えてあげる。まあ、中身は俺が考えた訳ではないが、俺が話すから意味がある。インフルエンサーになる前の俺が話してもきっとあまり意味はない。今の俺が話すから言葉に説得力がある。不思議だがこれが事実。誰が話すかが重要。聞く人はみな俺の経歴をフィルターにしている。目の前の俺を見ているようで見ていない。だから、トコトン演じてみせる。俺ならばそれが出来る。

 祝杯を高級ホテルの中にあるbarであげた。
 シュウもだいぶ呑んで、二人して酔った。
「大成功だったな。ほんとお前はすごいよ」
「ありがとう、シュウも良かったよ。ありがとうな。おかげで話しやすかった」
「あんな感じで大丈夫だったか?」
「完璧だ。見たかよ、参加者の反応」
「当然、驚いているのをバレないように必死に隠したけど、みんな大興奮だったよな」
「そうそう。ネットの中からリアルへ満を持しての登場だからな。興奮してもらわないと困る。まあ、俺もビックリしたけど」
「そうか?冷静に見えたぜ」
「そりゃあ頑張ったよ。もうこれでなれた。どんどんセミナーもやっていこう」
「そうしよう。稼げるしな。他の有名人とYouTube内でコラボもしたいよな」
「確かに。いくつか打診ってしたんだっけ?」
「してるけど、まだ返事がない。届いてるはずなんだけどな。無視してるのかな」
「その可能性はあるな」 
「こっちはチャンネル登録者数もどんどん増えているから、良い話なのにな」
「わかってないよな。この俺とコラボするってどれだけ凄い事か。もうちょっとしたら簡単にコラボなんて不可能になるってのに」
 そうだ。今のうちにコラボした方がいいのに、シュウが打診した奴等は全然わかっていない。この俺たちの凄さが理解出来ていないのだろう。時代はどんどん進んでいる。その最先端にいるつもりかもしれないが、とっくに周回遅れになっているのだ。それに気づかずに今の位置で安心しているが、すぐに俺は手の届かない存在になってやる。
「わかってないよな。そういえば、テレビ局のスタッフから今朝メッセージが届いてたぞ」
「まじか、テレビ番組の出演オファーか?」 
「まさに。後で転送しとくから見てて。今は酔っ払ってるからきちんと読めないだろう」
「オッケー、よくわかってるな」
「そりゃあな。テレビに出るのもチャンスだな」
「時代は俺らに味方してる。もうちょっとだ。もうちょっとしたら、一気に人脈も広がって、コラボ相手にも困らなくなる」
「楽しみだな」
「ああ。そして、どんどん俺のSNS を凄い人たちがフォローしていくんだ」
「やばいな、それ」
「やばいぞ。面白すぎる。今ってTwitterの俺のフォロワーに凄い人ってまだいないよな」
「毎日チェックしてるけど、俺の知ってる凄い人はまだいないかも。一万人越えているのに、すごい人たちは知らないのかな?」
「知っているけど、何かの理由で躊躇しているのかもな。まあ、大丈夫だ。こういうのは、一人がフォローすると一気に増えるに違いない。このままいけば時間の問題だ。仕事の話はもう今日はいいだろう。それよりもっと呑もうぜ」
「それもそうだな、呑もう。成功への記念すべき日になったのだから」


「これ、削除した方がいいぞ」
 そう言いながらシュウがスマホ画面を見せてきた。そこには俺とアンチとのやりとりが映っていた。忘れもしない、数日前の出来事だ。
「そうかな?」
「そうだ。こんな返事してメリットなんてない。スルーするのが一番。返事する事によってこいつの主張がお前のフォロワーに伝わってしまっているぞ。どうしたんだ、らしくない。今まで通り無視しよう。アンチは無視って決めてるだろ」
「あー確かに、フォロワーに知られるな。まあでも、俺のフォロワーは俺の味方だぞ。アンチを擁護するコメントもないし」
「味方でも、こいつの主張から疑う人間が出てくるかもしれないだろ。無視だ、無視。削除しよう。お前、訴えるとまで書いてるじゃん」
「実際にはしないさ。こう言うと黙るだろうと思ってさ。けど、わかったよ、削除するよ。そしてこいつはブロックする」
「オッケー、らしくなかったぞ」
「イラついてた時にこいつからのコメントを目にしてしまったからだ。もうしない。すまん」
「お前も人間だよな。イラつく事あるよな」
「まあな。本当はインフルエンサーじゃないからな。ただの何も実績のない人間だし」
「もう実績あるじゃん。オンラインサロンの会員もずば抜けているし、セミナーも大成功してる」
「あってないようなものだ。経歴が嘘だとバレた途端に消えてしまう」
「バレやしないだろ。対策もしてるし。絶賛しているブログも沢山書いているから、このアンチの投稿までたどり着けないさ。それに、イラついたって、何があったのさ?」
「ほかのインフルエンサーがYouTube配信で俺についてディスってたんだ。誰その人?って。知らないし、経歴嘘でしょって」
「まじか、けどまだセーフだろ。そいつには気をつけよう。大丈夫、無視しよう」
「そうかな、うまくいってる会社は、きちんと社名やサービスの名前がわかる。社名もサービス名も知られていないのに成功している人っていない。儲かっている人は、会社の上場や、決算などで名前もばれる、ジェイコム男の人の名前がわかったように、って的確に言っててぞっとしたんだよな」
「図星、だな。痛いとこついてるなー。さすがだな。けど、まだこれをSNS で書いてる人っていないから大丈夫だろう」
「おお。あーやっぱり会社の事業をやっていこうかな、SNS マーケティング事業を」
「どうした?俺は賛成だけど、ずっと反対してたのに。いいのか?」
「なんか、今なら成功しそうな気がするんだよな。これだけ情報商材分野で成功してるから。それに、俺を徹底的に無視しているビジネスインフルエンサーたちを見返したくなったんだ。むかつくじゃん、俺のいない所で言いたい放題言って」
「うんうん。今なら成功しそう。やってやろうぜ。きっとすぐに上手くいくさ」
 そうだ、これだけ1つの分野で成功をしているのだ。もう事業でも成功出来るはずだ。動画でSNS マーケティングについて散々話しているし、知識は誰よりもある。自分が成功した事をクライアントに対してもやるだけでいい。SNS は俺の領域さ。

 会社の事業の主な柱はSNS マーケティングだ。簡単に説明すると、指定されたアカウントのフォロワーを増やすのが仕事になる。当初は自分がしたやり方をクライアントのアカウントでも実施すればいいと考えていたが、やる前にシュウに止められた。それをすると俺たちがどうやってフォロワーを増やしたかが判明してしまうというのだ。確かにそうだ。そしてそれは非常にまずい。自ら晒すなんて真似はしたくない。けど、これ以外でどうやって増やすかなんて知らなかった。知識はあるものの、それをやって実際に増えるかは未知。この時点でもうこの事業はやはりやるべきではないのかも、と思ったものの、いくつかもう依頼を受けてしまっていた。今さらそれを中止にするなんか無理だ。新規の仕事は止めたはいいが、抱えた仕事は遂行する必要がある。果たして可能なのだろうか。

 考えた結果、ネットで調べて行き着いた自動ツールを購入した。これは、登録をするとAIが勝手にフォロワーを増やしてくれるソフトだ。ネットの中にはこの手のソフトはごまんとあり、どれがいいか判断がつきにくかったが、回収した金額の範囲で選択した。高額なものだと利益がなくなってしまうが、かといって効果のないものだと意味がない。ネットのレビューを参考にして決定した自分たちは、結局はまだレビュー評価に縛られているから笑えない。しかし、否定はしない。是々非々だ。ケースバイケース。ケースバイケースっていい言葉だと改めて気づく。ものは言い様、使えるものは使わないと損。そこにこだわりはない。目的は、そこにこだわる事ではなく、自分の成功だ。その為の手段にはこだわらず、ゴールにはこだわる、これが身につけた成功者マインドだ。だから成功する。成功する人はには理由があり、成功しない人にも理由がある。そのどちらもわかっている自分は強い。そんな自分にかかれば、これまでのやり方を駆使せずとも依頼主のSNS アカウントを圧倒的に増やし、実績も作れるはず。俺なら出来る。まだまだ成功への道は続く。イメージしてきた山頂ももうすぐそこにある。自らが動くのもこれで終わりだろう。海外に本当に拠点を移し、優雅な生活が俺を待っている。


 インフルエンサーになってから、想定外のプラスはあるが想定外のマイナスはあまりなかった事もあり、このままゴールまで行くと安心していた。会社の事業もそうなるだろうと楽観的だった、部下から報告を受けるまでは。
 滅多に来ない会社の社長室で、経営を任せている社長を横に立たせてパソコンの画面を見ながら唸った。モニターにはクライアントのフォロワー推移が一目でわかるグラフが表示されている。どれもほぼ横ばいで、数字があまり増えていない。
「どうなってるんだ、全然だめじゃん」
「申し訳ありません」
 社長に据えたこの男はセミナーで出会い、見込みがあると思っていたが、どうやらそうではなかった。ネットに詳しいし職歴もそれなりにあったので信じていたが、この数字を見るからに無能だ。
「これはやばいだろ。クライアントの反応はどんなかんじだ?」
「問い合わせが多数あがっております。当初提案していた数字に達していないのが理由です」
「そりゃそうだ。これは酷すぎる。どうしてすぐに俺に報告しなかった?」
「すみません、自分達で頑張れば数字もそのうちに伸びると思っていました」
「これのどこに伸びる要素あるんだよ」
 横の男は謝るばかりで、代替え案なんて出る気配もない。社長としての自覚なんてきっとないのだろう。その心の中ではきっと落ち込んでなんかいない。自分は社長ではなく会長で現場にはタッチしていないが、ここでの事業は自分の評価へと直結している、放置は無理だ。
「Googleマップでの口コミヤバイじゃん。せっかく俺たちで書いた投稿がこれじゃあ埋もれてしまうし。どうするんだよ、おい」
 Googleマップの会社の所在地に今回のクライアントと思われるアカウントからの批判がいくつか書かれている。
「すみません、早急に数字を上げます」
「どうやって?これまで無理だったのに、何かとっておきのアイディアでもあるのか?」
「もっといい自動ツールを探して購入します。きっとあるはずです」
「SNS マーケティング会社が他社が作ったサービスツールに頼るって情けないと思わないのかよ。伸びない原因ってわかってるのか」
「それはもちろん。今回のクライアントの質が悪すぎます。クライアントに対して失礼ですが、正直依頼主たちのアカウントを普通にフォローしたいとはなかなかならないと思います」
 それは間違ってはいない。そう、今回の客たちはいわば魅力がちっともない。1つもない。0だから、何をかけても0にしかならない。しかし、「どんなアカウントでも俺たちの会社は確実にフォロワーを増やせられる」と豪語としてきてしまっている。自分で成功したからプロデュースも簡単だと思っていたが、目論見が甘かった。やはり、素質は大切だ。0は何をしても0。
「それで数字をあげるのがお前の仕事だろう。あークソ、なんでこんなやつらの依頼なんて受けてしまったんだ。お前とこいつらが悪い」 
 立ち上がりタバコをポケットから取り出した。一服しないとこのパソコンを投げてしまいそうだ。パソコンを壊した所で解決にはならないからタバコで自分を落ち着かせる。
 思考を巡らせ最善策を探す。なあに、大丈夫だろう。こういうシーン、成功者の映画でありがちだし。全てがうまくいくのはそもそもあり得ない。いくつか小さな挫折やトラブルってあるもの。とりあえず、次の動画テーマは決まった。「0には何を足しても0」だ。だから俺の責任ではない。


「お疲れー」
 シュウと今週分の動画収録を終えた。酒を呑もうとビール缶を開けた時、スタッフの山口が慌てて部屋に入ってきた。上下関係がわかっている山口は必ずノックをする人間だから驚いた。
「おい、ノックしろよ。終わったからいいものの、収録中だったらやばかったぞ」
 語気をあらげて怒った。
「か、会長、すみません、やばい人たちが来ています。どうしましょう」
「やばいやつ?」
 スマホの中にある監視カメラの映像を見るアプリをすぐに開く。
 その映像を見てぞっとした。
 明らかに、普通ではない黒ずくめの男が三人、社員の松下に何か言っている。松下は直立して体がかたまっているのがわかる。
「こいつらは何者だ?」
「わかりません。会長に会わせろと言っています。機転をきかして不在ですと伝えたのですが、帰ってくれません」
「とにかく警察を呼ぼう」
「け、警察ですか」
「そうだ。俺たちはなにもやましい事なんてないからな。呼ぶのが一番」
「あ、男たちが帰るみたいです」
 画面から男たちが消えた。外の監視カメラに出ていく様子が確認された。
 良かった。
 もう建物から出たとは思うが、ここからすぐに松下の所に行く気にはなれなかった。そんな空気を察したのか、先に山口が松下の元の駆けつけてくれた。それから遅れて部屋を出た。
 松下は体を硬直させ、椅子に座ってうなだれていた。怖がるのも無理もない。ああいう種類の人間と接した経験などないはず。山口もそうだ。そして自分も。しかし自分は平静を装った。
 シュウが松下の背中を擦り、声をかける。
「怖かったよな、鍵は施錠したか?」
「はい、しっかりとしました」
「あいつらは何者なんだ?」
「組織の名を言っていました。メディアでその名を目にした事があります。おそらく、半グレです。会長と会わせろ、顧問になってやるというような事を言っていました」
 松下がそう言って声を絞りだした。
「顧問、なんだよそれ。そんなのいらねーってよ。意味わかんねーな」
 シュウは怒っているが、内心は松下同様震えているに違いない。そう分析する自分もそう。
「会長、どうしますか?」
「そんなのは相手にしない。だが、安全対策は講じよう。ああいう人間は何をするかわからないからな。しばらくリモートワークに切り替え、出社は禁止。誰も中に入れない。出社しないといけない時の出入りは裏口を使おう」 
「それがいいな。セミナーは?」
「しばらく中止だ。丁度コロナでやれないしな。幸い、リモートで出来る業務ばかりだから影響はないだろう。相手にしないのが一番。そのうち、また違うターゲットの元へ行くだろう。あいつらにとっては誰でもいいはずだ」

 ビルの裏口から待たせているタクシーまで走った。行き先を告げると、運転手にチップを渡してスピードを上げさせた。
 車内から周囲を見渡すが、それらしき車は確認されない。それでもしばらく経つまでは心臓の鼓動が激しく鳴った。
 シュウを先に降ろす、予約したホテルに入った。部屋の扉のロック音を聞くと、ベッドにそのまま倒れた。視界に入るのは天井と白い照明灯。まだ全身の震えは止まらない。

 これからどうしたらいいのだろう。
 ホテルに着くまでに今日来た組織について調べた。調べれば調べる程そのやばさがわかってしまった。似た事例も目にした。あの自分が参考にした人も過去にそういう組織に多額の資金を渡していた疑惑があるとネットに噂として書かれていた。そしてその関係を絶ちきる為に海外へ拠点を移したとも。あくまでもこの記事は憶測だという前置きがされていたものの、これは事実だろう。わざわが海外に拠点を移す理由なんて他にない。日本にいた方が生活もしやすいし、今の彼の事業もやりすいに決まっている。俺もそうしなければならないのか。とにかく、もう二度と会いたくない。話したくないし、目も見たくない。平静なんて装いきれない。本性が露呈してしまうだろう。それを見られる訳にはいかない。一気にメッキが剥がれ、せっかく築いたこの地位も消えてしまう、それは絶対に避けなければならない。また戻れる自信もない。俺にはこれしかない。俺からインフルエンサーを取ると何も残らない。0だ。みんな離れるだろう。そんなの想像したくもない。そんなの死んだも同然だ。
 この先どうしたらいいのだろう。参考にしてきた人と同じ末路をたどるしかないのか、別の方法があればいいが、ググっても答えは一向に出てこない。そもそもスマホの中には今の自分と同じ悩みを持つ人間はいないだろう。現状維持はやばい。とことん利用されて俺の資産なんて消えてしまう。警察に相談したくても自分のやりかたを知られたくないから無理だ。じゃあ、弁護士か、しかし、ああいう人達は弁護士が間に入った所でひるむとは思えない。俺はどうしたらいいのだろう。

 これは歴史に名を残す男の成功物語だというのに、何故こういう絶体絶命の場面があるのだ。なくていい、なくていい。とにかくうまく切り抜けるしかない。そうしないと成功物語にならない。今はどうやって?がわからないが、きっと俺なら思いつくはずだ、俺なら大丈夫。











 部屋のチャイムが鳴った。
 誰だろう?









        完

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