見出し画像

インフラ人材はブルーオーシャンなのか?/ITエンジニアキャリアにおける「ブルーオーシャン」とは

定期的に「インフラエンジニアになろう」という話がTwitterで出てきます。

先日AWS学習サービスの代表の方が「インフラエンジニアはブルーオーシャン。バックエンドとフロントエンドエンジニアはレッドオーシャン。インフラエンジニアは人が居ないのでお勧めです。」と発言されており、情報商材らしい立ち位置も含めて物議を醸し出して居ました。

私自身、ITインフラの研究職から上がってきたのでインフラエンジニアの友人知人も多く、自身でも今でもAWSで動いているサービスの立て直しや、SRE採用支援も手掛けています。今回はインフラエンジニアの歴史や動向を振り返りつつ、整理してお話します。

インフラエンジニアを巡る状況

ITインフラ界隈でいうと2000年代前半まではIT革命もありISP就職希望者が多かった時期がありました。

その後、2000年代後半の情報系大学ではインフラ離れが起きていました。研究テーマとしてはモビリティ、ユビキタス、IoTなど目に見える形でモノが動くものが好まれる傾向にあり、ルーティングなどに取り組む人は減っていきました。

2010年になるとソーシャルゲームバブルがあったため、より儲かるWebアプリケーションエンジニアが増え、その後のモバイルアプリケーションエンジニアへと繋がっていきます。一方、ゲームなどに興味がない人は何故か金融に多く流れていきました。「リーマンショックをもう忘れたのか」という感想を抱きながら見ていた次第です。

大学生向けのインターネット初級授業の課題で「自宅のインターネット環境を図に起こそう」というものを毎年やっていたのですが、2003年あたりから下記のような動向が見られました。

  • なんとなく無線LANが家庭にもあり、その先のネットワークについて知らない

  • Yahoo!BBの無線LANパックに加入しているので図がシンプル

  • AirH"なのでPCMCIAカードを刺すだけ

こうした状況に伴い、2000年代中盤には一般ユーザーからすると見えない位置にあるインフラ界隈の研究テーマは、若手の志望に至らないという傾向を感じていました。2006年にはあまりに人が集まらないので初めて学内向け研究室紹介を実施し、志望者を確保するようになりました。

ある派遣会社の職種別年齢傾向を見たことがあるのですが、ITインフラ系は40代、50代が中心であり、30代はごっそり居ないという傾向にあります。
これは上記の情報系大学の観測と一致します。そのため、企業側としてはインフラエンジニアの若返りを図りたいという思惑はあるのだろうなと感じます。冒頭の情報発信者も続くスレッドで「はじめは保守運用があり得る」としていますが、24365(24時間365日)対応のオペレーターから始めるのは想像に難くないなと思います。

AWS資格の効力

SIerなどであれば資格を持っていると顧客に提示する単価アップの根拠となるので意味はあります。インフラエンジニアに関わらず、自社サービスよりSIerの方が社員に対して資格取得を奨励する傾向にありますし、資格取得によって給与が上がる制度を持つSIerはあっても、自社サービスではほぼ聞きません。精々が資格に合格した場合、受験費用を出すくらいのもので、評価に反映するケースはあまり聞きません。

問題は「資格は持っているが実務未経験」の方の処遇です。AWSの資格はあるけれどLinuxのオペレーションはできないという話もよく耳にします。SIer/SES界隈でも勉強ができるのは理解できるが、即戦力とは言い難い現実を前にギャップを感じている企業の話は聞こえてきます。候補者としては資格があるから人生一発逆転できるのではなく、暫くは謙虚な気持ちで実務経験を積む必要があります。

インフラエンジニアから未経験プログラマへの転身層

一方、第二新卒でプログラマになりたい人についても一定数インフラエンジニアの方が含まれています。

非情報系を卒業したあと、有名企業を受験した結果、あまりインフラエンジニアに対するイメージがないまま大手ISPに就職。そのままサーバ監視の業務を2-3年経験した辺りで給与の伸びだったり、大学同級生のプログラマーとの業務内容の比較、仕事の地味さに疑問抱き、急にフロントエンドの学習をし始めるというものです。

またデータセンター勤務をするも顧客がパブリッククラウドに流れ、スカスカになってきたフロアに危機感を覚えてプログラミングの勉強を開始される方も居られます。

要求レベルの変化の兆し

個人的にAWSを使うエンジニアには3世代あるという説を唱えています。

  • 第1世代

    • EC2を中心にサービスを構築する

    • オンプレミス環境をそのままAWSの上に載せたクラウドリフトの状態

  • 第2世代

    • EC2を中心にマネージドサービスを駆使する

  • 第3世代

    • コンテナを中心にマネージドサービスを駆使する

なお、AWSの依存度で行くと1から3にかけて増えていくため、第1世代でゴリゴリと作り込んできた方の中には2-3世代に抵抗を示す方も残って居られます。世間にある多くのサービスは1-2世代に相当しますが、ある程度のサイズのサービスであっても第3世代のものが出てきました。

実際に第3世代のサービスや、第3世代になることを予定しているサービスではSRE担当者の要件が興味深いものになっています。キーワードとしては下記技術をそれなりのサイズのサービスに主導して導入したリード経験者が求められています。

  • クラウドネイティブ

  • コンテナ

  • IaaC、自動化

第2世代くらいまでであれば「オンプレミスの経験があってこそインフラエンジニアを名乗って良い」という風潮でしたが、このSREの求人ではこの4点だけで十分すぎるほど高度で対象者が居ないため、むしろオンプレミスの経験は問わない企業も確認されています。

ある程度のユーザー数がつかないと何も波風が立たないので経験にならないというのもインフラエンジニアの難しさです。インフラはモダンでもトラフィックが無いとなると、スケールも障害対応も特に問題にならないため、しっかりとユーザーのついたサービスに関わる必要があります。極端な事例ではありますが、以前「自社の新規事業でパブリッククラウドを始めることになり、構築した」という方にお会いしたことがありますが、よくよくヒアリングをするとユーザーがほぼ居らず、運用でやることと言えば「飛んだハードディスクの交換」でした。

ブルーオーシャンと言われる頃にはブルーオーシャンは既に終わっている説

そもそもITエンジニアのキャリアにおいてブルーオーシャンとは何でしょうか?これについては3つの観点があると考えています。

1つはITエンジニアは専門職なので、一人前になるには概ね1-3年はかかることから3年後の需要を見越しての投機的な意思決定をするというものです。今この瞬間に人が居なくても、一斉に志望者が集まることで3年後にはレッドオーシャンになる可能性があります。

もう1つは、参入タイミングです。ブルーオーシャンと呼ぶにはエビデンスとしての統計が出る前であることが望ましいです。参入時点で先人が纏まって存在する領域は一般的にブルーオーシャンとは言いません。インフラエンジニア自体は商用インターネットから数えると30年、クラウドエンジニアで言えばAWSが始まってからの10年の歴史があるので、ブルーオーシャンとは言えません。インフラエンジニアをブルーオーシャンと呼んで良かったのは90年代後半、クラウドエンジニアであれば2010年代初頭じゃないかと考えます。

最後は単に人が居ないところを「ブルーオーシャン」と呼んで良いのかと言うことです。なり手が居なくて過疎の状態と、今後需要が見込まれて高待遇が予想される状態では全くシチュエーションが違います。地方の過疎が進んだ限界集落をブルーオーシャンと呼ぶ人は居ないというのと類似のお話だと考えています。

インフラエンジニアは一般の生活をしていてその仕事に気付くタイプの業種ではありません。例えオンプレミス環境の担当になってもログ、グラフ、せいぜいアクセスランプくらいしかトラフィックを窺い知ることはできないため、通信に対して論理的な想像力が求められます。インフラエンジニアは私自身思い入れのある職種ですし、ばっちり理解すれば非常にやりがいがあるものですが「ブルーオーシャンだからなる」「人生一発逆転を狙う」というモチベーションに応えられるかというと地味で且つ難しすぎると思いますね。それ故、挫折しやすい傾向にあるため、業務イメージを抱いてからの参入をお勧めします。

noteやTwitterには書けないことや個別相談、質問回答などを週一のウェビナーとテキストで展開しています。経験者エンジニア、人材紹介、人事の方などにご参加いただいています。参加者の属性としてはかなり珍しいコミュニティだと思っています。ウェビナーアーカイブの期間限定公開なども試行中です。

経験者向けMeetyも開設しております。キャリア相談、組織づくり相談などお気軽にどうぞ。

執筆の励みになりますので、記事を気に入って頂けましたらAmazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。

学生さん向けキャリア相談Meetyを作成しました。多数の学生さんにご応募頂いております。


頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!