見出し画像

映画「窮鼠はチーズの夢を見る」を観たら1駅分歩くはめになった

久しぶりに映画館に行き「窮鼠はチーズの夢を見る」を観た。

観終わって映画館を出た後、私は何だか猛烈にイライラしていた。何に対してなのかは全く分からない。でもすごく腹が立っていた。

誤解を招くといけないから書いておくと、映画はよかった。

空っぽでスカスカな乾いた砂地みたいな大伴恭一(大倉忠義)としっとりと潤んだ目で流れ込んでくる今ヶ瀬渉(成田凌)の常に不安定なシーソーみたいな関係(あの2人はきっとこの後も同じことを何度も繰り返すと思う)はとても説得力があったし、映像も音も静かで美しい。

BL漫画が原作ということで、おそるおそる観た濡れ場もきれいなだけでは終わらない生々しい質感があり、久しぶりに「あー映画観たー!」という疲労感があった(それにしてもレイティングはR15+で大丈夫なんだろうか)。

たしかに大伴はクールなフリしてとんでもない流され侍で空虚なクズでもはやサイコだったし、今ヶ瀬は全力で健気だけど拗らせたメンヘラだし、今ヶ瀬と対決する夏生の台詞は本気でイラっとする(対決シーンがめっちゃくちゃに好き。大伴がカールスバーグ注文したときの今ヶ瀬の笑いと夏生の焦った声……。最高)。でも、彼らは何というか人間臭くて、映画が終わった後、彼らに対してイライラしたわけではなかった。

とにかくこのまま電車に乗って帰る気分にならなかったので、仕方なく1駅分歩くことにした。

平日の午後。人出はまずまずで、ガラガラとまではいかないけれど人にぶつかるほどではない。私はイライラ気分のまま歩を進める。腹が立っていると自然と早歩きになる。そんな調子で歩いていたら都内の地下鉄1駅なんてあっという間だ。10分くらいで着いてしまう。

如何ともし難い気持ちで駅ビルに入ってぐるりと巡り、遠回りをして地下鉄の改札に向かう。この辺りでようやくざわざわした気持ちが治ってきた。なんとなく、分かってきた。これは嫉妬だ。

いま猛烈に、成田凌という俳優に嫉妬している。

はあ?って思われるだろうけれどこれは至って大真面目である。私、画面の向こう側の自分よりも1つ年下の男の人に嫉妬するなんて思わなかった。だって本当に本当に、完璧だったのだ。才能のかたまりだと思った。

常にうるうるしっとりした目で大伴を見つめ、その目が好きと嫉妬と哀しみと怒りと欲情と、全部を語る。彼の佇まいも仕草も色気を纏った振る舞いも声も。どこにそんな引き出しがあるの?その身体を通して役を演じるのが役者なのだからできるのは当然なのかもしれないけれど。知らんけど。

それにしたって、私はそのうちの何ひとつ知らないし持っていない。狡い。何というか、生き物としての敗北を感じた。ものすごく意味がわからないことを言っているけれど、とにかくこれは嫉妬だ。

とりあえず、ようやくこの気持ちにラベリングできて少しホッとした。凄まじい才能に出会うと人間は嫉妬するものなのだな、と。このままじゃ成田凌の他の作品が直視できなくなるところだった。危ない危ない。

さて、ここで気づいたことがある。

ここは沼の岸辺ではなかろうか。

(というかすでに片足突っ込んでない?「アンサングシンデレラ」の小野塚役のときから薄々そうなる予感はしていたけれど。)

観念してこれからも成田凌を応援しようと思う。



追伸

原作「窮鼠はチーズの夢を見る」の大伴はそこまでサイコ野郎じゃなかった。

ブログに詳しい感想も書きました。


この記事が参加している募集

もしよかったら「スキ」をぽちっとしていただけると励みになります(アカウントをお持ちでなくても押せます)。 いただいたサポートは他の方へのサポート、もしくはちょっと頑張りたいときのおやつ代にさせていただきます。