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ITエンジニアと「45歳定年説」

新浪剛史サントリーホールディングス社長による「45歳定年」が話題です。下記ニュースがよく纏まっていますが人材流動化、終身雇用・年功序列・退職金制度の見直し、解雇規制の緩和ムード醸成など様々な解釈が溢れています。

個人の見解としてはキャリアの多様性はあるべきですし、IT界隈を見る限り大学は専門性を身につけるというより教養を身につけるのが日本の大学であるため、入社後に0スタートで教育し育てていく(TwitterではJTC - Japan Traditional Companyなどと呼ばれている)往年の日本企業の労働スタイルにははっきりとした必要性があると感じています。そのメリットを活かしながら生き残って頂きたいと考えていますが、どうも総合職の終身雇用まで踏まえると事情は違うようです。

一方、ITエンジニアはどうなるかというと全く事情は異なってきています。今回はITエンジニア界隈における45歳定年説に関する見解についてお話します。

2010年代中盤まで 35歳定年説

かつてのIT業界は長時間残業、高ストレス、高負荷なブラック業界だったので体力の限界がありました。

実際に中途採用面接で34歳くらいの人がよく来られていたのですが、「最後の転職だと思っています」と言う人が多かったのが印象的でした。

 興味深いのが2006年11月22日のリクナビNEXT Tech総研「Dr.きたみりゅうじの"IT業界の勘違い"クリニック22 SEのしごとは、35歳が限界ラインだよね?」です。関連注目キーワードは「SE 35歳 限界 体力」。

採用時に年齢制限を設けると罰せられるアメリカとは違い、日本では普通に裏で年齢制限がある企業があります。企業と紹介会社とのすり合わせの際にも必ず年齢に関しての認識すり合わせが行われます。企業が受け入れ可能な年齢の上限値に関して、下記のような感じで要件拡大がなされている企業が多いです。

1. 20代経験者が欲しい
2. 無理なら30歳でも良い
3. それでも無理なら35歳まで
4. 社長が40歳なので30代なら何とか(社長より年上のメンバーの受け入れは社長の許可が降りない)

2010年代後半 「辞めない」が価値

2010年代後半になると、M&AによってSIerを買収することでエンジニア確保をする企業が現れます。90年代に創業したSIerなどであれば社長がそろそろ60歳以上に差し掛かる場合が多く、後継者も居ないとなると老後資金などを目的に社員毎企業をM&Aするというケースがあります。

M&A仲介を担当する方からこの需要の背景を聞いてみると、M&Aで買う側の企業には下記の二つの事情があるようです。

一つはITエンジニア採用をしようとなるとブランディングから始める必要があるのが昨今の中途採用市場です。しゃらくさい。M&Aしちゃったほうが早いというものです。

二つはM&AによってSIerから得た人材は「辞めにくい」という期待です。在籍年数が長かったり、転職経験がなかったりするのでこの先も辞めることなく働いてくれそうだという期待です。

事情は随分後ろ向きではありますが、そういうミドルのエンジニア需要がありました。

この頃になると、40歳を越えたらこれまで積み上げてきたスキルと人脈を元に独立を考えましょうという話も出てきました。実際はどうだったかというと、フリーランスにしても同様で50代で案件を獲得し、しっかりと単価をキープできている人はReactでバリバリ実装できたり、Sharepointのスペシャリストなどの渋い技術を持っていたりと年齢上限を取っ払わないと獲得できないようなスキルを持ったごく一握りの人材に限られるものでした。

総じてIT業界自体の歴史が浅いので年齢的なミドル・シニアが採用市場に少ないということもあり、動くとなると厳しい側面があったのが2010年代だったと言えます。

2021年 人が居なさ過ぎてなし崩し的に上限解放

いよいよ採用市場に経験者が居なくなった2021年。当noteでも7月に公開した下記コンテンツも大きな共感を持って多くの方に読んでいただきました。

採用する側の企業としてもITエンジニア採用において年齢上限を設けるのは無謀となってきました。2010年代には獲得できていたペルソナである「20代、経験3年以上、正社員希望」の数は少なく、そこにリモートワークではなく出社を必須にしたりすると絶望的になってきます。

こうした採用市場の加熱に伴い、なし崩し的に上限解放がなされたのが2021年でした。40代でもカジュアル面談から組まれますし、名のあるベンチャーから内定も出ます。50代でもフリーランスで入場できるようになりました。ただし誰でも入れるわけではなく、次の条件が必須です。

現役感と柔軟性は必須

現役感は実に重要です。何もモダン技術に精通している必要はありませんが、自社が求めているスキルセットに合致したものであるかどうかは求められます。

2010年代前半に「俺はFORTRAN一筋で30年やってきた。JavaScriptとか直ぐに覚えられるはずだから給与据え置きで雇え」というミドルの方が来られたことがあります。こういう主張は活躍して頂ける根拠がなく、お互いにリスクしか感じません。

そんな中、私が最も懸念しているのは職務経歴書の質です。スカウト媒体やリファラルによる採用が増えたり、時代の流れに応じて10数年ぶりに転職をしようとしたりする方が居られるのですが、軒並み職務経歴書の可読性が低く、何をやっているのか分かりにくい方が増えています。20年、30年の経歴を過去から箇条書きされても読みにくいのです。やることをやっていても伝わらないと厳しいので、是非しっかりとした職務経歴書を書いてください。ポイントを纏めたコンテンツを用意してあるのでご一読頂ければと思います。

過去コンテンツでも取り上げたのですが、「ミドルの面接で面接官が見ているポイント」にも企業が面接で重視するポイントとして(企業が求める領域の)専門職種の知識・経験(84%)だけでなく、コミュニケーション能力(41%)、人柄(41%)、柔軟性(66%)、適応力(48%)、主体性(46%)が挙げられています。つまるところ、当該企業が求める現役感があり、柔軟性もあるというのが前提条件になっています。

下記の黒田真行さんの『40歳からの「転職格差」』は柔軟性の話も含め、エンジニアにも応用できる話が沢山ある良書です。実際に前職で転職エージェント教育をしていた際に推薦図書にしていました。是非ご一読ください。

『50歳SEの生き方』こちらは事例集です。こちらの本も前職でミドル層を担当するエージェント向けに推薦図書にしていました。

自身より若い人に採用され、共に働くポイント

私自身、ベンチャーを渡り歩いていることから年下の上役や、年下の他部署の人との協業シーンが多くありました。若手のエースと話していてふと「私がIT業界に踏み入れたのは2000年なのだけど、何歳だった?」と訊くと「3歳ですね」とか返ってくるわけです。そんな若手にヒアリングしていく中でポロッと聞こえてくる本音としては「ミドルはなんか怖いイメージがあって話しかけにくい」というものです。

詳しくは別のコンテンツに譲りますが、今のZ世代に特に強い傾向として「マウンティング」に対する恐怖があります。平たく言うとミドルは「怖くないよ」とアピールしていく必要があります。年上だろうが、目上だろうが、前職が大きかろうが抜きにして「話しても大丈夫」な空気を出すことは最重要であり、常々私が気をつけているポイントです。

今後の懸念点1:情報商材、インフルエンサーの煽り

現在起きつつある懸念点についても記しておきます。

先日、「40代になって気づいた人たちがSocialDogを使ってTwitter投稿する傾向がある」というポストが流れてきました。

SocialDogはTwitterマーケティングツールなわけですが、これを使ってF/F比率(フォロー数/フォロワー数の比率)を管理しつつ、定期投稿機能を使ってフォロワーを増やしてインフルエンサーになりましょうという情報商材が前からあったわけですが、どうも40代にスコープを当て始めているようです。

恐らく冒頭の45歳定年説を前提として上で40代を決め打ちしたり、これから40代に差し掛かる層に対して「これからはエンジニアになり、フリーランスにならないと生き残れない」という文脈で過度にエンジニアフリーランス礼賛をする一派が現れることが予測されます。

年代問わずですが下記のニュースのようにフリーランス界隈は異変が起きています。前述したものと重複しますが、働き方の多様化は歓迎されるものの、誰しもがフリーランスに向いているわけではないので熟考をオススメします。

人材仲介会社「ランサーズ」は、ことし1月から2月にかけてインターネットで行った3000人余りへの調査と国の労働力調査をもとに、独自に推計を行いました。
それによりますと企業に雇用されていない「フリーランス」として仕事を請け負い、生計を立てている人は551万人にのぼり、去年の同じ時期の2倍近くに上っています。
またオンラインを通じて、1日や数時間などの単発の仕事を受けて働く「ギグワーカー」は308万人と、去年の同じ時期のおよそ5.3倍に急増したとしています。

今後の懸念点2:若手への示し

FIRE(Financial Independence & Retire Early)という動きが20代の中で増えています。若いうちにたくさんお金を稼いで投資などで試算を蓄え、早期退職しましょうというムーブメントです。

これは偏に時代の不透明さを背景にした「お金がない状態で歳を重ねることに対する恐怖」なのではないかと思います。こちらも正社員の現象に繋がることを懸念しています。

元気に楽しく企業で働く中年像を見せないと若い世代は希望を抱きにくいのだろうと考えています。

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加齢に伴う影響変化に備えることは難しい

年齢の問題というのは将来予測の中でも最も難しいものではないかと捉えています。実際に年齢を重ねてみないと分からない体力、家族も含めた周囲の環境、社会からの見え方、そして時代背景と合わせた市場価値。頭では理解していたとしても、実際にその立場に近づいてみないと解像度高く理解できないというのが加齢なのではないかと考えるに至りました。

この当たりの年齢を取り巻く環境というのは、継続して言語化していきたいと考えている次第です。


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久松剛/IT百物語の蒐集家

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