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06 - 失われた星・1

食事の後、私たちはお茶を飲みながら、他愛のない話に夢中になっていました。いつしか話題は私の大好きな宇宙やNASAに移り、できることなら宇宙にも行ってみたい、と冗談まじりに私が口にした時のことです。


それまで静かに部屋の隅で寝そべっていたチョコが、突然すっくと立ち上がり、ウォンウォンウゥ〜ウゥ〜と、吠え唸りながら勢いをつけて、千華さんに走り寄りました。


暫く話に夢中になっていた私たちも、千華さんの足下で吠え止まないチョコに、なんだか様子がおかしいぞ、と気が付きました。ウォンウォンウゥ〜ウゥ〜という抑揚をつけた吠え方に、「普段とは違う鳴き方だわ」とおばちゃんが首を傾げました。「何か、話しかけてるみたい。」


「何か言いたいことでもあるのかな?よしよし、チョコちゃん、ちゃんと聞くからね」と、千華さんは先ほどと同じように、床に座り込んでチョコにグゥーっと顔を寄せて話しかけました。


するとチョコは、しめた!とばかりにウォンウゥ〜ウゥ〜ウォンウゥ〜ウゥ〜と一際高く声をあげて、更に一生懸命に、千華さんに何かを訴え始めました。千華さんはチョコに目線の高さを合わせながら、フンフンと聞き入っています。


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一通り鳴き終えると、チョコは静かになって千華さんをじっとみつめました。その様子はまるで、(私の言うこと、あなたならわかるでしょう?)とでも言っているようでした。


少しの間、千華さんは空を見上げながら、何かを考えているようでした。私たちはそんな彼女を、息をひそめて見守っていました。


(一体、どんな話が飛び出すんだろう。。。?)
千華さんは私たちに向き直ると、驚くことを語り始めました。


「。。。チョコちゃんは、別の過去生で、真由さんと同じ宇宙船に乗っていたことがあるそうです。」


「エー!!」


全く予想していなかった展開に、思わずその場にいた全員が大きな声を上げました。


(宇宙船。。。?!)
私は驚きから、見開いた目を瞬くことも忘れて、体を硬直させたまま、千華さんを凝視しました。


「だから、チョコちゃんも真由さんも、宇宙への望郷心がすごく強いんです」


固唾を飲んで、私たちは千華さんの次の言葉を待ちました。


「過去生での真由さん達の故郷の星は、事情があってもう無いみたいなんです。でも星の仲間みんなでとても大きな宇宙船に乗り込んで、今でも広い宇宙を旅しています。」


それまでのチョコのお姫様だった過去生の話から、一気に宇宙に話題が飛んだために、私は内容を理解するのに少し時間を要しました。


(今でも?宇宙を旅しているって?誰が?)


私は身体中の神経を集中して、続くチョコと千華さんの言葉に耳を傾けました。


「真由さんはその星の女王様だった。チョコちゃんは私たちの女王様に、やっと再会できたっていう喜びを。。。ずっと真由さんに伝えたかったそうです。」


(星の。。。?女王様?私が?)


突然、SF小説のような話を語られて、私はきょとんとしてしまいました。宇宙人が実際にいるということも、宇宙船が宇宙空間を今でも飛んでいるなんていうことも、まるであの有名な映画『スターウォーズ』のあらすじを聞いているようです。


「宇宙船が?今も飛んでいるんですか?その仲間って、まだ生きているんですか?」


咄嗟に千華さんに質問をすると、


「います、います。大勢、沢山の宇宙人が、いまこの瞬間も大きな宇宙船に乗っています。母星はもうないけれど、母船はあります。」


まだこの地球上では宇宙人の存在が証明されていないというのに、千華さんは「宇宙人」という言葉を当たり前のように口にしました。


「真由さんはこの星の代表として、銀河系にある沢山の星々に、様々な役立つ情報を提供していたようですね。」


突如、自分に宇宙人だった過去があると言われて、私は鳩が豆鉄砲をくらったようになりながら、座り込んでいるチョコに視線を移しました。チョコも、そんな私を静かに見上げていました。


するとまた、千華さんが口を開きました。


「NASAや宇宙に興味があるって真由さんは言うけど。。。そんな必要ある?私たちは、すでに宇宙を知っているじゃない?って言っています。」


どうやら、チョコは部屋の隅で寝そべりながら、密かに私たちの話を聞いていたようです。


「NASAが辿り着ける宇宙の、もっとずっと先を、私たちは知ってる。真由さんの今の人生よりも、遥かに長い時間をかけて、私たちは地球を見守ってきた。その地球にやっと来られたのだから、宇宙に思いを馳せるよりも、真由さんにはもっとこの地球を見て欲しい。」


(地球を見ていた。。。長い時間をかけて。。。?)


(。。。誰が?私が?チョコも?どこから?宇宙船から?)


私はちょっと難しいドキュメンタリー動画を見ている時のように、話についていっているようで、いけてないようなポワンとした状態で聞いていました。


つづく。

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