ITエンジニアへのキャリアチェンジ 成功した人達と40代で駆け出す人達
ITエンジニア採用に関連してスカウト媒体を見ていると、営業職や事務職といった方々がITエンジニアにキャリアチェンジをし、3-5年が経過しリーダーなどを任され、年収も相応金額になった上で転職活動している方を複数見かけるようにました。少子化もあり、ITエンジニアの需給バランスが極端に悪い日本においてとても良い傾向だと思います。私自身、30歳で一社目に就職したこともあり個人的にも応援したい次第です。
一方で2020~2021年には30代から未経験フリーランスを目指されている方が「年齢」というディスアドバンテージに負けず挑戦し、開業してそのなり方を主に営業手法とWordPressの使い方と共に20万円以上の情報商材として展開されている方が散見されていました。2022年になり、40代で未経験からスタートされる方が散見されるようになったというのが今回のお話です。
チャレンジを無条件で讃える風潮の危うさ
チャレンジする姿勢を無条件で讃える風潮があります。Twitterなどでは就職、退職、転職、キャリアチェンジといった新規チャレンジの表明をした際にいいねやRTで数百以上のリアクションがつくケースがあります。一見良いことのように見えるものの、その人の置かれた背景やリアルなスキル感などを分かっていない状況では、こうしたリアクションも無責任な応援に思われ個人的には自重しているところです。分かりやすい例として、意気揚々と表明した転職先が知る人ぞ知るブラック企業だったり、業績的に危うい話を聞いている場合などは、複雑な心情です。
40代から駆け出す未経験ITエンジニア
上記の投稿をしたところ「40代で新しいことをしようとする姿勢を評価するべきだ」というコメントを頂きました。
40代からの未経験チャレンジの場合、扶養家族が居ない、年収レンジが200-300万円でも良い、今が酷いのでその条件でも良いという話でない限りは背中は押しかねます。理由としては下記です。
プライベートの環境要因で決して多くない可処分時間
個人によってバラツキはあるものの、一般的に40代は子育てをしていたり、祖父母や親の介護の時期と重なります。ITエンジニア経験者でバリバリ最前線に居る場合であってもこれらのプライベートな時間を確保する必要性に迫られ、ワークライフバランスの名のもとに転職する人が出てくる時期です。
また、体力的にも長時間労働は厳しくなります。特に目がキツくなる人は多いです。私も懇意にしている眼科とメガネ屋でパソコン用眼鏡を作りました。ふと思うんですよ。皆さん優しいのでそうは言わないのですが、これは老眼鏡じゃないかなって。
若いうちに基礎となる経験を積んでおくことで、多少ペースを落としたくなるのが経験者40代でよくある傾向です。10-20年キャリアがある彼らに対し、40代でゼロから追い上げる必要があるのが未経験です。学習に充てる時間や、駆け出し期間中の低待遇を加味して乗り切れるのかどうかを判断する必要があります。
経験者40代の転職も増えてきたものの、20代30代のように楽勝ではない
同年代の10-20年選手がどういった悩みを抱え、どのように動いているかは知るべきでしょう。是非下記をご参照下さい。ここから経験を差し引いて状況を想像しながら意思決定することになります。
すぐ辞めないか
未経験ITエンジニアのうち、適当なアフィリエイターや情報商材屋の情報にあてられた人たちからは「やってみないと分からない」と言われます。また、「私達が参入することで競争率が上がるのが怖いんじゃないですか」というコメントを頂いたこともあります。
プレイヤーが増える分には助かるのですが、採用コスト(費用だけでなく選考工数も含む)や、教育コストだけ払って居なくなられると企業にとってはマイナスであり、ビジネス上成立しません。
是非覚えていただきたいこととしては、既に未経験分野は20-30代が死屍累々としているという事実です。20-30代の未経験を受け入れ、数ヶ月で居なくなり、教育コストだけかかった苦い経験を持っている企業が多い中、「何故40代未経験の自分を雇うと長期に戦力化できるのか」とプレゼンする必要があります。
度々話題にすることですが、M&Aで40代以上が主要メンバーのSIerを買収する際、買う側が期待することは「人が辞めない」ということです。40代未経験で短期で辞めてしまう方が増えてしまうとその期待がなくなってしまうため、後進の未経験40代が苦しくなるばかりです。お気をつけ下さい。
情報商材売り始めないか
未経験層でよく見られるのが「自身が未経験から数ヶ月でフリーランスになった経験」を数十万で売ったり、スクールを開講するというものです。「30代未経験からこんな私でも稼げるようになりました」というのは「半歩先のロールモデル」に見え、自分にでもできる(再現性がある)のではないかと思って購入される傾向にあります。同様に「40代未経験から~」というのも増えていく可能性があります。7/3現在、すでにLINEへの誘導アカウントは発見しました。
これら未経験層がすぐに出す情報商材は総じてコンテンツの質は低い傾向にあります。著作権が何かを知らない開講者が、自身が受けた教材をコピペして問題になったケースもありました。
数日前には30万円のプログラミングスクールに入会した後、「Progateを3週して来なさい」と言われたという投稿が話題でした。元の投稿が消えたので真偽は不明です。ただProgate相当の知識を確認するテストを合格したら受講可能なら理解できるのですが、後から言われるのがよく分からないところです。
連鎖してお金を吸い上げるだけのシステムになっているので、負の連鎖を止めたいところです。
高度な若手の台頭と、ジョブ型採用が進む業界であることを理解する
経験者であっても意識しなければならないのはデジタルネイティブな若手の追い上げです。学生時代にプログラミングを開始し、実務経験も積んでいるのが上位層となっています。勢い、新卒一括採用の上で一括初任給という前提を崩さねばならないところに来ています。
このような20代前半が居ることを念頭においた上で、自身のバリューを説明していかなければならないのです。「人が居ないんだから雇え」という話では条件交渉も含めて厳しいです。
「何故今なのか」という質問はいつでもされる
求人の応募は20-30代の未経験でも、一部の評判の良いスクールでない限りは200-300エントリする傾向にあります。40代でも同等以上の困難が予想されます。
選考に進むと必ず「何故今エンジニアになろうと思ったのか」「20代や30代でエンジニアにならなかったのは何故なのか」と聞かれるでしょう。
何かポジティブな返答を作りましょう。
お勧めしたい解法
一方でITエンジニアは居ないですし、人員を確保しやすい海外拠点とうまくやれる異文化コミュニケーション力の高い企業も少ないので、こうした40代未経験層に期待したい企業もあるでしょう。
ただ40代未経験を受け入れる企業となると、CSR的な意味で受け入れる余裕のある企業である場合もありますが、訳ありである可能性も高いです。極端な事例では「人語が話せれば誰でもOK」という求人もありました。概ね下記のようなものです。
未経験社にも関わらず、経験者かのように担当営業が盛るSES
SESがすべて悪いわけではないことに注意です
株主に採用人数を約束したことをコミットしているだけなので取り敢えず採用して取り敢えず現場へ送る
現場からの不満が凄く、その後縮小する傾向
エンジニア枠で入社後、適性検査により総務配属
エンジニア枠で入社後、家電量販店に立つ
24/365で監視業務
プログラマかと思いきや、手作業のテスター、デバッガー
明るい未来を描く情報発信者も居ますが、スタートラインが遅くなるほど上記のような現場に当たる確率が高くなります。
では全く不可能なのかというと下記のようなアプローチが考えられます。
現職でできる範囲からキャリアをスタートする
未経験からのエンジニアへのキャリアチェンジの類で危ういのは、現職を辞めてから学習から始めるというものです。物販のマルチ商法と同じで現職を辞めさせ、退路を断たせ、時間の全てを自組織の売上貢献に向かせる手法です。8年くらい前から一部プログラミングスクールで見られる悪質な手法です。
そこでお勧めしたいのは現職内でのキャリアチェンジです。いきなりエンジニア部門に行ける懐の広い企業もあるようですが。基本的には現在部署の中でプログラミングによる業務効率化やツール開発を社内のプログラマ監修の元で行い、その実績を持って異動することをお勧めします。過去の実績も含め、下記コンテンツをご参照下さい。このコンテンツで述べた未経験の方も、今ではPMOを担当するまでになりました。
社会人から情報系大学という選択肢
プログラミングスクールは数ありますが、理想としては4年制の情報系大学に入ることをお勧めします。修士からの入学は基礎から上級の応用をこなすには時間が足らないので学部からが理想です。
まだまだ日本では件数の少ないキャリアではありますが、学校法人ですと履歴書にもしっかりと書けるのでお勧めです。
今回のスコープとはズレますが、20代であれば卒業と共に新卒扱いで厚遇してくれる企業もメガベンチャークラスであります。30-40代だと事情は異なりますが、志が不明なプログラミングスクールに行くよりはずっと確からしい自己投資になるでしょう。同時に社会人になってからの進学について日本国内での認知と理解が進むことを期待しています。
年齢を重ねるほどリセットではなく追加の概念を
人生百年時代と言われますが、全く新規のチャレンジをしても露頭に迷わないとすれば、かなりの蓄えがある状態か、何を失っても怖くない状態かに限られるように思われます。
せめて業界知識は活かせる立ち位置にしたいところです。「人生逆転」の名のもとにかなぐり捨ててゼロから始めるのではなく、現職でキャリアチェンジをする、近しい業界で動くなどこれまでの実績を活かす方向で進まれることをお勧めします。
未経験ITエンジニアの採用・登用も含め、どこで人材を採用し、どう定着、活躍に繋げていくのかを纏めた一冊が7/21に発売されます。是非ご一読ください。
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