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在沖米軍は「良き隣人」たりうるのか ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(26)

今回はちょっと長文になりました。

うるま市石川を含む沖縄県中部での生活で、在沖米軍について語ることを避けることはできないでしょう。地域を車で走っていると、しばしば上の写真のような金網フェンスの区画に出くわします。米軍基地や米軍関係者の居住地域が、日本の領土とは別の領域として、線引きされているのです。

着任早々に職場の人から「運転に慣れてないなら、前の車がYナンバーだったら気をつけた方がいいよー」とアドバイスを受けました。Yナンバーとは米軍関係者の私用車のこと(ナンバープレートにひらがなではなくYがつくためこう呼ばれます)。万が一接触事故でも起こそうものなら、日本の警察+ミリタリーポリスが来て大事になり、なかなか帰れない。保険会社からの保険金も、時間がかかるし降りるかわからない。そんなことを言われました。

沖縄と米軍基地の話は、イデオロギーや政治の問題になりかねず、観光記事では「青い海と白浜などの自然」「首里城や沖縄そばなどの沖縄文化」に触れるのみでスルーされることが多いと思います(逆に観光ガイドブックで例えば金武町を「アメリカのダウンタウン文化を感じられる町」とか紹介されると、それはそれでドキドキします)。

僕は自分のことを、転勤で一時的に沖縄に暮らす余所者と心得、沖縄生活中に県民に対して自分から基地問題に触れることはありませんでした。ただ、県中部に住んでいたことで、色々な文化風俗に接して考えさせられたり、県民と内地の人の感覚との落差に衝撃を受けたりしたこともあります。

自分の思想信条についてnote上で主張するつもりはありません。ただ今回は、沖縄社会と米軍について、自分が見聞きして考えたこと、感じたことを綴らせてください。普遍的な見解というつもりは毛頭なく、あくまで個人の見解です。

(1)在日米軍の従業員は、高待遇の「準公務員」

米軍基地内には、軍人のほか、さまざまな職種があり、そのうちの一部は現地で採用される日本人によって賄われています。彼ら彼女らは在日米軍従業員と呼ばれ、日本国に雇用されますが、日米地位協定によって使用者は在日米軍となります(これは沖縄以外にある米軍基地も同様です)。

日本の祝日ではなくアメリカの祝日が適用されるなど「国家公務員ではない」のですが、国家公務員に準じるような待遇の良さから、沖縄県内で「基地内で働いている人」の話になると(採用には職種ごとに相応の英語力も必要になることもあり)エリートというかホワイトというか「そんなに働かされない割にお金持ち」の成功者扱いでした。

そうなると一方で、在日米軍従業員に対する県民からの批判や嫌味もちらほら聞きました。曰く「全く大したことない仕事をものすごく辛そう、嫌そうに言ってる」「待遇のありがたみもわからず、何かと上司や職場環境に対する不平不満ばかり」など。

実際に働いている人をあまり知らないので、基地の恩恵を受ける人々に対する単なるやっかみなのか、それとも「甘い待遇」に慣れると人間つい意識が甘ちゃんになってしまうからなのか、僕にはなんとも判断がつきませんでしたが……。

在日米軍従業員の雇用は独立行政法人(通称エルモ)が担っており、以下のサイトのパンフレットにも詳しいです。

ちなみに基地内の飲食店などのアルバイトであれば、在日米軍従業員でない、派遣社員などが担うこともあります。

(2)軍人軍属の家族が、基地外で働くこともある

さて、沖縄県民が基地内で働くのと逆に、アメリカ軍人の家族が基地内ではなく、日本国内側で働いているのを見聞きすることもあります。ただし所得税法の関係で、アメリカ在住者を雇用すると控除額が非常に高く、金銭のためというより何か目的があって働いている人が多い印象です。

僕は軍属のご家族(米軍人の旦那さんと結婚された日本人の方でした)と友人になり、基地内の生活について話を聞くことができました。興味深かったのは例えば「アメリカは自由と平等の国というけれど、米軍内は圧倒的に階級の世界。米軍基地のマンションなどの施設の駐車場は、将校クラス以下、立場によって停めることのできるスペースが厳密に定められている」とか。

また友人のホームパーティの手土産などで折に触れ、基地内でしか販売していないダンキンドーナツや、これぞアメリカン!なピザやパイ(ボリュームだったり着色料だったり)をいただいて、本場アメリカの文化に触れることができるのも貴重な体験でした。(下の写真は、サンクスギビングデーのチキンロースト用の機械です。日本では馴染みがないですよね)

他にも、基地内の住所にはアメリカの州の番地が割り振られており、アメリカのAmazonで物品を購入して沖縄県内の基地内住所宛に受け取るときは、アメリカ国内の配送扱いになるという話もびっくりでした(ただしこれを悪用して基地外の人間がアメリカのAmazonで購入したものを基地内の友人経由で受け取ると、関税を払っていないため法に触れます)。

(3)アメリカ軍人は、県内各所で割と見かける

在日米軍は、先ほどあげたエルモのサイトにもありますが、陸軍(アーミー)・海軍(ネイビー)・空軍(エアフォース)・海兵隊(マリーン)に分かれます。エアフォースが最もエリートで(県内では読谷村のトリイステーションなどに展開)、有事の際に最前線の戦闘に真っ先に投入されるマリーンが、最も荒くれ者(県内では金武町のキャンプハンセンなど)のイメージがあります。

(2)で言及したご家族に招待されて、サンクスギビングデーにお邪魔したときには、同様に招待されていたマリーンたち(ご主人の部下)と一緒になりました。年端も行かぬ白人や黒人の若者たちで、「こんな若者が軍隊にいるのか」と衝撃を受けたものです。彼らはその招待された家のテレビゲーム(ガンシューティングゲームで、ゲームの中でも銃撃するんだ……と正直思った)に夢中で、しかしみんなで食事前に手を取り合って神に感謝するときには、しおらしいキリスト教徒の一面も垣間見ました。

石川の行きつけのバーで席が同じになったマリーンのおじさんは「金武町から飲みに来てるんだ」と英語で気さくに話しかけてくれました。北中城村の巨大ショッピングモール、ライカムで集団で騒いでいたマリーンらしき若者たちは、一緒にいた英語がわかる知人曰く、日本人に対する侮蔑の言葉を吐き散らしながら、たむろっていたそうです。(米軍に入隊する若者の中には、アジアの辺境でモテモテだと思い、自意識を膨らまして沖縄にやってくる者も少なくないとか)

このように、僕が観測した範囲では、沖縄で接することのあった米軍人には色々いました。でもそれは日本人であろうが、軍人以外のアメリカ人であろうが、同じですよね。

(4)社会に溶け込んでいる≠許容している


沖縄の新聞では、米軍や軍属による痛ましい事件・犯罪が起こる度に大きく報道されます。自治体の長や議会が、政府や防衛省、在沖米軍に抗議し、その度に謝罪や遺憾の意は示されるものの、抜本的な基地問題の進展(地位協定の改定など)には繋がりません。

僕はナイチャーではありますが「準公務員みたいな待遇の良さがあるから」「基地関係の人を社会に受け入れて経済が回っているなら」→「沖縄は基地のおかげで経済が回っている、経済的に恵まれている。基地反対なんて文句を言うな、本当は基地がないと困るだろう」……などと、短絡的に結論づけられることには怒りを覚えます。

沖縄の人たちに「在沖米軍基地に賛成か反対か」と聞くと、返ってくる答えは人それぞれだと思います(身近にも「反対はしないよ」という人も一定数いました)。ただいずれにせよ、それぞれの思いと、目の前にいる米軍基地関係者という生身の人間とどういう関係を築くかという個別の話は、まったく別です。

各々の思想信条とは別に「在沖米軍が駐留している」という現実を前提に、今日も沖縄社会は回っています。

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