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デーティング化するインターン採用:企業・大学はインターンとどう向き合うべきか

 インターンに関するニュースが多く見られるようになってきました。企業側から見るとサマーインターンの母集団形成の時期にも重なります。

 そんな中、4月末に経団連と大学による協議会が実施され、インターンの在り方が議論されたというニュースもありました。

実は産学協議会は2020年の報告書の中で、「キャリア教育としての低学年向けイン ターンシップ」と「就職・採用選考を意識した高学年向けのインターンシップ」を区別すると明言している。

 インターンとは何で、何を期待すべきなのかを採用する側と大学側の双方から見ていきたいと思います。選考の色合いが強くなるウィンターインターンとは違い、企業を知る側面が強いサマーインターンを想定してお話します。その上で企業側はどこまで期待し予算投下すべきなのかを考える一助になればと思います。

1dayインターンはオープンキャンパスみたいなもの

 中には学びがあるように工夫される会社さんもありますが、会社説明会が殆どでしょう。午前と午後をぶち抜いても軽いグループワークが時間的に限界かなと思います。特にサマー期は学生のレベルもマチマチなので、ワーク設定の難易度は高いです。企業がある程度採用強者であれば選別の上で高度なワーク設定も可能かとは思いますが、多くの場合は難しいでしょう。

インターンシップの参加社数は「3~5社」が39.5%で最多、次いで「1~2社」34.2%となりました。「10社以上」の参加経験がある学生は12.6%でした。

 ITエンジニアの場合は6-7社を受けている方が多い印象です。見ていると1-2週間のインターンをカレンダーに据え、その隙間を1day、もしくは連休かある場合はそこに当てて3daysクラスのもので埋めていくことをしています。

 こうなると1dayは緩衝材のようなもので、本選考期に「どこへインターンに行きましたか?」と質問する頃にはほぼ1dayインターンのことは忘れています。唯一例外なのは各社に著名な有名人が居て、その人と1:1で話した場合です。学生間で話しているのを見ていると自慢しているのをよく見ますが、このくらいでないと記憶には残らないようです。

3daysクラスのインターンはひと夏の思い出

 企業側から見て運営に工夫が必要であり、イベント設計やら感情設計やらで結構な時間が取られ始めるのがこの辺りです。

 個人的なITエンジニア採用での経験ですが母集団形成で200人に接触。そこから面談を経て20人程度を集める形になります。

 ハッカソンなどを企画する訳ですがチーム分けをするとしてそこに気の利いたできる社員を張り付けることになるため5チームあったら10名は必要です。そこにイベント運営のためのスタッフも追加すると15名程度のスタッフを3daysなら3日間拘束。この時点で45人日。母集団形成の200人面談(1人30分計算で)0.5時間×200人×面談者2人(12人日)を含めると事前準備抜きで57人日はかかります。サマーインターンという選考前の状態であっても学生の日付は奪い合いなので、面談者には人事だけでなく面倒見の良い当日参加するエンジニアをアサインしないとグリップが弱いです。加えてドタキャンも想定した参加者確保が必要です。

 ここまでして効果はどうかと言うと、学生に聞く範囲では1-2週間クラスのインターンと比べてそんなに覚えてないですね。良くてひと夏の思い出です。何かしらの気付きがお土産となってくれれば良いのですが。

拘束時間が長くて大学に嫌がられるインターン

 私もかつては教員を目指していたため、「インターンのため研究室にいけません」という学生に対しては諸先輩・諸先生と共に「就活とっとと終わらせて研究室来て研究して、論文書いてよ」と思っていました。特に「来るもの拒まず去るもの追わず」と豪語できる研究室や、教員が社会人を経験しておらずビジネスに対して否定的な姿勢だとインターンに対する批判的な声はよく耳にします。

 本noteでも話題にしたことがありますが、現在のインターンは研究活動との相性がかなり悪いです。特に修士との折り合いは最悪と言ってよく、修士1年の5月頃にサマーインターンの母集団形成があり、夏休みはサマーインターン、その後本選考期が始まって内定が出たら内定者インターン。就職活動に全力投球するとほぼ修論に着手できないようになっています。私が見た最短の研究機関は3ヶ月でした。この問題を突き詰めていくと先の経団連と大学の協議会の話になっていきます。

デーティング化するインターン

 その一方で、余りに学生が短期離職することに危機意識を持っている教員も居られます。そうした方の中には「どんどんインターンに言って各社の雰囲気を知り、自分にあった会社を探して来なさい」という教員も登場しています。こうした教員についている学生だと晴れ晴れとした顔でインターンを梯子しています。

 ただこの「とにかく会って自分にあった雰囲気の会社を探す」というロジックはデーティングと同じです。デーティングというのはマッチングサービスの一種類でしてTinderやタップルなどが区分されます。あまり詳細な検索条件をつけず、写真の印象ベースでアプローチし、マッチングしたら取り敢えず会って良ければ付き合うというライトな位置付けです。

 情報が溢れかえった結果、採用イベントで出会う学生の中にも「情報が多くてよく分からないのでイベントやインターンなどで縁のあった会社さんから探したいと思います」という声は少なくありませんでした。終身雇用が崩壊したとは言え、履歴書の一行目がそこまでライトで良いのか?とは思います。

 インターンで知ることができる雰囲気は良いところだけですし、スナップショット的なものです。この点はデーティング化する就活事情についての懸念点です。

インターンの社会的な側面:学生の成長

 短期インターンについては私は否定的なのですが、1-2週間クラスを複数経験した学生さんは明らかに成長しているケースが多いです。漠然とプログラミングがしたい人達が本当に手を動かしたり、就活の方針ができ始めたり、視座が上がっていたりします。

 社会人としての気付きが与えられるという点について、インターンは一定の効果があると考えています。ただきっかけを提供できたから入社するとは限らないので注意が必要です。他社も学びのきっかけは同様に提供してきます。

インターンの社会的な側面:アカデミアとビジネスのギャップを埋める

 アカデミアとビジネスには成り立ちが根本的に異なります。小中高大院と続く塔に対し、特に日本の場合は新卒一括採用、一括研修を以って一人前とする線引が存在します。

 ここのところアカリクさんのイベントなどで多くの博士課程の方や博士持ちの方と交流させて頂いております。博士の中でも就活が下手な方(私もそうでしたが)は学部時代に院進を早期に決めたために学部時代に就活をしていないケースが多いです。

 アカデミアとビジネスの成り立ちの違いを知るのが就活であり、その序章がインターンなのだろうと考えます。

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企業側にも学生側にも存在する格差

 インターン関係のニュースで気になるのが下記の記述です。

インターンシップについて、学生が実際に職場で仕事に就く活動と位置づけ、企業も採用選考を視野に入れた評価を行えるようにすべきとの報告書をまとめました。

 ITエンジニアのような専門職について、サマーインターンの時期に採用に向けての評価まで到達できる人材というのは全体の数%なのでは?と感じます。この数%の内訳としては、インターン云々以前から企業に出入りしてプログラミングをしている人達と、一部大学が授業を上げて育成をし、論文をゴリゴリ書いているAI人材界隈だと考えています。

 このインターンを巡る議論が経団連発信ということもありますが、企業にとっても学生にとっても上位数%のための方針になっては居ないかが気掛かりです。

企業にとってインターンは広報かCSRだと思っておくのが良い

 インターンを開催すると当然コストが発生するわけですが、コストを掛けるとなるとKPIを設けたくなるのが企業というものです。勢い「インターン経由でn名採用」などとするわけですが、ことITエンジニア採用、且つ泣く子も黙る業界上位数社などで無い限りは採用への直結は期待しないほうが良いです。

 採用広報と位置付けてインターンを実施するか、冒頭に紹介したような「キャリア教育としての低学年向けインターンシップ」(ITエンジニアの場合はキャリア教育としてのビギナー・ジュニア層向けインターンシップ)としてCSRだと割り切るかしないと、企業にとっては健全な結果にはならないのではと考えています。個人的にクライアントから「採用チャンネルの一環としてサマーインターンを開催する必要があるか?」と質問された場合も上記のような回答をしています。

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