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【小説】資産家福山翁vs国税の平山さん【読み切り】1500字

#私の作品紹介

「国なんてかっぱらいやんか。」
古希を迎えた福山文雄ふくやまふみお忌々いまいましそうに呟いた。

そして首を振りながら
わっはっは!
と笑い出し
「むざむざ取られるほど私は甘くない。」
と高揚した様子を隠せずにいた。

彼は巨万の富を祖父と父から受け継ぎ、複数のビルを建てて賃貸料で稼いでいる。
そして巨大な農地を買って柿も植えた柿農家でもある。
なぜ農業を?と思うだろう。土に触れることで心を癒したいのではない。
農地は相続税が軽いのである。
果樹なら大して手入れしなくても勝手に実る。
つまり三人の息子と娘が可愛い。

■純金の仏像


高さ2m

とある秋の日のことである。
玄関のチャイムが鳴った。
「国税庁から来た平山と申します。福山さん初めまして。お宅に上がっていいですか?いやならお断りされてかまいません。申告の件で一つお聞きしたいことがあるだけです」

若くて長身で目つきが鋭い。早口で精悍せいかんなタイプ。テレビに出る刑事みたいな男だ。
後で変に踏み込まれても気分が悪い、と考え家の中に通すことにした。

「いったいなに?あがりなさいどうぞ」

そして
「お客様だ。紅茶でも何かお出ししなさい!」
と奥へ向かって指図した。

応接間に向かいながら平山に対してにこやかに話しかけた。
「柿や桃は好きですか?好青年そうなのでぜひキミに食べきれないほど上げたい」
「ありがとうございます。福山さん、見事な果樹園でした。あの投げやりな感じがお見事。もう拝見させていただいています」

「ん? 何か問題でも?」
「なにもありません。土の匂いのする素朴なお人柄がしのばれてほっこりしました」

(なんだこいつは?)

二人の紅茶と柿が大きく盛られたソファーで二人は向かい合った。

平山は深呼吸の後、大きな声で早口で言った。
「1点だけなんです。申告に書かれていた【五億円の仏像、守護神代】です」

「台湾の先生の指導に従い特注したよ。おかげさまで心の安らぎを得ている」と福山翁は言った。

「普通金箔ですよね?純金ですか?。こんなに大きいのも珍しいし」

「私もそう思った。でも導師がそうしろというのでね。本当の信仰心は形を伴う」と文雄は柿を食べながら言った。

とぼけている自覚は福山には当然あるがこの雄弁な国税官の平山もさすがに言葉を失った。

沈黙の後で平山は切り出した。「なんてお名前の導師さんですか?」

福山は紅茶と柿を同時に口に入れて言った。
「台北に行くの?信仰したいなら長い話をしていいけど?」

平山も 失礼、ありがたく、と柿に手を付けた。
「ところで福山さん、あの申告を拝見しましたが柿と桃 売り上げが立っていませんね」
「宗教上の理由で売らずに人にあげている。導師の謝先生にそうしろと言われたからね」

平山は今度はゆっくりと話し出した。

柿や桃の木の下にお札の詰まった金庫が掘り隠されていませんよね?

「私をどういう人と思っているの?福山家の今後は御仏や守護神の心にかかっている。神仏はみんなお見通し。そんなこそこそと。変な隠し事なんかできないよ。不謹慎だよ。それにお札が新札に切り替わるし」

平山は薄笑いを浮かべていった。
最後の一言でその線はないとわかりました」


福山は続けた。
「平山さんは御仏の世界を知らないんだなぁ。金箔より純金がいいし、小さいものより大きいものが良い。出すもの出さないと誠が神仏に伝わらないの!パワーが違う!家運も違う!」

「はぁ」

「そうなんだよ!帳簿に資産と書くのが不本意だよ。“仏具”だよ仏具

。。。

平山は紅茶をすすり、意外な独白を始めた。

「福山さん、めったに人に話しませんが私は神仏方面の才能があるんです。」
そして、
「純金の守護神のメーッセージが聞こえました」

「ほ?」

「福山さん、よく聞いてください。神仏いわく、私を主宰神にして教祖は台湾の謝にしろ。宗教団体を作れ。そうして柿と桃と仏法を人々に施しなさい」

「うわ」

「それが福山家の使命なのだそうです。ところで、」

「なんですか?平山さん。。。ところでなに?」

福山はまた柿をかじった。

「声をひそめた神様は。宗教団体所有の仏具にしたら相続の時に課税逃れできるぞよ、とのことです」

「ああ!そんなこともあるのか!」と資産家の福山は甲高い大声を上げた。

「なにが ああ! ですか福山さん?」

「神仏の智慧は海底よりも深く霊験は思わぬところにあるんだな。さすが純金!」

不動産王兼農業の福山は巨大な純金の仏像を見やり、そして深々と拝んだ。

(了)

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