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例えばアンティークを愛でてみる#2

前回はアンティーク服のステッチについて愛でさせていただきました。  そして私にはもう1つ、「萌え」ポイントがあります。(服に対して萌えという感情をもう少しかみ砕くと、その服を手にした時 体の中の何にも臓器が無さそうなところがぞわぞわとして言葉にならない心の声が出てしまう感じです。)

萌えるギャザー

▲萌えるギャザー

それがこちらのギャザー部分。ほとんどが1点物のハンドメイドなのでもちろん個体差はございますが、もう本当に恐ろしいくらい繊細で力強く美しい物に多々出会うことができます。

こんな芸術的なギャザーを私も寄せたくて、何度も試しましたがこれもまた難しい。手法としてはおそらく今も昔も変わらないかと思います。縫う前に本体生地をミシンか手縫いで先にギャザーを寄せておくのですが、この点においてはミシンと手縫いでさほど違いは無く、手縫いの方がよりイメージに近づけやすいかなという感じです。(楽ちんなのは断然ミシン)

「イメージ」というのは、立体的かつ均等であるということです。これは意識しなければ出来ないことで、通常の量産服を縫製工場に依頼した際には十分な指示と注意が必要ですし、縫製工場のレベルが問われる部分です。そして問題はこの後で、せっかくきれいにギャザーを仮寄せしても、地縫い(他の生地と縫い合わす)の時点で必ず山がつぶれてしまうのです。

これが本当に、どうするのか分からない。(すいません) 少しだけ分かったことは、生地のハリ感が必要だということ。ハリ感というのは、簡単に表現すると"固さ”のようなことで、厚みとは異なります。当時の生地はたいていがリネンですので、どれだけ薄い生地でもある程度のハリ感があります。

「薄い生地でハリ感のあるリネン(晒)」これは今となっては高級な生地の部類に入ります。生地が薄いという事は生成している糸が細いということ、そして細い糸で固さを出すには密度が必要ですので糸をいっぱい使います。更に、天然素材ですので合成繊維に比べて原料は高いですし、当時のような良いクオリティのリネンともなれば現在ではハイクラスの物になります。他にも細かい事を言えばたくさんあるのですが、「いい糸をいっぱい使ってる」から現在では生地としても貴重だという事です。

ギャザーの話に戻りますが、このハリ感がないとどうしても地縫いステッチの力に負けて山がつぶれてしまいます。山が立ってこないのです。当時の物でも、コットンの柔らかい物はギャザーという点において萌えません。(個人の感想です)

萌えない

▲萌えないギャザー(コットン。ピッチも粗め)

そしてやはりここでも、ステッチなのです。ギャザーの山を邪魔しないピッチで縫う必要があるのです。少なくとも普通のピッチでは山を潰してしまいました。当時の縫い手の方が、どこまで意図的だったのかは定かではありません。当時の色々な条件で自然とこうなっていたのかもしれません。   しかしたまに、ギャザーの部分だけ手縫いになっているものを見ます…もしかしたら、ミシンだと縫いにくいから手縫いなだけかもしれませんが、  仮に当時の人がこのギャザーに対してこだわりがあったからだと想像すると、美しいと感じる気持ちは時代も国も超えてしっかりと共感できるのだと思えます。

長くなってしまいましたが、ステッチ・生地・ディティールのどれもが重要な役割を果たして、1着の服に価値を与えているということを分かっていただけたなら嬉しく思います。

そしてそれは、現代でも変わらず、街中に溢れる服の中で、誰かの心に留まる為にはいくつもの条件が必要だということ、それをデザインと呼ぶのだと思っています。

「かわいい」にはちゃんと理由があります。

fin

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