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【ネタバレあり】映画『竜とそばかすの姫』を観た

観た。

時かけとサマウォは好きだけどおおかみこどもがしっくり来なくて遠ざかってしまった細田守監督作品だけど、完全にCV成田凌に釣られた。釣られたけど後悔はしていない。断言しよう。これはスクリーンで観るべき。

なぜなら……
(途中までネタバレなしです)

1. millennium parade×Belle(中村佳穂)が本当にヤバい。あと映像もヤバい。

常田大希はもちろんヤバいし完全に自分のものにして乗りこなす中村佳穂もヤバい。スター不在と言われ冷遇されてきた92年生まれの人類を代表するスターが間違いなくここに存在した。こっちが生きているのが恥ずかしくなるのでちょっと勘弁してほしい。

とにもかくにもこの作品の醍醐味はオープニングである

こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、たぶんテンションの頂点はオープニングの色彩美MAXの映像と『U』という楽曲。オープニングでたっぷりこの音楽と映像を浴びるためにもう1回観に行ってもいいなと思うくらい素晴らしかった。

ベルが歌うたびに冗談抜きで鳥肌が立つ。次に観るときは何回鳥肌立つか数えようと思う。

IMAXの劇場が近くにある方はぜひ音響のいいIMAXで。私は近くになかったのでせめて近場で一番大きなスクリーンのどセンターで観た。正解。

2. 「えぇ……声優じゃないじゃん」を裏切る程度にキャストが芸達者でヤバい。

一番びっくりしたのがYOASOBIボーカルのikuraちゃんこと幾田りら。すずの親友役というポジションでよく喋る女の子。すごく上手いな〜声優経験あるのかな〜と思っていたら演技は初めてというから本当に驚いた。

ikuraちゃんをキャスティングしているから歌うのかなと思いきや、まさかの歌わないのかいっ!!!

そしてエンドロールで仰天した豪華すぎる合唱団の面々。とりあえずリンク貼っておく。

3. しのぶくん(CV成田凌)がヤバい。

ここで私が映画を見終えた後の第一声を確認してみましょう。

主人公の幼馴染というのはやはり強い。しのぶくん登場まで結構焦らされた甲斐がありました。

こちらからは以上です。


さてここからはネタバレ気にせず書き殴ります。おそらく難しい考察はセンスのいい人たちがたくさんあげてくれると思うので好き勝手に書かせていただきます。


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SNS界の『美女と野獣』というかまんま『美女と野獣』

これはどこかの記事にも書いてあったから特にネタバレではないか。

中盤に「あれ? 私は『美女と野獣』を見に来たんだっけ?」と確認してしまうほどびっくりするくらい美女と野獣だった。要素としてちりばめられているというよりはまんま美女と野獣。

隠された暗い城、竜の"醜い"ビジュアル、竜の暴力性、ガストン的な自警団、バラの花、主人を恐れながらも慕っている召使い(?)たち、心を閉ざした竜、突如生まれるLOVE(どんな意味かはさておき)、ダンスホール、正装で踊る竜とベル、正義の名のもとに破壊される城……

いやまんまなのよ。キャラデザも相まってディズニーよ。オマージュってなんだっけ。

竜とベルの「好き」はお互いの傷ついたところを慰め合うような「好き」であって、愛だの恋だのではないと思った。しかしここで引用されるのはラブストーリーの金字塔ともいえる『美女と野獣』。むむ。

最後のアレは本当に救いになっているのか

竜の正体に気付いたすずが彼らを助けに向かうけれども……。児童虐待を取り上げるならそこはもう少し彼らの救いになる部分を描いてもよかったのではないかしら。女子高生が父親の暴力に無言の訴えで立ち向かい解決する、のはさすがに無理がある。

「あなたを見守っているよ」とメッセージを送り続ける人が居場所のない彼らにとっては必要だったんだろうな。すずにとってのしのぶくんみたいに。

しのぶくんの不思議

流川……じゃなくてモテモテバスケ男子のしのぶくん、多くを語らない系男子なのでそもそも謎だらけ。映画観た後に「しのぶくんとは何か」について2時間くらいぐるぐる考えた。

・しのぶくんのAsは登場しない。あの端末も身につけていない。Uをやっていないらしい?
・だとしたらしのぶくんはどうやってベルのことを把握していた?
・スパダリ? 執着系? オカン?
・あなたはもしかして……聖司くん(耳すま)……?
・しのぶくんUやってないと見せかけてクジラ説(胸熱)
・しのぶくん検索魔説(防災無線からの場所特定がプロの手捌き)(SNSやらないイケメンだけど検索魔)
・モテすぎ(まあ成田凌だから……)
・「大丈夫?」「何かあった?」「言ってみ?」からの崖から突き落とすドS男子高校生
・頭ぽん………
・しのぶくん→→→→→←すず
・と見せかけてオカン解任宣言のため一旦リセット
・しのぶくんとは何だったのか

しのぶくんはようやくひとりの男としてすずと向き合えるようになったので、ここから始まるLOVEはあると信じています(信じています)。がんばれすず。

「主役」と「モブ」の輪、そして「欠けたもの」

たぶんここだけ真面目に書く。

作品の中に絶対的な主役を取り巻く多数のモブ、という形が繰り返し登場する。「U」の世界で圧倒的人気を獲得した歌姫ベルを中心に、幾数多のモブが輪(円形のドーム)を作る。一方、現実世界ではルカちゃんやしのぶくんが学校の中心(中庭)にいて、すずはそれをモブの一人として中庭をぐるりと囲む校舎から見下ろしている。

この主役が中心にいる構図は見せかけ、というか一面的なものであることが、作中何度も強調されていた。

たとえば学校のアイドル的存在ルカちゃんが好きなのはモテモテしのぶくんではなくカミシン。どちらかといえばモブに近いカミシン。カミシンの隣に立つルカちゃんは「主役」であり「モブ」でもあった。

そして象徴的なのがクライマックスのベルの歌唱シーン。ベルを取り巻くモブたち一人ひとりに火が灯され、それぞれが「主役」でありその集合体が「モブ」であることが可視化される。

我々の世界のSNSでも少数の人気者の周りにたくさんのモブが集まっている。何万という「いいね」や「リツイート」されていわゆる「バズる」状態になると、あたかもそれが世界の中心であるように感じられるが、その中心は世界にいくつも散らばっていて、またそのモブたちも何らかの中心であり……フラクタル構造のようにして成り立っている。

あくまでモブを作り上げているのは「個」である。そしてまた主役も「個」である。

主役を取り巻くモブの輪は完成されているように思われるが、この作品で忘れてはならないのが「欠けたもの」。すずが使うピンクのマグカップは口が欠けている。片方の前足を失った飼い犬。母親。三日月。完全な円になりきれない「U」の文字。円形のドームでベルのライブが開催されたとき、その裂け目から竜がやってきて輪は乱された。輪になりきれなかった。

「U」を作った人たちは「U」の中には何でもあると主張するが、人々は「As」の仮面をつけた仮想現実の世界でも妬み嫉み恨み格差その他もろもろ現実世界と変わらない感情を持って振る舞い、秩序は乱されていく。やがて正義を叫び力を振りかざす自衛団のような組織ができていくが、それは世間的に正しいことからはじき出された者たちを晒し上げる見せしめのショーのようなものである。

ここまでの間「U」を作った人たちは特に何もしない。姿も見せない。「U」の世界の住人たちが勝手にやっている、ということだ。

話は逸れるが、ここで思い出したのがつい先日「100分 de 名著」で紹介されていた『華氏451度』。「U」の世界観とすごく近いものがある。『華氏451度』は感情を乱す本が焼かれ、人々は「巻貝」と呼ぶイヤホンのようなものを耳につけてテレビの前に座り仮想現実の世界で家族ごっこをして、現実よりもそっちの世界が本当になっていく。それから人々は誰に言われたわけでもなく勝手に考えることを放棄する。「U」も行き着く先はこのディストピアではないだろうか。

本題に戻ると、人々は何かしら「欠けたもの」を抱えて生きている。ただそれはやみくもに悲観すべきものではなく、欠けたものを共有し支え合うことで人間は生きていけるということだ。母親を亡くしたすずを見守ってきたしのぶくん。前足を失くした犬を世話するすず。竜の孤独に気付いて救おうとしたベル(=すず)。その欠落を支えるのは仮面に隠されたモブではなく、素顔の「個」である。

ちなみにこのnoteも匿名で書いているので偉そうなことは言えないけれど、映画ではしのぶくんが「素顔でなければ信頼されない」とばっさり言い切る。匿名である限りおそらく私たちはモブであり続けるだろう(それがいいか悪いかは別問題だが)。

終わりに

いろいろ好き勝手に書いたけれど、とりあえず映画館で中村佳穂の歌を聴くべき。

以上です。

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