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新卒、第二新卒、未経験からITエンジニアになるために/中長期的な視点を踏まえたキャリア対策

大学でキャリアセミナー講師をする機会を頂くようになりました。

私自身はというと、2012年当時は研究職の道が絶たれて完全に路頭に迷っていました。オーバードクターを(特に問題意識の無いまま)やらかした結果、ビジネス領域への転身が30歳だったため、非常に苦戦していました。現在はそこから一転して採用やチームビルディングを担当・監修するようになったわけですが、どうもこのあたりを開示すると需要があるらしいということに気づき、自己開示全開で発信し始めた今日この頃です。

今回は下記のような属性の方を念頭に、中長期的に効くキャリア対策についてお話をしていきます。

  • 非情報系新卒(学士、修士、博士)

  • 既卒・第二新卒(情報系を含む学士、修士、博士)

  • 未経験からのITエンジニアへのキャリアチェンジ

本コンテンツの目的

今回のnoteの目的は、中長期的に見てITエンジニアとして優位に振る舞うにはどうするかという観点でのキャリア対策です。短期的にITエンジニアになる、フリーランスになっても続かないと意味がありません。ITエンジニアに転身をしても、続かない方のレジュメをスカウト媒体やTwitterでの案件紹介依頼などで多く見過ぎているため、必要性を感じて投稿するに至りました。

混沌とした「ITエンジニアへのなり方」の情報を整理する

2018年のプログラミングスクールブームでは、「ITエンジニアになれば現職よりも年収アップ」「ITエンジニアになればいつでも(フルフレックス)どこでも(フルリモート)働ける」という言説が駆け巡っていました。この頃は正社員ITエンジニアになることがゴールでした。

2020年頃には正社員ITエンジニアになるには「どうやら選考が難しいらしい」ということがプログラミングスクール運営陣で分かり始めてきました。現在も転職保証を謳うスクールもありますが、「入学から毎週20社にエントリすること」が転職保証が活きる全体条件ですし、転職保証された先も年収230万円の人材派遣事業だったりするため、ITエンジニアになれたものの、もとの職種の方が良かったんじゃないかという地獄絵図となっていました。

やがてプログラミングスクールを中心に正社員の「転職保証」ではなく「フリーランス化支援」への切り替わりが見られるようになります。フリーランスは開業届を出せば良いため、書類を書く能力があれば100%支援が可能だからです。フリーランスという「自由」を感じる字面の影響もあり、あっという間に拡がっていきました。この頃にはプログラミングスクールの教材をデッドコピーした情報商材が登場し、「フリーランスを目指そう」という大合唱が始まります。

その後、プログラマがどうしても難しいという方に対して、デザイナー、マーケター、動画編集といったカリキュラムへの誘導が始まります。

ITエンジニアのキャリアに関する情報も、YouTubeなどが台頭してきます。転職ノウハウなども流通していることから、自身のスキルセットに不相応な交渉術を繰り広げてくるケースもあり、企業に煙たがられている方も残念ながら居られます。

2022年11月からの不景気により、生半可なフリーランスでは案件が終了し、難しくなってきました。そこで出てきたのが「月10万円の副業」という情報商材です。達成可能な範囲でありつつ、現在の生活苦を助ける+10万円。どうもこれが受けているようで、TwitterDMやらフォロワーやらも軒並み10万円を謳ったアカウントからのアプローチで溢れています。副業内容としては、ITエンジニアの場合はHTML、CSS、Webページ作成などがありますが、せどり、転売なども含まれており、非常に香ばしい界隈です。

ITエンジニアとしての中長期プラン

では本題のITエンジニアとしての中長期プランを見据えた上での振る舞いはどうするべきかについてお話をしていきます。10年ほどいろいろな方の履歴書・経歴書を見てきた中では、以下のような振る舞いをするのが確からしいようだと考えています。

最初の会社は長く居るべき

転職を一度すると、退職に対する心理的なハードルがグンと下がります。転職自体が悪いわけではありませんが、一度転職癖がついてしまうと、数ヶ月から1年で転職を繰り返す人が少なくありません。何者でもない状態で転職を繰り返すと、よほどの好景気と自身のスキルの脂の乗り方をしない限り、年収アップも難しくなります。

メンタルの健康は前提

在籍期間は長くするべきですが、メンタルを壊してまで居る必要はありません。一度メンタルに支障を来してしまうと、復帰に時間がかかります。多少のストレスや不快感は仕事をしているとどうしてもありますし、一切無い職場というのも単純労働に近づかないと厳しい側面があります。自分がどの程度までのストレスであれば心身共に健康な範囲で粘れるのかを知っておくのは重要です。

積み上げを感じられる環境は重要

環境は重要な指針です。サービスにお客さんが集まらず、「何かしらのものは作ったものの、運用からのフィードバックは特に無い」というプロジェクトはあります。実装以後の手応えや、そこからの積み上げは感じにくい環境とも言えます。大規模システムでも、末端メンバーでできることは限定的であり、事なかれ主義も蔓延しているので特に刺激が無かったという声も耳にしたことがあります。

これはプログラマに限った話ではありません。例えばインフラエンジニアであっても「自社クラウドを設計・構築し、一般公開しました」という方と話をした際には、「お客がつかず、その後の業務はディスク交換のみでした」ということがありました。

ヘルプデスクも同様で、「日常業務としては、社員がよくコンセントを抜くので刺していました」「暇なので午前で仕事が終わってしまうため、午後は遊んでいました」という方も居られました。

また、残念ながらルーチンワークさえ熟しておいて貰えれば良いと考えている企業は存在しています。そのまま終身面倒を見てくれるのであれば良いですが、確約されない不安定な世の中です。成長というほど仰々しくなくとも、何かしらの積み上げを感じられる環境に身を置くことを重要視しましょう。追い出されたときに世間で求められるレベルとのギャップが大きく、厳しいです。

どのくらい居るのが目安?

「数ヶ月」「1年」「2年」などと巷の情報ソースには色々な目安らしき数字が氾濫しています。個人的にはこれは違うと考えています。

例えばスキルレベルを語る際、SESやフリーランスなどでは「PHPを3年やっていました」「Reactを2年やっていました」などとする風潮が残っていますが、期間が1年であってもできる人はできますし、8年やっていてもジュニアっぽい人は居ます。個人の能力、勘所、そして担当してきたタスクの質といった複数の要因によって大きく変わります。

短期的に離職を繰り返し、年収も伸び悩むかたの特徴として、ずっとメンバー(作業者)であるということが挙げられます。メンバーからは脱却した状況というのが視覚的に分かった方が、その後のキャリアアップ、年収交渉が容易です。

目安としては何かしらのタイトルが貰え、当該タイトルを貰った上で1年以上経過した時というのが最低ラインとしてあるかなと考えています。○○長、○○リーダー、○○エンジニアのような肩書きや、役割としてのプロジェクトリーダーなどもあるでしょう。ただし一部企業である「2年目になると自動的につく主任」などは意味をなしませんのでご注意ください。

長く居られる会社を選ぼう

長く在籍することが、中長期的に見て年収的にも転職的にも優位に立てる可能性が高いです。特に最初の企業は社会人としての人格形成や、スキルの伸び具合に影響してきます。

いかにして長く居られる会社を選ぶかということが重要になってきます。

求人票の注意点

先だって、「内定を貰った会社の基本給が9万円でした」という投稿がTwitterに流れていました。(あるかどうか分かりませんが)ボーナスや残業代などにも影響してくるため、低すぎる基本給は論外です。

みなし残業については実績の残業時間次第です。ただ、トップが突然残業を求めてくるケースもあるため、注意が必要です。

よく言われるお話ですが「アットホームな会社です」「風通しの良い会社です」といったフレーズはブラック企業が使いがちなので注意しましょう。「このフレーズをブラック企業が使いがち」と言われて5年以上経っている印象です。従って未だにまだ使っている会社はアンテナが低いと言えます。余談ですがこうしたアンテナが低い企業の場合、「何故自社が採用できないのか」という振り返りを著しくしていない傾向にあります。

下記の書籍には、オフラインで確認すべき会社の条件なども含めて記載していますので、ぜひご一読ください。

口コミを見よう

vorkersのような口コミサイトも有効ですが、本当にまずい会社はGoogleマップの評価が1点台だったりします。ハラスメントの類、企業としての問題なども合わせて確認できるため、一度見ておきましょう。

オファー時の職種は確認しよう

私も経験したのですが、自社サービスの求人に応募したところ、出てきた内定通知書は他社への常駐派遣でした。今でもこうした応募・面接・オファーで職種が異なるという話は、年収帯が低いほどよく耳にします。きちんと読む、できれば分かる経験者と一緒に読むと安心です。

(新卒の場合は特に)親の顔色を見ない

授業料などを親に出して貰っている場合、子供から見ると親はスポンサーな訳ですが、このスポンサーの顔色を見すぎて「親の顔を立てる企業選び」をする方が居ます。

ここ数年見られるパターンとしては、1年程度は親の顔を立てる企業に入社し、その後「禊ぎ」を済ませたかのようにスタートアップに行くというパターンです。いくつかバリエーションがあり、1年目は金融に入社して2年目以降でITエンジニア転身を狙う方の中にも、こうしたパターンが見られます。「回避できる遠回り」に見え、無駄に感じます。

良くも悪くも日本企業における「新卒カード」は非常に有効性の高いものです。うまく立ち回るためにも「禊ぎ」のような概念は捨て、行きたい進路があるのであれば、最初からそれを選べば良いという話です。

アルバイトしていた中小企業にそのまま入社

内定があまりに出ないと出てくる選択肢です。アルバイト先にそのまま入社するということ自体は問題ないのですが、年収がアルバイト時代準拠で暮らせる水準にないというトラブルは耳にします。有名大学の大学内ベンチャーにアルバイトで入り、そのまま入社した方にお会いしましたが、年収が200万円台前半でした。ご本人様は入社後に異変に気づいたそうです。内定通知書はきちんと貰いましょう。

社長が優しそうだった、で決めない

内定があまりに出ないと起きる事象ですが、集団企業説明会などで出会った社長の優しさに連れられて入社したという人が出てきます。社長の人柄が良いのは良いことですが、企業によっては「社長の笑顔くらいしかウリがない」というところもあります。いざ入社に向けて条件を確認すると著しく低い場合はこのパターンです。

地獄だと感じているところでこうした社長と出会うと仏に会ったような気がします。その先が地獄であっても「拾って貰った恩義」でずっと在籍し続ける人が少なくありません。就職氷河期世代ではよく見かけるシナリオです。ご注意ください。

溢れる情報と、師匠探し

情報というのは多い方が良いように思うものの、溢れすぎると意思決定に迷いが生じます。誰しもが情報を発信し、かつ小銭を稼げる環境ができてしまったことによって、その情報の真偽にモヤがかかってしまっているというのは非常に残念です。

現在40歳の私の場合は2000年のIT革命から業界に入れたため、その立ち上がりから複雑化していく課程を追うことができました。しかしもし現在20歳だとして、今のIT業界にまっさらの知識の状態から放り込まれるたとすると「いかに正しい師に出会えるか」次第であり、師に恵まれないと自信が無いというのが正直なところです。

正しい師匠に出会えることをお祈り申し上げます。究極的には有名所の情報系大学に入学し、手堅い先生を師匠にしてしまうことをお勧めしたいところです。

インフラエンジニアは下記も合わせてご参照ください。

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