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超私的!ベスト本・オブ・ザ・イヤー

ちゃんと数えていませんが、今年恐らく50冊くらいは本を買ったのではないかと思います。他方、読み終えた本や論文は図書館から借りたものを含めて36本(12月28日現在)、積ん読を増やしてしまう一年ではありましたが、ともかく沢山の素敵な本と出会うことができました。どれも甲乙つけがたいのですが、ここ数日で読み終えた一冊との出会いは読書の喜びを凝縮していましたので、個人的なベスト本としたいと思います。その一冊とは…

國分功一郎 著 『スピノザ 「エチカ」(100分de名著)』

NHKのテレビ番組「100分de名著」のムック本シリーズです。このシリーズすごくいいんです。僕は元々「古典の解説本を読むのは邪道だ!」という偏屈な人間だったのですが、最近は丸くなりまして解説系の本も手にとるようになりました。それでも、数多ある解説本とは違って、深く読んだ先生の読み方を紹介している控えめな感じがすごくいいんです。スタンスは控えめだけど、もちろん深く読まれた先生だけあってその洞察は切れ味鋭いんです。

そのシリーズのなかで、気になっていた名前を見つけたのです。スピノザ…神の存在を証明しようとした哲学者だと聞きかじったことがありました。当時、神なんているの?と思っており、いるのなら論理的に説明してほしいと思っていたので印象に残っていたのでしょう。また、紹介文が気をひくのです。

17世紀を生きた哲学者・スピノザの主著『エチカ』。タイトルは日本語で「倫理学」であり、人間が正しく生きる方法を説く内容だが、発行当初は無神論者による冒涜の書として禁書となった。あまりに革新的で、それゆえ難解なスピノザの思考法とはどのようなものだったのか? 気鋭の哲学者が読み解く!

気鋭の哲学者…そう、國分功一郎先生。著書『暇と退屈の論理学』をオードリー・若林さんが絶賛していたのでずっと気になっていたんです。これは手にとるしかないですよね。

そして、内容ですが元々想像していた神の存在証明ではありませんでした。「自由」に関する概念を書き換えていく。まさに思考の「OS」をインストールする体験でした。ページをめくるたびに、今日私たちが当然のものとしている「自由」や「完全/不完全」、「善悪」といった概念をスピノザ独自の発想で書き換えられていく。文中で著者が述べている通り「ありえたかも知れない、もうひとつの近代」を夢想せずにはいられなくなっている自分がいました。

スピノザは当時危険思想家とみなされ、『エチカ』は発禁処分となっていました。キリスト教的思想と矛盾するのでしょう。しかし、個人的には日本の神道や仏教的な発想とは近いものを感じます。実際に読んでいるとふだん神職として感じることと重なる内容が多くありました。

宗教においては経験や実感が大切です。なぜなら、たとえ論理で神仏を理解したとしても経験や実感なしに納得することはできないからです。現代は論理の時代と言うことができますが、自分の心のうちの問題については何も誰かに正しさを証明する必要はありません。

近代科学が技術進歩を推進したことに疑いの余地はありませんが、その進歩によって私たちは一体どれほど幸せになったのでしょうか。「スピノザOS」は互いの自発的な力の表現を自由とし、また本人の実感を重要視しているように読めます。きっとそれぞれのOSに長短があるのでしょう。場面ごとにデュアルOSで取り組めるようになれたなら、もっと素敵な人生を生きることができるのではないかと思うのです。

おまけ

ベスト本として悩んだものには他に『センスオブワンダー』『くらしのアナキズム』『忘れられた日本人』がありました。『忘れられた日本人』は読了に至っていなかったので外しましたが、有力候補でした。こちらも頭のなかで脱構築してくれるような一冊です。

#今年のベスト本


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