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未経験エンジニア参入障壁の変遷/受け入れ先企業、候補者双方の心構え

先立って公開されたYou Tubeでの「IT怪談」。IT業界で見掛けた怖い話をお話しましたが、各話の最後にはその対策や解説がついています。

合計12話ですが、ジャンル分けしていくと未経験、経験者、経営者の3つの時期があったように思います。こと未経験に関してはひさじゅさんの話題のところで話がありましたが、「昔はあったけども今はなくなってしまった参入の隙間」が存在します。過去と現在の違い、そして現在期待される候補者、企業それぞれの振る舞いについてお話します。

労働環境は良くなかったものの、参入する隙間はあった2010年代中盤以前との比較

ベンチャー界隈に居ると時折遭遇するキャリアとして、「ロックで生きていくことを誓うも27歳頃に諦め、一念発起してエンジニアを目指す方」というものがあります。私見ではギタリストが多い気がします。

一つのボリュームゾーンとしてはリーマンショックより前と言えそうです。ミュージシャン以外にも接客業や建築現場、営業などからの転身も見られました。彼らの受け入れ先も多くありましたが、労働環境は良くなく、たくさんの方が居なくなったので「昔は良かった」と肯定するつもりはありません。

そんな彼らがITエンジニアのファーストステップとして何をしてきたかを振り返り、それらが今はどうなっているのかを見ていきます。

テスター

プログラマーを目指す人であっても、「とりあえずテスター」という流れは2010年代中盤までは様々なところでよく見られました。Webシステムのみならず、携帯電話や家庭用ゲーム機のテストをしていた人にもお会いしました。元テスターの方とPSXの話で盛り上がったこともあります。

「開発の流れを知る」という名目で始まるのですが、実際のところプログラマーの適性とテスターの適性は大きく異なります。決められた手順に準拠しなければならないテスターは、適正のない人がやるとバグ報告率が下がったり、本人の心が折れて居なくなったりします。テスターはプログラマーの入口ではなく、適性ありきなのだと強く感じています。

現在、こうしたテスト業務も、テストの自動化が浸透するに従って従来より必要とするテスターの数が減少傾向にあります。

サーバ監視、オペレーター

MSP (Managed Service Provider) やデータセンターなどには監視業務を担当するオペレーターという職があります。アラートが来た際に手順に基づいて対応をしたり、ドキュメントに記載された人に対して電話をかけたりします。ネットワークエンジニア、サーバエンジニアへの入口と位置づけ、教育を施すところもあります。

インフラエンジニアは2010年前後からパブリッククラウドの一般化により不人気職になったことがあります。各社からオンプレミス環境撤退に伴い、インフラ専任者の雇用が減少し、スキルが高い人はクラウド事業者の中の人になりました。

使いこなされたパブリッククラウド下では、ある程度の障害であれば自動復旧やサーバ増減がなされたりしますし、担当者に自動的に電話することもできます。そのため人が24365(24時間365日)体制で監視する必要がある企業が減りました。

一方、オンプレミス環境やデータセンター契約が減少している一方で、プロバイダやデータセンターなどでは30代以下が少ないという問題を抱えているところもあります。40代、50代が中心となってネットワークを支える現場もあるため高齢化問題とも言えます。

未経験プログラマーの就職難と合わさり、一定数がインフラエンジニアに流れていますが、プログラマーとインフラエンジニア、オペレーターは全く異なる仕事であるため、定着については注意が必要です。候補者、企業ともに業務内容についての把握、合意をしっかりとする必要があります。

データ入力

2010年代前半まではプログラミングの現場に先輩とセット入場した新人がデータ入力をし、手が空くと先輩から課題を貰ってプログラミングをするということを耳にしていました。以後はあまり聞かない印象です。

キッティング

中小企業ではあまり問題になりませんが、それなりのサイズの企業では新卒採用や大量採用時のPCセットアップがそれなりの作業ボリュームになります。

かつてはこれらにアサインされるエンジニアも見掛けましたが、マニュアルを作って総務よりの人達が担当する時代を経て自動化されたり、外注されたりするようになり、特に大企業からは消えゆくタスクとなっています。

ライトなHTML/CSSコーディング

Web系の開発では手始めに文言修正やボタンの位置変更といったものから始まることが昔から多く、このタスクを経て難しいタスクにシフトしていく傾向にあります。

ただ企業によっては単価の低いフリーランスをHTML/CSS修正担当にしていたり、海外拠点に投げたりするケースもあるため、国内社内にタスクがそれほどない企業もあります。

語弊を恐れずにいうならば、社内の「猫の手」要員が必要となるシチュエーションが徐々に減っているとも言えます。

未経験フリーランス、ギグワーカー、(国内)安価なニアショアといった「安価に社外に流せるサービス」が増え、軽作業を正社員以外に振ることができるようになってしまったというのも、未経験採用した正社員に振る仕事が減少している一因だと考えています。

未経験エンジニア、キャリアチェンジ組の生存者と出世

Twitterでは未経験からのエンジニア転職やフリーランスを志すも高額で低品質な情報商材を信じるも数ヶ月〜1年程度で行方不明になるというのが2018年頃から繰り返されています。

一方、スカウト媒体を見ていると他業種から未経験でITエンジニアとなり、数年が経過してリーダーポジションを任されているなど、こちらも嬉しくなるような企業内での真っ当な成長事例が少しずつですが見られるようになりました。

次にこうした人材を増やすためにはどういった要素が必要かを見ていきます。

現時点での未経験の「当座のバリュー発揮」

「人への投資」の話が話題になっています。日本企業の研修やスキルアップに向けた能力開発費がGDPの0.1%と極端に低いことから問題視されているというものです。WBSでは「これまで日本企業で研修や教育は投資ではなくコストと考えられてきた」「スキルアップすることで転職するのではないかと考えられてきた」と解説されていました。

後者は理解に苦しみますが、入社初期の研修やOJTを終えると教育は途絶え、「滑空」状態に入る企業はベンチャーであっても見たことがあります。業務内容があまり変わらないので滑空で十分なのでしょう。個人的にはこうした企業は職場内に転がっている本が極端に古い傾向があるように感じます。数年前に事業ができた頃のビジネス書ばかり並んでいたりします。

また、研修が土日にあり振替なしというのもよく見掛けます。成長して欲しいという一方で平日の売上を下げてまでは実施したくないという経営層のジレンマを感じます。

このように現時点では入社時教育コストは必要悪であり、それ以降の教育はコストであると捉えている日本企業が圧倒的な状態です。そのため未経験人材であっても「さぁ、教育を我に施したまえ」というスタンスを受け入れられる企業は少なく、些細なことからでも事業貢献することが期待されます。具体的な項目を見ていきます。

先のYou Tube収録時に出演者の中で話されていたのはRSpecなどのテストパターンを増やすというものです。過去のテスターから始める事例としてもプログラマーに近く適切なように感じられます。

オペレーションの類では、セキュリティ監視の需要が高まりつつあります。現職がオペレーターの方のキャリアチェンジも学習意欲があれば歓迎という企業もあり、セキュリティに興味があれば検討してみてはいかがでしょうか。

現実的なものは自部署の業務効率化からのキャリアチェンジでしょう。私自身何名か手掛けましたが、DXや業務効率化の意識がある企業であれば可能性のある切り口なので、是非上長や自組織のシステム開発部門に相談してみてください。現状では人が居なさ過ぎるがために短期離職やむなしで未経験採用をしている企業もあります。それに比べると自社の他部署社員は全く知らない人ではないので、適性さえあれば良い返事を貰える可能性が以前より高まっているのではないかと考えています。

企業、経験者から見た未経験の受け入れスタンス

これまで述べてきたようにIT業界の技術革新により、未経験の参入というものの質も変化してきました。こと経験者は自身の体験を元に同じ経験をさせたくなってしまうものです。しかし状況の変化を加味した上で成長の道筋を組み立て、接しないと行けないでしょう。特に助言という点で自身の駆け出しの頃の話を現状を加味せずに伝えると、まるで役に立たないケースもあるため注意が必要です。

教育としてのコンピュータサイエンス

フィリピンでは大家族を支えるために年収の高いエンジニアになることが目的になっており、そのためのコンピュータサイエンスが学べる大学進学は一般的になっています。

一方の日本はITエンジニアになることを見据えて大学選びはようやく始まったころかなと感じます。

逆に言うとこれまでは非コンピュータサイエンス専攻者にも参入チャンスを提供してきたというのが終身雇用、一括研修に由来するため、日本企業故の未経験キャリアチェンジの間口の広さに繋がってきたとも言えそうです。

向こう数年でまた未経験界隈の事情には変化が予想されます。任せる範囲には変化が生じ、海外人材、海外子会社も含めた代替依頼先の変化もあるでしょう。

確実に言えることとしては、大学進学を悩んでいるITエンジニア志望の中高生については、行けるのであれば4年制の情報系大学に行っていただくのが手堅いと言うことです。

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