見出し画像

就職氷河期世代とIT業界/若手世代が注意するべき轍

少子化に伴い人手不足が業界を問わずに叫ばれています。しかしまとまった数の正社員希望者がいるにも関わらず、企業からほぼ見向きもされていないのが就職氷河期世代です。就職氷河期世代は1975年から1985年に産まれた人が該当すると言われています。正社員ポジションの募集に恵まれなかった時期です。

今回は就職氷河期世代が産まれた背景について言及するとともに、就職氷河期世代より若い世代が注意すべき、就職氷河期世代の時に産まれた働き方についてお話しします。

有料設定していますが、最後まで無料でお読みいただけます。もしよければ投げ銭感覚で応援をお願い致します。


就職氷河期世代を形作った背景

90年代のバブル期の有効求人倍率が1.4倍と高かったことに対し、1999年には0.48という低さを記録しました。2022年現在は1.28倍ということを踏まえるとその回復ぶりが伺えます。

完全失業率、有効求人倍率 1948年~2022年 年平均

新卒に絞った有効求人倍率を見ると、2000年が0.99倍と最も少ない結果となっています。24新卒では1.71倍となっており、新卒採用熱の温度差が伺えます。

求人総数および民間企業就職希望者数・求人倍率の推移

このことについて辛辣な意見の方に言わせると「上の世代の雇用を守った結果」とされたりします。近年でも航空業界などはコロナ禍の影響を鑑みて3年ほど新卒も含めた採用を絞ったりしましたが、就職氷河期世代についても「景気後退は一時的な凹みだろう」と思って一時的に絞ったものの、ことのほか長期化してしまったという感覚ではないかと推測しています。

「新しい働き方」としてフィーチャリングされた非正規雇用

正社員の採用枠が減少し、代わりに台頭してきたのが非正規雇用です。派遣社員、契約社員は「自由な働き方」としてポジティブな打ち出しが行われました。

ここ数年、日本の会社の雇用形態は大きく変化しました。
正社員がどんどん減り、そのとき必要なスキルを持ったエキスパートたちを重用するケースが増えています。
特に、いまや日本では300万人に迫るといわれている「派遣」と呼ばれる人たち。
労働者派遣法の施行から20年、平成11年の自由化、16年の規制緩和を受け、いまや彼女(彼?)達ナシでは企業は成り立っていきません。
いま「正社員イズベスト」の時代は終わろうとしています。

ハケンの品格 2007年 番組紹介

実際に派遣として働いていた人たちについても、派遣を選択する理由として「働く時間や時間帯を選べるため」「勤務地を選べるため」という「自由さ」が挙げられており、派遣界隈のブランディングは成功したと言えそうです。

派遣を選んだ7つの理由と派遣先が気を付けるポイント

しかし実態は企業都合で雇い止めがしやすい調整弁としての使われ方です。被雇用者としては収入の確からしさが無いため、自由の代償としては非常に大きなものとなります。

一方、先のリクルートスタッフィングのレポートではポジティブな理由が並びましたが、ネガティブな理由で選択をせざるを得なかった人たちもいます。非正規雇用者であり、かつ現職に就いた主な理由が「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した人を不本意非正規雇用者と呼びます。割合を見ていくと35-54歳の男性が高い数字となっており、就職氷河期の影響が伺えます。

不本意非正規雇用労働者の状況(令和3(2021)年)

定義が拡がる前に手遅れになった第二新卒

第二新卒という言葉が登場したのは下記によると1990年であるとのことです。

記事データベースで「第二新卒」の出現記事件数を見ていくと1990年の3件から1991~1992年に27件と跳ね上がり、好景気で企業の採用意欲が強かったことがうかがえます。それが就職氷河期の始まる1993年から件数が1桁台と激減。景気回復局面の2004~2008年は、それまで採用抑制をした反動で世代の空白を埋めるための「第二新卒」需要が旺盛になったと見られます。国語辞典に登場するのもちょうどこの時期で、大辞林が第三版(2006年)、三省堂国語辞典は第六版(2008年)から掲載しました。リーマン・ショックの影響もあってか、2009年から再び1桁に戻りましたが、2016年以降はやや上向き傾向になっています。バブル期から約30年、「第二新卒」は好不況の波を受け続けた語だといえそうです。

ニュースを読む 新四字熟語辞典第25回 【第二新卒】

1990年の初出時には好景気を背景とした企業の採用意欲の高さに基づいた位置づけから始まりました。その後、1993年には就職氷河期に突入し採用が凍結されます。そして再度2004年からリーマンショックが起きる2008年の間には反動が起き、不足した若手人材の補填としての第二新卒が注目されます。

第二新卒として扱われる対象者としても、2010年の段階では新卒入社後1年以内を指す企業が50%でした。年々拡大解釈がなされ、2014年には2-3年以内を指す企業が51%となり逆転しました。

若年者雇用を取り巻く現状

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000065181.pdf

現在であれば「新卒で就職に失敗しても第二新卒で巻き返せる」という論調がありますが、就職氷河期世代は対象外と新卒時の時期に正社員の募集枠がそもそもなく、セカンドチャンスの第二新卒の定義も活性化した時期・範囲共に被らなかった正社員雇用機会に恵まれなかった世代と言えます。

「自己責任論」の台頭

SNSなどでキャリアの話などになると「自己責任」という論調が必ずと言っていいほど出てきます。この「自己責任」という言葉がいつから始まったのかというと、2004年のイラク3邦人人質事件であり、この年の流行語大賞トップテン入りしています。

この言葉が定着したことにより、環境要因や外部要因による不可抗力を伴う意思決定であっても「自己責任」で片付けられ、切り捨てられる論調が誕生してしまいました。奇しくも就職氷河期世代とも時期が被ってしまったことも残念な事象です。切り捨てられるというのがポイントで、特に救いの手がやってくることはなく、自己責任の名の下に自身で復活をしなければならない状況に繋がった側面については残念でなりません。

間に合わなかった欧米型ジョブ型採用

年齢を重ね、アラフォーとなった就職氷河期世代を正社員雇用しようとする企業がないことの背景の一つがメンバーシップ型雇用です。メンバーシップ型雇用では新卒を起点に、年功序列が制度に組み込まれています。つまり年齢=経験年数=スキルレベルという式が存在します。日系企業の中には今でもこうした給与制度設計の企業があります。そこに未経験で年齢を重ねた就職氷河期世代が来た時に待遇が合わないという事象に直面します。

仮に本来の欧米型ジョブ型採用が日本に浸透していれば、年齢ではなくスキルに応じた待遇設定が行われるためジュニア層の就職氷河期世代の正社員雇用も進んでいたのではないかと考えています。ただ人材が居ないと嘆く反面、このあたりに着手する企業は極めて少ない状態です。ダイバーシティと言う名の男女比率改善の動きは見られますが、年齢については気配も薄いです。選考から年齢の概念が消えるには、もう10年くらいかかるのではないかと考えています。

新興のIT業界の立ち上がりと浮き沈み、ブラック企業による退場者

2000年代前半のIT業界は得体の知れない新興業界であったため別段人気企業というわけではなく、一部のコンピュータ好きと、まだ数の少なかった情報系学部出身者を除くと第一志望として据える人たちは少ない傾向にありました。当時は慶応SFCなどは他学部の人たちからは「湘南藤沢コンピュータ専門学校」などと過度な実学主義として揶揄されていたものです。こうしたIT業界に対するイメージもあり、当時のIT業界に流れ込んだ人の多くは「第一志望の証券会社や大手銀行、メーカーに落ちた結果、渋々に求人のあったITに行った人」でした。

2004 年度大学生就職人気企業ランキング調査結果発表

https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2021/03/kigyourank_2005.pdf

また、卒業後正社員にならずにフリーターなどを経験後、20代後半に一念発起して労働環境の整っていない小規模ソフトウェアハウスやSESに入った方も居られます。過酷な環境を選んだこうした方々の傾向としては今でも業界に残っている人のうち、一定の割合で元ミュージシャンや志望者が居り、概ね劣悪な環境を生き抜いたサバイバーである傾向にあります。

2000年代中盤にはこのnoteでも何度か登場した「エンジニア35歳限界説」が囁かれるようになります。これはスキル的な限界ではなく、過酷な労働環境のため健康に限界を来すためこのような言説が産まれました。メンタル不全になり退場する人や、若くして突然死する人の話も2010年代前半まではちらほらと聞こえていました。

今でも過酷な現場はあるものの、IT業界は全体的に相当ホワイトになりました。IT業界における就職氷河期世代は現在の20代、30代と比べると元々の人数は多いものの、過酷な条件とフィルタにより随分人材を無駄にしてしまった時代だと捉えています。

就職氷河期世代の今

時としてその正社員求人のなさから「生まれた時代が悪かった」とすら言われることのある氷河期世代ですが、これまで起きた事象の結果、下記のようなキャリアの変化に繋がっていきました。

キャリアの「テンプレート」の崩壊

1970年代、国民の大多数が「自分は中流に属している」という意識を共有するという「一億総中流」という言葉がありました。大学進学、正社員就職、マイカー購入、結婚、出産、自宅購入、子育て、子供の大学進学。過去には特に結婚などは「適齢期」などの言葉もあったように、目安となる年齢と共にクリアすることが望まれるチェックポイントのような形で存在していたと捉えています。

一億総中流という感覚があった時代、「平均的な過程を描くコンテンツ」が登場しました。

  • サザエさん

  • クレヨンしんちゃん

  • あ、安部礼司

今でもこれらのコンテンツは継続していますが、90年代は「どこの家庭でもありそうなできごとに対する共感」が期待されたものの、今見るとかなり恵まれた家庭と映ってしまいます。先に述べたようなチェックポイントをどのコンテンツの主人公も綺麗にクリアしています。

転じて2006年には新語流行語大賞にて「格差社会」が大賞となり、「一億総中流」は崩壊へと向かいます。「あ、安部礼司」は東京FMの長寿番組ですが、統計情報を元に「ごくごく普通の平均的なサラリーマン」を描画した長寿番組です。統計情報なので平均は数値化できるものの、格差が広がっている今では共感しがたい内容になっています。今は共感を伴う平均的な家庭像を定義することはかなり困難なのではないでしょうか。

子供時代には一億総中流を前提に育てられた世代である就職氷河期世代について、若い世代のように格差を悟りきれず、当初の予定との乖離に悩む方が多いと考えています。

脱出のきっかけは経歴のロンダリングだが

私もアカデミアで20代を非正規雇用で過ごし、30歳で正社員に初めてなった1人です。ビジネスに転向するために就活をした際には「こいつは新卒?職歴はないけど中途?」という見られ方をしたので随分と苦労しました。ただ拾って貰った企業で正社員としての経歴を6年経験し、役職や実績をつけたことで2社目以降の立ち振る舞いの際にはネガティブにはなりませんでした。

第二新卒の定義から外れたジュニア層の就職氷河期世代採用にトライした方のお話を聞くこともありますが、よく返ってくる内容が「折角使用したがすぐ辞めてしまう」ということがあります。一方で就職氷河期世代において非正規雇用からスタートし、その後正社員になれた人たちには下記のような共通項があります。

  • 労働環境が良くない正社員のポジションで数年間耐える

  • それなりの肩書やポジションを担い、業務を履行する

  • その後独立、もしくはホワイトであったり激務だが高待遇な環境に転職

こうしたある種の経歴のロンダリングは重要な要素なのですが、労働環境や当該職種への適性によっては短期離職を繰り返す結果となってしまいます。

一見人数という観点ではまとまった数が確保できると思われる就職氷河期世代ですが、年齢に対するスキルの浅さ、短期離職の経歴などがネックとなり懸念されます。

IT業界における就職氷河期の場合、うまくキャリアチェンジをして待遇を改善されている方も居られますが、下記のような条件があります。

  • 波乱と浮き沈みの激しい業界の波に乗れるタイミング、運

  • 適性

  • 持続可能な範囲のストレスレベルの職場

これらがうまく重なって恵まれた場合は生存できているような状態です。生存バイアスと言われてもやむなしですね。

下記の東洋経済の特集記事では、就職氷河期世代をポジティブにまとめるために「就職氷河期世代は柔軟性が高い」と無理くりに褒めています。他の世代から見ても気の利いた声掛けが極めて難しい腫れ物のようになっているのが現在の氷河期世代だと捉えています。

就職氷河期世代のキャリアを踏まえた、若手世代のキャリア選択の勧め

就職氷河期世代以降の30代中盤以下の方々の場合、就職氷河期世代に関する背景などは興味を持ちにくいところでしょう。自己責任という言葉の台頭もあり、就職氷河期世代の境遇について「対岸の火事に過ぎない」という感想もあるでしょう。

ただし就職氷河期世代の時に生まれた働き方は現在も残っています。フリーター、非正規雇用。そして現在のフリーランス。これらは正社員を終身雇用する体力はないけども調整弁として末端の業務に当たってほしい人たちとの契約スタイルです。企業側や、その仲介企業にメリットはありますが、こと労働者に関してはどんなに「新しい働き方」と言われても中長期的なメリットは特にありません。腕に覚えがあり、リスク込みで理解がないと厳しく、未経験や新卒で進んでなるものではないです。

就職氷河期世代が未経験から転職できない事象については、未経験エンジニアの受け入れ障壁に似ています。企業の中には就職氷河期世代から未経験採用をしているところもありましたが、折角採用をしても短期離職してしまうことが多かったと聞きます。同一属性として区分された先人たちが短期離職を続き教育コストばかり払う状況になってしまうと、企業はその属性の採用を断念してしまうのです。つまり同一属性の先人のやらかしによって後続の道が閉ざされてしまうという話ですが、現状の未経験エンジニア界隈もまた、先人の短期離職によって後続の道が閉ざされており、就職氷河期世代と同じ失敗を繰り返していると捉えています。この事象は大いに気にしておく必要があります。

キャリア相談、企業側採用・定着相談共に受け付けています。お気軽にどうぞ。

企業側の対策

下記の本でもこれまで述べたような入社前後での期待値ギャップについて、新卒・中途と職種を問わずに言及されています。オンボーディング施策の組み立てにも役立つかと思いますのでご一読ください。

ここから先は

0字

¥ 500

頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!