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コロナ禍がもたらした変化 -Maggie’s Tokyo Ep.3-

前回記事:Being Imaginative and Creative-Maggie’s Tokyo Ep.2-

がん患者やその家族、近しい人々が疲れ切ってしまった時、羽を休めに訪れるサンクチュアリ。マギーズ・センターは、病院でも自宅でもない「第二の我が家」をコンセプトとしている。訪れた人々は少し非日常的で素敵な空間に身を置き、心を落ち着け、スタッフとの対話により頭と心を整理する。マギーズは、がんとともに生きて行くための様々なサポートを無料で提供する英国発祥のキャンサー・ケアリング・センターだ。

Photo by Önder Örtel on Unsplash

マギーズ・センターの理念として環境や空間はとても大切な要素である。人々を迎え入れてその環境や空間を体感してもらうこと自体に大きな意味があるが、約2年続くコロナ禍の影響で人々が気軽に来訪することが難しい状況が続いている。第1回目の緊急事態宣言時にはマギーズ東京は2か月間閉館したが、電話やZoomなどオンラインの活動は行っていた。その後開館はしても予約制とするなど、感染予防して密にならないようにコントロールしながら対面の活動も続けてきた。現在も予約で対面の活動を継続し、コロナ禍以前の入場者数に近づきつつあるそうだ。

コロナ禍になり突然オンラインの活動を始めたわけではなく、それ以前からオンラインの活動の準備を進めてはいたものの、コロナ禍で一気にオンラインの活動を促進させた。現在は全国から電話やオンラインで対面して話をしたり、様々なプログラムを行っている。ただオンラインの活動を充実させるだけではなく、どのようにリアルの活動を戻していくかについて、国際会議でも議論しているという。リアルとオンラインを安直にハイブリッドにすると、業務が増えた分だけスタッフが対応に追われて注意散漫になるため、オンラインでのプログラムは残しつつ、新しい来訪者のグループをリアルで作っていく。例えば「ノルディック・ウォーキング」というスキーのストックを両手に持ち、それを付きながら散策するような屋外活動は、換気がよくリアルに戻しやすい。自宅でもできるオンラインプログラムも考案されているという。オンラインの良さを残しつつ、リアルに戻すにはどうするかが課題であり、検討されている。例えばコロナ禍以降メールや電話での問い合わせや予約などが増えているため、スタッフ1名はリモートで自宅から仕事をすることで、マギーズ東京の現場で働くスタッフの負担を減らす工夫が取り入れられている。

マギーズ東京はいくつかのがん専門病院が近接した場所に立地しているが、その一つ、がん研有明病院には日本全国から患者が集まるため、コロナ禍以前よりマギーズ東京には遠方からの利用者もいたという。しかし遠方から来訪できない場合は、オンラインは良い選択肢の一つとなっている。コロナ禍で活動が制限される一方、充実したオンラインプログラムの展開が後押しされることとなり、これまで以上に全国から人々が参加しやすい環境が整備された。

一人ひとりと向き合うことを重視したプログラム

Photo by Jackson David on Unsplash

世界各地のマギーズ・センターで開催されているプログラムは英国のプログラムを踏襲している。通常なら毎年もしくは2年に1度、季節の良い時期にマギーズ・キャンサー・ケアリング・センター国際ネットワークの総会が英国で開催されるが、現在はコロナのためオンラインで開催している。総会では、各地の運営状況やプログラムの実施状況といった情報を共有する。世界中のマギーズ・センターで共通したプログラムを実施することで、来訪者はどのマギーズ・センターでも一定のクオリティが担保されたプログラムを受けることができる。

マギーズ東京を訪れる人の割合は女性が8割、男性は2割。英国各地にあるマギーズ・センターへの来訪者の男女比もだいたい同じなのだという。

「男性は相談するという行為が、自身の弱みを見せるような感覚がありなかなか気軽には来ません。男性は最初に敷居をまたぐことに対してハードルを感じる方が多いのです。」と秋山さん。

男性は何か一つテーマ性のある、または目的が明確なイベントには参加するそうだ。一方女性は相談をすること自体にためらいがなく、ただ単に話しをすることを目的に来訪するという男女の特性の違いが見受けられる。

ただ男性は一旦そのハードルを乗り越えるとリピート率は高いそうだ。このような性差による特性を考慮して、がんを患う当事者同士が話しをしやすいように男性のみ参加できるグループ・プログラムや、再発転移した人のグループ、また病状ごとに分けたグループ・プログラムもある。このように同じような体験をした人が集うことに意味がある。自身が体験したことを話し、同じように大変な状況でも頑張っている人がいる、自分一人が苦しんでいるわけではないのだと感じられるという。状況を同じくする他者からの共感は、心を開くためには大切なプロセスだ。

1996年、マギーが入院していたスコットランド エジンバラの病院敷地内に英国のマギーズ・センター第一号を設立するにあたり、当初はがん治療やホスピス先進国の米国でがん緩和ケアプログラムの研修を受けたという。しかし米国の医療はマニュアルが確立したプログラムがあり、効率を重視する傾向がある。その一方、英国の医療はそれぞれの人間性を重視しているようだ。また、これは都市伝説なのかもしれないが、スコットランドのように英国北部の人は口が重いという特徴もしばしば聞かれることである。日本でも東北の人は口数が少ないとよく言われるように、北国の人間はその厳しい気候風土が人間性を育てるのか、なかなか本音を吐露しない我慢強い特性がある。そのためか、英国はスコットランドで誕生したマギーズ・センターは、決して急かさず話を傾聴するという姿勢を、とても大切に考えることからスタートしたという。

つまり、プログラムの内容も重要だが個人をとても大切にして、まずはゆっくり話しを聞く。来訪者が自らで考えを整理できるように一人一人と向き合って対話することを重要視しているのだ。

世界各地で新設されるマギーズ・センターは、亡くなったマギーの夫チャールズの代わりにマギーの娘のリリー(造園家)、マギーの元担当看護師で現在はマギーズ・センターCEOのローラ・リー、マギーの子供の頃からの親友のマーサにより審査される。新しい拠点の立地条件、どのようなかたちで寄付が集まり、どのような建物を設計しようとしているのか、また室内の調度品や食器のしつらえも含め、「マギーならどうするか?」という視点で細部まで選定されている。このようにマギーの意志を受け継ぐ近しい人々の細やかな評価や審査により、世界中の拠点における空間やプログラムにおいてマギーズらしさが保たれているのだ。

取材協力:マギーズ東京

Special Thanks: Masako Akiyama

Illustration: Dayoung Cho

Text & Photo: Riko

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